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弘法大師御誕生1250年[第75番札所] 善通寺の魅力に迫る 弘法大師御誕生1250年[第75番札所] 善通寺の魅力に迫る
観光シーズンやイベント開催などに合わせて、ライトアップされる善通寺五重塔。
カメラ愛好家らの被写体としても人気

774年(宝亀5)に讃岐国多度郡屏風浦(現在の香川県善通寺市)で生まれたとされている弘法大師。幼い頃から学問に秀でており、世のため、人のために身を捧げたいと20歳で出家、2年後から空海と名乗った。やがて唐(中国)の名僧に弟子入りしたいとの思いを募らせて、804年(延暦23)に遣唐使とともに海を渡った。帰国後は真言密教の教えを広めるために全国を行脚。42歳の時に四国を遍歴し、各地に寺院やお堂を建立した。そうした弘法大師ゆかりの88の札所を巡るのが四国遍路だ。

今年は、弘法大師御誕生1250年の節目。全国の弘法大師ゆかりの寺院では、さまざまな行事が予定されている。弘法大師の誕生地である第75番札所善通寺(以下:善通寺)でも、4月23日から6月15日まで「弘法大師御誕生1250年祭」が開催される。そこで、弘法大師の原点ともいえるこの寺を訪ねて、その魅力を探った。

[西院] 誕生院
弘法大師の原点の地 誕生院の御影堂(みえどう)

善通寺は弘法大師の生家跡に建立された誕生院(西院)と、伽藍(東院)の二院から構成されている。真言宗善通寺派の総本山であり、約4万5,000㎡の寺域にはたくさんの見所がある。「善通寺は、国の重要文化財や登録有形文化財を多く有した歴史的な施設でもあります。香川県を訪れた人が、観光の途中に足を運ばれることも珍しくありません」と話すのは、善通寺の広報を担当する中嶋孝謙さん。

誕生院では、仁王門と御影堂(大師堂)、護摩(ごま)堂、ほやけ地蔵堂など多数が国の登録有形文化財となっている。弘法大師が生まれた佐伯家の邸宅跡に位置する現在の御影堂は、1831年(天保2)に建立された。奥殿の厨子(ずし)内には秘仏・瞬目大師(めひきだいし)像が祀られている。また厨子前には木造の弘法大師像と四天王像、幼少期の弘法大師の姿を現した稚児大師像、弘法大師の父・佐伯善通(よしみち)、母・玉寄御前(たまよりごぜん)の像も安置されている。

「御影堂の地下には、約100mの通路があり、これを巡る『戒壇めぐり』は、誰もができる精神修養の道場。真っ暗な通路の壁には仏様が描かれています」と中嶋さん。それぞれの仏様と縁を結んだ後に行き着くのは、『戒壇めぐり』の中心にある玉寄御前の部屋があったとされる場所の真下。暗闇で煩悩を打ち払い、あるいは自分自身を見つめ直しながら弘法大師の原点ともいえる場所へ向かうことで、すっきりと晴れやかな気持ちになる人も多いそうだ。

秘仏・瞬目大師像の正式なご開帳は50年に一度で、「弘法大師御誕生1250年祭」では特別にご開帳される。この像は弘法大師が唐に渡る際、別れを嘆く玉寄御前のために、月明かりで池の水面に映った自らの姿を描き残したものと伝えられている。鎌倉時代に土御門(つちみかど)天皇が叡覧(えいらん)された際、像が瞬きをしたことから、この名で呼ばれるようになったという逸話も残されている。

金剛力士像
金剛力士(仁王)像は南北朝時代・1370年(応安3)の作。右が阿形像、左が吽形像
仁王門(東側)
仁王門は1889年(明治22)に再建された
仁王門(西側)
門の反対側(西側)には大わらじが奉安されている
ほやけ地蔵堂
子どもの頬やけ(あざや火傷の痕)の治癒にご利益があったことから、あざや病気の平癒に信仰を集めているお地蔵さま
御影堂
御影堂・内陣
御影とは、祖師やその姿を指す言葉。秘仏・瞬目大師像を祀っていることから、この堂は大師堂ではなく御影堂と呼ばれている
戒壇めぐり
御影堂の地下にある戒壇めぐり。朝勤行の時間から16時30分まで受け付けている
御影池
佐伯家の庭にあった御影池。入唐前の弘法大師が秘仏・瞬目大師像を描くとき、自身の姿をここに映したとされる。修行大師像と両親の像が、弥勒菩薩坐像を取り囲んでいる
産湯井(うぶゆい)
弘法大師が誕生した際に用いられた産湯井。戒壇めぐり、宝物館とともに拝観可能
護摩堂
不動明王を祀る護摩堂。正面の護摩壇では護摩木を焼いて祈祷する護摩の修法が行われている
弘法大師 御誕生1250年祭
次の御開帳は2035年!
御影堂秘仏本尊 瞬目大師像 特別御開帳
期間 4月23日(日)〜6月15日(木)
時間 9:00〜17:00(受付は〜16:30)
内容 瞬目大師拝観、戒壇めぐり、宝物館「チベット密教展」、寺宝物名品展観覧
拝観料 大学生以上2,000円
URL https://birth1250.zentsuji.com
[東院] 伽藍
金堂と五重塔 2つの重要文化財がある東院

東院は、唐から帰ってきた弘法大師が、807年(大同2)から6年の歳月を費やして建立した創建時以来の寺域。密教を学んだ唐・長安にあった、青龍寺(しょうりゅうじ)の伽藍を模したと伝えられている。東院には金堂(本堂)と五重塔の2つの国の重要文化財がある。創建時の金堂は1558年(永禄元)の兵火によって焼失し、現在の建物は1699年(元禄12)に再建された。一重裳階(ひとえもこし)付入母屋造の本瓦葺きの建物は、正面や両側面に火灯窓(かとうまど)が配され、上部には連子欄間が施されている。こうした意匠は鎌倉時代に禅宗とともに輸入された禅宗様という建築技法の特徴。華美ではないが威厳を感じさせる。

御本尊の薬師如来坐像は北川運長の作。「目にはめ込まれた水晶が光を宿しており、生気に満ちた表情となっているのが特徴です」と中嶋さん。

高さ約43mの五重塔は、国内の木造塔としては3番目の高さ。創建以来何度も倒壊や焼失に見舞われており、現在の塔は1902年(明治35)に完成した四代目。塔の中には5つの仏像が安置されており、心柱を囲む1階の4仏は拝観可能。5階の厨子内にある中尊大日如来のみ非公開だ。

この塔には2つの大きな特徴がある。1つはすべての階の天井が、人が立って歩けるほどの高さを有していること。木造多層塔では例を見ない構造だ。

もう1つは懸垂(けんすい)工法という構造。中心の心柱は、基礎の礎石から浮いており、屋根裏で鎖により吊り下げられている。心柱は周りの部材とは繋がっておらず、構造上、どのような役割を果たしているのかは分かっていないという。

毎年、ゴールデンウィークには1階と2階の内部が特別公開される。4仏や心柱が礎石から浮いている状態も確認できる。加えて五重塔のライトアップも開催(4月1日〜6月30日、10月1日〜翌年1月3日を予定)され、幻想的な五重塔の姿を眺めることができる。

南大門
1908年(明治41)に日露戦争の戦勝を記念して再建された南大門。高麗(こうらい)門という形式で造られており、国の登録有形文化財
大楠
南大門北と五社明神社の傍にある2株の楠は、いずれも樹齢千年以上。うち1株は弘法大師が幼少の頃よりあったといわれている
龍王社
金堂西側の池の中州に建つ龍王社の祠。江戸時代まではここで雨乞いの祈願が行われていた。国の登録有形文化財
金堂
南大門をくぐって正面に位置する金堂。上の枠が曲線になった火灯窓(赤枠)、細い材を一定の間隔で並べた連子欄間(青枠)などの意匠が確認できる
五重塔
五重塔を未来に残すために、東京大学が耐震・耐風性能を24時間体制でモニタリングしているという
若い世代や外国人にも人気の非日常体験

四国遍路の札所には、お遍路さんの宿泊所「宿坊(しゅくぼう)」を備えた寺院が10数カ寺ある。ここ善通寺もその1つで、全50室、約200名が宿泊できる大規模な施設だ。館内には天然温泉「大師の里湯」もあり、洋室も備えた快適なしつらえ。「かつては客殿の大広間にマットを敷き、雑魚寝をしていた時代もあります。やがて宿泊施設の整備と増改築が順次進められ、1998年(平成10)頃に現在の形になりました」と中嶋さん。

お遍路さんの利用が多いが、寺院に泊まるという非日常体験をしたいと、若い世代や外国人観光客の利用も少なくない。朝の早いお遍路さんに配慮し、門限や消灯時間などのルールを守ればビジネスパーソンの利用も可能だ。

宿坊の利用者は、5月〜9月は5時30分、10月〜4月は6時から御影堂で行われる朝の勤行(ごんぎょう)(お勤め)に参加できる。清々しい早朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、背筋を伸ばしてお勤めを行うのは貴重な体験だ。

近年は写経会(しゃきょうえ)※(仏教経典の書写)、仏画教室※なども行われており、心の拠り所を求める人にヒントを与えるテレホン法話※も人気。

今、「四国遍路を世界遺産に」を合言葉に、官民学が一体となった活動が活発化している。善通寺の歴史ある建造物や静かな佇まいのなかに身を置けば、自分自身を省み、生きる力をいただくことができる。遍路とそれにまつわる文化は、四国に住む人たちの共有の財産であることを善通寺が教えてくれた。

御影堂で行われる朝の勤行。宿坊の宿泊者やその時間にお参りに来た人は参加できる(写真は2019年以前に撮影したもの)
宿坊の宿泊料金は1泊2食付きで8,000円、素泊まり5,000円
昼食に精進料理を味わうことも可能。1週間前までの予約制で3名以上、料金は1人前3,300円
善通寺境内から1分間に約220ℓ湧出する「大師の里湯温泉(加温・循環ろ過)」。湯にはラドンが含まれている
|案内人|中嶋孝謙さん

福岡県出身。一般家庭で育ち、大学卒業後企業に就職。29歳で退職、後に師匠になる方の勧めで、1年間善通寺で修行。周りにいたのは10歳近くも年若の修行僧ばかり。しかも実家がお寺という人のなかで、戸惑いを感じることも多かったが、1年が過ぎたときには、真言宗の僧侶になるための特別な修行「加行(けぎょう)」も終えた。2014年(平成26)に善通寺に奉職し、現在は近くで再建された弘法大師ゆかりの仙遊寺(せんゆうじ)の堂守も務めている。

※写経会
毎月21日、10時〜
参加料無料(筆と墨汁、写経用紙、見本用紙は各自持参。写経用紙と見本用紙は善通寺でも販売)

※仏画教室
第3水曜または第4日曜に開催、10時〜14時
参加料:1回分/3,000円(半期6回分を前納)

※テレホン法話
月1回更新される3分程度の法話を無料で聞くことができる。
0877-63-5111
(少年少女テレホン法話は 0877-63-5517)

お問い合わせ

総本山善通寺
住所 香川県善通寺市善通寺町3-3-1
電話番号 0877-62-0111
拝観 8:00〜17:00(宝物館・戒壇めぐり、最終受付は16:30)
駐車場 あり(有料)
URL https://zentsuji.com