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よみがえった人情商店街 「うみまち商店街」の歩き方(香川県高松市) よみがえった人情商店街 「うみまち商店街」の歩き方(香川県高松市)
海のすぐそばにある建物。写真の中央あたりが「うみまち商店街」だ

JR高松駅から西へ約2㎞、市街中心部に隣接している高松市中央卸売市場は、青果物や水産物などを扱う「高松の台所」。基本的に出入りできるのは、卸売業者や仲卸業者ら許可を得たプロフェッショナルだけ。しかし一般市民も立ち寄れる場所がある。それが関連商品売場棟だ。食堂や喫茶店、理容店などが軒を連ねており、「うみまち商店街」の名で親しまれている。一時期、シャッター街となってしまったが、関係者の熱意と創意工夫により、今や観光スポットとしても注目を集める商店街の魅力を紹介する。

01:個性的な店舗が集まる「うみまち商店街」
02:「うみまち商店街」のロゴマークは、香川県立高松工芸高等学校の生徒たちが制作に協力
03,04:1979年(昭和54)に開業した「理容イケウチ」では、マスコット猫とのふれあいを楽しむ人も多かった。
05,06:香川県産のイチゴで仕込んだシロップが甘酸っぱくてやみつきになる「KIWAJI 市場本店」のかき氷。カラフルな店内も映えスポットとして人気
07:“まんが盛り”ご飯で有名な「健ちゃん食堂」。手前はとりとなすの甘酢炒め定食、奥はえびとろとろ玉子飯

約半世紀ぶりに活気がよみがえった商店街
シャッター街となった「関連商品売場棟」

高松市中央卸売市場は、1967年(昭和42)に全国で25番目の中央卸売市場として業務を開始。水産物棟、青果棟、加工水産物棟、花き棟があり、競り落とされた品は小売店などへ運ばれていく。そして、1979年(昭和54)、市場関係者が利用するための施設として、現在の「関連商品売場棟」が新設された。

「当初は約30軒が営業しており、市場関係者で賑わっていたようです」と話すのは、高松市中央卸売市場運営協議会事務局の角野真弓さん。ところが、時の流れとともに、後継者を確保できなかった店は閉店を余儀なくされ、空き店舗が増えた。2019年(令和元)には営業している店は約10軒、関連商品売場棟はシャッター街となってしまった。店舗の減少だけではなく、建物の老朽化も客を遠ざける要因となっていた。

拡張工事を終えた1981年(昭和56)の高松市中央卸売市場
「うみまち商店街」を縁の下で支えている高松市中央卸売市場運営協議会事務局の角野さん
1970年(昭和45)頃の関連商品売場棟にはアーケードがなかった(写真提供/矢野耕資(こうじ)さん)
古参も新規店舗も希望を抱いた新たな船出

「何とかしなければいけない」と危機感を募らせた市場関係者たち。まずは市場職員が空き店舗の清掃や改修に自分たちで取り組んだ。予算が限られているというのも理由だが、「このエリアに元気を呼び込みたい」という気持ちがあったからこそ、職員は自分たちが汗を流すことを厭(いと)わなかった。

清掃・改修と並行して行ったのは、新規店舗の誘致活動。店舗を呼び込むために大切なのは、お客さまに愛される場とすること。そこで地元の高校生の協力を得て「うみまち商店街(以下:うみまち)」という愛称を付けることに。市場は海の目の前にあり、関連商品売場棟の周辺には心地よい潮風が吹き抜けている。そのイメージをこのネーミングに込めた。

「職員さんが汗を流す姿を目にし、素敵な愛称が付いたことで、私たちも期待をふくらませました」と話すのは、関連商品売場棟の開設当初から営業をしている食堂「おけいちゃん」の店主・原本未希子(はらもと みきこ)さん。両親が開いた店を引き継いだ原本さんは、どんどん活気を失っていく一帯に胸を痛めていたが、新しい風が吹き始めたことを肌で感じた。

老朽化した建物は、アートのまち・高松らしく、オブジェや絵画などで飾り付けた。ひときわ目をひく壁面アートを手がけたのは、高松工芸高等学校の生徒たち。客にカラフルな壁面をバックに写真撮影をしてもらうのが目的だ。

2021年(令和3)、地元の情報番組で「うみまち」が取り上げられ、高松市民の目が向けられた。コロナ禍で遠くに行けない状況が続くなか、海沿いにあるこのエリアで旅行気分を味わいたいという客も増えてきた。建築から45年を経た建物は古びているが、その雰囲気すらも「昭和レトロ」として人気となっている。

新規出店も続々!愛されるレトロ感

誘致活動も順調で、コロナ禍真っ只中の2020年(令和2)8月に「健ちゃん食堂」がオープン。その後ラーメン店や韓国惣菜店などの新しい店舗も参入した。「健ちゃん食堂」店主の大石健一さんは岡山市出身。「この商店街をよみがえらせたいというのが出店の動機」と話す。大石さんの地元である岡山市の北区問屋町は、卸売業の衰退から一時は空き店舗が増加。しかし20年ほど前から新規参入を積極的に受け入れたことで「お洒落なエリア」として再生した。「うみまち」もそんな風になればと、脱サラして飲食店経営に挑戦したのだ。

「お金をかけずに取り組んだ宣伝も効果的でした」と事務局の角野さん。それはSNSの活用だ。店主やお客さまが発信をする際、「うみまち商店街」のハッシュタグ(#)を付けてもらった。その投稿を見た人に、商店街の名が印象付けられ、新たな集客に結びつけることができたのだ。

昨年開催された瀬戸内国際芸術祭も人気の追い風。JR高松駅や高松港から近い「うみまち」に足を延ばす観光客の姿や、県外ナンバーの車が並ぶ駐車場に、関係者らは大きな手応えを感じた。

「市場から直に運ばれてくる魚料理は、海外からの旅行客にも好評」と話す「おけいちゃん」の原本さん
壁面アートのモチーフは香川県の食材。明るいタッチが雰囲気づくりに一役買っている
通りの一角に置かれたストリートピアノ。演奏が始まればコンサート気分も満喫できる
一休み用のベンチもアート風にペイントされている
建物にはポップなデザインの看板を掲げて、親しみやすい雰囲気をつくりだした
店主同士の絆が生み出す あたたかな雰囲気も魅力
新しい店舗を迎え入れ 相互作用でファンを増やす

「うみまちの魅力はね、何と言っても店主たちの結束力」と原本さん(おけいちゃん)。新鮮な瀬戸内海の魚介類を看板メニューとするこの店の味噌汁には、練り物屋「矢野商店」の魚のすり身が付き物。また矢野商店の店主・矢野耕資さんは、長年「理容イケウチ」で散髪をしている。この3店舗は共に長年踏んばってきた老舗。苦戦した時期を知っているだけに、連帯感は強い。

しかも苦労を乗り越えたからこそ、「新しく仲間入りした店にも頑張ってもらいたいと思っています」と話す原本さんは、営業を終えたら、「KIWAJI(キワジ)市場本店」でかき氷やクレープを味わうのが何よりの楽しみ。原本さんに教えられて食後に練り物を買ったり、スイーツを食べに行ったり、他店に足を延ばす観光客も多いそうだ。

「店が続けられているのは、原本さんのおかげです」と心から感謝を口にするのは大石さん(健ちゃん食堂)。実は開業当初、なかなか固定客をつかむことができなかった大石さんに、「マグロのメニューはどう?」とアドバイスしてくれたのが原本さん。仕入先も紹介してもらい、まぐろ丼(日曜日・祝日のみ提供)が誕生した。それが話題となり、来店客の要望に合わせてメニューを次々と開発。「えびとろとろ玉子飯」などボリューム満点かつおいしいオリジナルメニューで、ファンを増やしている。

「お客さまのほとんどが長年ご贔屓にしてくれている方」と話すのは「理容イケウチ」の池内髙広さん
左上:老舗の味を守りながらも、新しい名物づくりに挑戦している「矢野商店」の矢野さん
左下:心のこもったサービスでお客さまのハートを掴む「健ちゃん食堂」の大石さん
右:仕事を終えた市場関係者や商店街の店主らの憩いの場にもなっている「おけいちゃん」
「健ちゃん食堂」のまぐろ丼。「ごはんの量はお客さまのご要望で調整できます」と大石さん
イベント再開でさらなる賑わいを

「うみまち」はイベントによる集客にも力を入れ始めた。昨年11月から今年1月にかけて3回にわたり開催された「うみまち水産朝市」は、水産物棟で競りを見学した後、「うみまち」に立ち寄った人を限定メニューでもてなした。「こうしたイベントもこれから本格化していくはずです。多くの人の知恵を結集して、うみまちの魅力を発信し続けたい」と角野さん。

建物の整備もイベントも、関わる人の熱意があれば、お金をかけずとも成功に導くことができる。それを確かに証明しているのが、潮風が心地よく吹き抜ける「うみまち商店街」なのだ。

ぶらり「うみまち」
おけいちゃん
早朝から元気に営業!

その日に競り落とした新鮮な地物の魚料理が味わえる店。魚種にもよるが、ほとんどの魚を刺身、煮付け、天ぷらなど希望の調理法で味わうことができる。青田買いで生産者から直接買い付ける米、自家製の漬物なども味わい深い。定食900円、おかず単品450円。

電話番号 087-835-2955
営業時間 6:00~10:00、11:00〜13:00
休み 水・日曜日、祝日
矢野商店
できたてが店頭に並ぶ

自家製練り物の専門店。父から店を受け継いだ二代目が、可能な限り地魚を使って製造。また添加物や砂糖の使用を控えることで、昨今の健康志向に応えている。二代目が考案したプロテイン入りの「筋肉ちくわ(260円)」は、アスリートたちに人気だ。

電話番号 087-862-5633
営業時間 4:00~17:00
休み 日曜日
理容イケウチ
できれば予約をして!

池内秀司さん、髙広さん兄弟が開業した理容店。確かな腕前に惹かれる人は、市場関係者以外にも多数。残念なことに、秀司さんは昨年11月に急逝したが、髙広さんが兄の分まで奮闘中。マスコット猫のチャチャは今春亡くなってしまったが、20歳を超えるご長寿猫として多くの人に愛された。

電話番号 087-861-2090
営業時間 8:00~18:00
休み 日曜日
KIWAJI 市場本店
イートインは2階で!

看板メニューのかき氷は、五合枡に盛り付けたふんわり氷と自家製シロップで多くの人を魅了。一年中味わうことができる。このほかバリエーションが豊富な焼きたてのクレープ、フルーツをたっぷり使うケーキもおすすめ。イートインスペースの壁面はアートで彩られており、写真映えする。

電話番号 087-887-3686
営業時間 10:00~17:00
休み 不定休
健ちゃん食堂
とろける自家製焼き豚

全国放送のテレビ番組で取り上げられ、県外からの来店がダントツで多いのがこの店。行列ができることもしばしばだ。たくさん食べて満足してほしいと始めた大盛り無料が有名になったが、「ご飯少なめなど遠慮なく言ってください」と店主。おいしさと優しさが溢れる店だ。

電話番号 090-5378-0005
営業時間 9:00~15:30、18:00~22:00
休み 水・土曜日の夜、隔週土曜日の昼
うみまち商店街
住所 香川県高松市瀬戸内町30-5
電話番号 087-862-3411(市場管理課・高松市中央卸売市場運営協議会事務局)
URL https://seaandsunmarket.com

ここで紹介している店舗は一部。全25店舗(2023年6月現在)が元気に営業中!