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ジャンピングふるさと 伊吹島を元気にするため「幻の芋」で島おこし 伊吹島を元気にするため「幻の芋」で島おこし
取材当日に集まってくださった「元気隊」のメンバー9人。「それぞれのペースで活動することが長続きの秘訣」と代表の篠原さん

伊吹島を元気にするため
「幻の芋」で島おこし

伊吹島元気隊

伊吹島は、観音寺市の沖合にある周囲6kmほどの小さな島。
昔から西日本有数のイリコの産地として知られるが、
戦後4,500人弱だった人口は、10分の1以下にまで減少している。
年々人口が減る状況を危惧し、島を元気づけたいと
2020年(令和2)に立ち上がったのが「伊吹島元気隊」。
伊吹島を愛する人たちの活動を取材した。

伊吹島産イブキホワイト
「イブキホワイト」は皮が白く丸みを帯びたサツマイモだ

伊吹島の活性化に向け自分たちにできることを

イリコ漁の時期には賑やかになる伊吹島だが、全盛期の1954年(昭和29)と比較すると人口は10分の1以下。高齢化率が50%を超え、島のあちらこちらに空き家が点在し耕作放棄地も増加した。年々過疎化が進む島を「元気にしたい」と島在住者や出身者有志が10年ほど前から声をかけ合って集まるようになったのが活動の始まり。高台や道路脇の草刈り、瀬戸内国際芸術祭(以下:瀬戸芸)の会期中に訪れる来島者のおもてなしなどに取り組み、2020年(令和2)には「伊吹島元気隊(以下:元気隊)」として観音寺市公認の市民活動団体となった。

メンバーは60〜70代を中心に現在11人。代表の篠原幸喜(こうき)さんをはじめ、島外で暮らす人も多いが、伊吹島で生まれ育った人がほとんど。さらに移住者や伊吹島ファンも加わり、伊吹島を愛する人たちで構成されている。篠原さんたちが注目したのは、子どもの頃からなじみのある白芋だった。伊吹島で昔から栽培されてきた白芋(別名:アメリカ芋)は、明治時代、アメリカから種芋が入ってきたことをきっかけに全国的に広がったサツマイモの一種。戦後の食糧難が改善され物流が盛んになるとともに生産は途絶え、今では「幻の芋」と呼ばれている。

1965年頃まで上水道がなく、雨水を利用していた島の生活の中で、芋は貴重な食糧だった。家の床下には「芋壺」と呼ばれる貯蔵庫があり、毎年収穫した芋を貯蔵していたという。高齢になり畑作業をやめる人も増えて、今ではさらに少なくなっている。「もともとは同じ種芋だったとしても、100年以上の間、島の気候風土の中で伝承されてきたことで、固有種になっている可能性が高い。特産品にして島にこの芋を残そう」と、他の産地の白芋と区別できるよう「イブキホワイト」と命名。耕作放棄地を借り受け、栽培作業を開始した。

「元気隊」の代表、篠原さん。現在は自分たちの手でNPO法人を設立するため準備に追われている
取材当日は、「イブキホワイト」の植え付けが行われていた
島の中央に位置する高台の畑を借り、種芋から芋づるにし定植。平坦な土地のない島では栽培作業だけでも重労働

次世代の生業となる島の特産品を目指す

「イブキホワイト」の栽培は、何十年も手を入れられていない耕作放棄地を耕すことからスタート。開始1年目の2020年は、竹やツタで覆われた土地を畑に戻すための作業に追われた。2年目は、畑の拡張と並行して種芋を植え、苗を育て定植し、夏場は草刈りに追われた。「天候にも左右されるので、思っていた以上に大変なんです」と話すのは「元気隊」の広報担当ともいえる三好洋市さん。「瀬戸芸の会期中は3年に1度のPRの機会。瀬戸芸までに何か特産品をつくりたい」と収穫した芋を手に県内の飲食関係者に声をかけ、加工品を試作してもらった。

昨年は伊吹島も舞台となる瀬戸芸の秋会期に間に合うよう、本格的に「イブキホワイト」の栽培をスタートさせたが、思いがけない被害に見舞われた。3,000本の苗を定植し1,500㎏の収穫を見込んでいた芋の大半をイノシシに食べられてしまうという事態に。「もう一度、植え直したのですが、今度は暑さにやられてしまって」と篠原さんは残念そうに当時を振り返った。芋の販売は断念したものの、なんとか被害を免れた畑から収穫した芋を使い、プリンやワッフルを加工・販売。「素朴な芋の味がスイーツに合う」と好評を得た。

今年は植え付けする畑を増やし、イノシシ対策も万全にして「イブキホワイト」を栽培するとともに、品質向上と収穫量の増加を目指して県立農業大学校に試験栽培を依頼。伊吹島を元気づける活動にさらに力を入れようと、NPO法人の設立も申請中だ。また、篠原さんと三好さんは島へUターンすることを決めた。「僕らが中心となって活動できるのは長くても10年。それまでにイブキホワイトを特産品として形にしたい」。生業があると定住しやすくなるはずと考えている。島を好きだと言ってくれる若い人たちが生計を立てられ、子どもたちの声がもっと響き渡る島になってほしい。「元気隊」は島を元気にするために、今日も旗を振り続ける。

人気漫画のキャラクターにそっくりなことから“亀善人”と呼ばれている「元気隊」の三好さん。記念撮影をと声をかけられることも多いそう
昨年、イノシシの被害を受けた「イブキホワイト」。収穫の時期には多くのボランティアが駆けつけた
専門店の協力により、昨年は「イブキホワイト」を練り込んだプリンとワッフルを製造。瀬戸芸の会期中は伊吹島で販売した
瀬戸芸の会期中、帰りのフェリーの出航時刻に合わせて「元気隊」メンバーで大漁旗を振りながら岸壁を走ってお見送り。「お金をかけなくても喜んでもらえると実感した」と三好さん

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伊吹島元気隊
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URL kichiyo@me.com