かつての三津浜港は、荷揚げ港であり、積出港でもあった。その時代の名残りが、地区内にある醤油蔵。「港の近くにあれば原料を荷揚げしてすぐに製造でき、製品の出荷も楽。だから酒蔵や醤油蔵は港の近くにあることが多く、三津浜も例外ではありません」と話すのは、1905年(明治38)創業の「田中屋」三代目・田中一生さん。戦前の三津浜には醤油蔵だけではなく、酒蔵や造酢蔵も複数あったそうだが、それを支えたのは港の近さだけではない。三津浜一帯には地下水脈があり、良質な水に恵まれていたことも理由の一つ。「今もこの狭いエリアに、うちも含めて4軒の醤油蔵が残っています。三津浜は醸造の町でもあるんです」と田中さん。
田中屋の看板商品は約2年かけて長期熟成した純正醤油。時間をかけることで、丸大豆に含まれている油分も、菌や酵素の働きで旨味成分に変わっており、味わいはまろやか。田中さんは伝統を守るだけではなく、新たな挑戦も行っている。その一つが搾りの工程で圧力を一切かけず、自然に滲み出た醤油の一部だけをボトリングした「田中屋・Premium 百年蔵醤油」。100㎖ 1,080円(税込)という価格ながら、三津浜の名物として売れ行きは好調だ。