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ジャンピングふるさと うみの図書館 うみの図書館
かつては遠洋漁業の船長の住居兼事務所であった古民家を改修した「うみの図書館」。内観は海をイメージした深い青色で統一。ゆっくりと本を選び、読むことができる

本と出会い、人がつながる
海辺に佇(たたず)む泊まれる図書館

うみの図書館

かつては豊かな漁業資源を誇り、海を中心に発展してきた香川県さぬき市津田地区。漁業者の高齢化や海水浴客の激減などで一時は衰退した同地区だったが、近年、魅力ある地域資源が若年層から再注目されている。さまざまな施設や店舗がオープンする中で、昨年春に誕生したのが、泊まれる私設図書館「うみの図書館」。地域内外から人が集う図書館を訪ねた。

うみの図書館ロゴ

地域の情報拠点となる図書館の必要性

「卒業研究で津田地区のまちづくり計画を作った頃から、この地域に図書館が欲しいと思っていたんです」と話すのは、さぬき市津田町に生まれ、大阪大学で都市計画を学んでいた黒川慎一朗さん。大学4年生の2020年(令和2)、オンライン授業が増えたことなどから地元に戻り起業。卒業研究を兼ねて家族所有の納屋を改修し、ゲストハウスを運営するようになった。「コンパクトに都市機能がまとまった津田地区はまちづくりしやすい地域」と話す黒川さん。学んだ知識を活かして地元の事業者でつくるまちづくり団体にも参画するように。"まち全体を見直しデザインする"という理念のもと、空き倉庫の利活用や移住支援などに取り組んできた。

黒川さんのゲストハウスには、都会から訪れてリモートワークやお試し移住の拠点として長期滞在する利用客も多かった。ある時、宿泊した人が「今日は海辺で本を読んで過ごそう」と話すのを聞いた黒川さん。「図書館があれば県外から訪れた人に海辺で読書をするという過ごし方を提供でき、同時に地域の人たちにも利用してもらうことができるのでは」と考えるようになったという。そこで2022年(令和4)、藍染工房やレストラン、雑貨店など新たな店舗や施設が増えつつある海沿いの民家を借り受け、泊まれる図書館へとリノベーションするプロジェクトを開始。「うみの図書館」と名付け、改修資金の一部をクラウドファンディングで集めると、地域内外から多くの支援が集まった。

「うみの図書館」発起人である黒川さん(右)と、館長の鏑木さん

穏やかな時間が流れる心休まる場所として

「うみの図書館」に置かれているのは「海にまつわる本」と「漂流してきた本(以下:漂流文庫)」の2種類。このうち「海にまつわる本」は、文字通り、海や船、海洋生物などを題材にした本。「漂流文庫」は手紙を瓶に詰めて海に流すことになぞらえて、「うみの図書館」を漂着先とし全国の人に思いの詰まった本を寄贈してもらうという仕組み。SNSなどを通じて本の寄贈を呼びかけたところ、"自分にとって思い入れのある本が、新たな場所で知らない誰かと出会う"という仕組みに魅力を感じた寄贈者から、開館までに1,000冊以上もの本が集まった。

昨年5月のオープン以来、多い時には一日20人ほどが来館する「うみの図書館」。その多くが地域の高齢者や子ども連れだ。7月に宿泊施設を開業してからは、海辺での読書体験に魅力を感じた人も全国から訪ねて来るようになった。館長として本の分類や管理、利用者への対応など広く運営に関わるのは、群馬県出身で図書館勤務経験のある鏑木(かぶらき)航河さん。2022年に黒川さんのゲストハウスに長期滞在し津田地区の雰囲気に惹かれていた鏑木さんは、図書館を造るという黒川さんの話を聞き、昨春移住。来館する人の興味に合わせて本を提案したり、その本のおすすめ理由を書いた手紙を本に付けたりと、本との関わり方をナビゲートしている。一度に本を5冊借りられ、貸出期間は最長2年。「ここを訪れた人が本を借りることで、本も一緒に旅をすることになるんです」とほほ笑む鏑木さん。今後は貸出・返却できる場所を全国各地に増やしていく。「本との出会いをきっかけに関係人口が広がっていけば」と黒川さんは期待を寄せる。

一冊の本、そして地域や人と偶然の出会いを生む「うみの図書館」。本が導く縁が、地域との新たな関係性を生み出している。

01_全国から寄贈された本が並ぶ「漂流文庫」の部屋。今後は、各都道府県に漂流文庫を置く拠点を設け、各地で本を貸出・返却可能な仕組みを作る予定だ

02_3つある客室には、それぞれ図書館の分類番号を組み合わせた名前が付いている。257号室には、歴史(2)技術(5)芸術(7)に関する書籍を用意

03_県内作家の協力により生まれた「うみの図書館」のオリジナルアイテム

04·05_藍染めのブックカバーは図書館の近隣にある「天然藍染工房Khimaira」の協力で生まれた

06_図書館開館に合わせて行ったブックイベント「海辺のブックフェス」には、県内外の書店や飲食店が集まり大勢の人で賑わった

07_「うみの図書館」から砂浜までは歩いて30秒ほど。静かな波音とともに穏やかな時間を過ごせる

08_海の中をイメージした館内に飾られた、海の生き物たちをかたどったモビール。さまざまな本の一節が書かれている

お問い合わせ

うみの図書館
住所 香川県さぬき市津田町津田1418
営業時間 13:00〜19:00
定休日 火・水曜日
連絡方法 SNSのメッセージ機能をご利用ください
Instagram https://www.instagram.com/umi_tosho/
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note https://note.com/umitosho
宿泊予約 https://umitosho.snack.chillnn.com/