ライト&ライフ3月号
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芸能が根付く土地柄がフランスと重なった瀬戸内大成功に終わった公演「100年サーカス」 2009年(平成21)、渾身の一冊『サーカスに逢いたい~アートになったフランスサーカス(現代企画室刊)』が完成した。出版元代表のアートディレクター・北川フラムさんは、数々の芸術祭を手がけている株式会社アートフロントギャラリーを設立した人であり、その縁もあって田中さんは同社に入社。2010年(平成22)に開催された「第1回瀬戸内国際芸術祭」のパフォーミングアーツ(舞台芸術)担当になった。心の奥底には「いつの日か現代サーカスの公演をしたい」という想いがあり、芸術祭に携わることはその勉強にもなるとも考えていたのだ。「瀬戸内地域を訪れるのは初めてでしたが、ここで私は2度目の人生の転機を迎えました」と田中さん。 まず田中さんは、小豆島の農村歌舞伎に関わり、普段は勤め人や商店主をしている人が演者となることに驚く。ふとした瞬間に見せる役者としての立ち居振る舞いに、「芸術・芸能は特別な人がするものではない」と感じた。「日本全国を探せば、小豆島のように伝統芸能が受け継がれている土地はたくさんあるでしょうが、次のステップを考えていた私には、その様子は現代サーカスが幅広く根付いているフランスと重なったのです」。 もちろん温暖少雨な瀬戸内の気候も、屋外公演がある現代サーカスにうってつけ。何より、田中さんが影響を受けていたのは、国内の隅々にまでネットワークが広がっているフランスの状況。劇場や劇団、学校など、芸術文化の機能が大都市に集約されている日本の状況を変えたいとも考えていたのだ。「香川県は、夢を実現する拠点にふさわしい」と確信した田中さんは、契約期間満了を機にアートフロントギャラリーを退社し、たった1人で任意団体SCFを立ち上げた。 手始めに行ったのは、現代サーカスの講座。といっても大がかりなものではなく、資料は手作り。カフェの一角を借りて数名が集まるという小さな規模で回数を重ねた。少しずつ、興味を持つ人が増えてきた2012年(平成24)、「集まってくれた人に本物を見せたい」と初めての公演を手がけた。場所は琴平電気鉄道の仏生山工場。SCFを応援してくれていた、仏生山温泉の設計者・岡昇平さんが橋渡しとなり、工場が借りられた。日本とフランスを代表する100607080906_琴平電気鉄道の協力のもと開催された「100年サーカス」。物を投げたり操ったりするジャグリング、足で小さなボールを巧みに扱うフットバッグなどのパフォーマンスが観客を魅了した07_SCFが主催し、2021年(令和3)に屋島山上・県木園で行われた「エ・コ・ラボ・シアター現代サーカス野外公演 森のトコトコ」。環境との共生をテーマに、エアリアル(空中パフォーマンス)やアクロバットダンス、一輪車など多彩なパフォーマンスを披露した08_「第1回創作サーカスフェスティバル」として高松空港近くの特設会場で実施した「naimono ないもの」。アーティストのパフォーマンスと生演奏が融合し、幻想的な世界を創りだした09・10_2023年(令和5)11月、丸亀市沖の広島で行われた「FLOE フロエ」。フランスを代表するアーティスト、ジャン=バティスト・アンドレ氏が美術作品と競演する作品2024.034

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