6応援団や伴走者とともにパイオニアとして歩むなり、一時期は故郷の北海道に帰ったりもしました」と田中さんは振り返る。そんな心境であったが故に、2020年(令和2)以降は大きな公演の予定を組まなかった。ところが、その年から国内はコロナ禍に見舞われる。 当然ながらSCFは休業状態。田中さんはアルバイトをして日々を過ごしていた。すると思いもしなかった連絡が入る。東京在住のアーティストが四国に移住したいというのだ。アーティストは日々、身体を動かして鍛錬する必要がある。練習場所を失ったアーティストが田中さんを頼ってきたのだ。最終的には6人のアーティストが香川県へと移住してきた。 コロナ禍前、SCFは旧上西小学校(高松市)の体育館を拠点施設として借りていたが、三豊市で建設事業を営む株式会社安藤工業が新たに施設を無償で貸してくれることになり、受入態勢は万全。こうなると再び田中さんのハートに火がつく。「面白いことができそう!」と、移住してきたアーティストとともに年間30以上の公演をこなした。演目によっては屋外でも上演可能な点が、コロナ禍では追い風となったのだ。 自治体や企業、人など「地域との協働」は、当初からのSCFのテーマ。これまで県内のクレーン会社や石材屋が舞台装置を作ってくれたこともある。昨年より、SCFのために一肌脱いだのは、山一木材株式会社の熊谷國次社長だ。熊谷さんは「日本の森を未来に残したいと願う私と、現代サーカスを日本に根付かせたいと奮闘する田中さん。どこか共通点を感じて彼女を応援しようと決意しました」と話す。そこで、会社の敷地内にSCFの練習場兼常設舞台を造ってくれることになった。しつらえには自慢の無垢材をふんだんに使っている。そこには、練習や公演を見に来た人に、国産材の良さに触れてほしいとの思惑もある。「私にもSCFにもメリットがある。こんな事例が増えるといい」と熊谷さんは話す。一方、移住してきたアーティストは、高松と丸亀で開いているサーカス教室の先生としても活動中だ。フランスでは体操教室やダンス教室のように、サーカス教室があるのが一般的。「サーカス教室の開催は当初から私の目標の一つでした。これにより、子どもたちが現代サーカスに興味を持ってくれたらうれしい」と田中さんはほほ笑む。昨年からは高齢者や引きこもり当事者に向けたサーカス教室もスタートした。「芸術的には高みを目指し、活動は裾野を広げる。貪欲に、挑戦し続けたい」と瞳を輝かせる田中さんは、多くの人々を伴走者として、パイオニアとしての道を力強く歩んでいく。1415161716・17_サーカスの要素を取り入れた子ども向けの体操教室「リバティ☆キッズジム」を高松と丸亀で開講している。子どもたちは楽しみながら体幹や運動能力を鍛えられる14_山一木材の敷地内に建設中の練習場兼常設舞台。窓は全開放が可能で、周囲の自然と融合した演目なども可能だ15_「SCFのファンが、国産材の良さに触れる場となればありがたい」と話す熊谷社長2024.03■一般社団法人瀬戸内サーカスファクトリーhttps://scf.or.jp動画はこちらから
元のページ ../index.html#7