ライト&ライフ10・11月号
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この地の農業を未来へ脱サラをして就農「にし阿波」と総称される徳島県西部の美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし市。標高100m〜900mの山間地域で、急峻な傾斜地で営む農耕や景観、文化などが「にし阿波の傾斜地農耕システム」として、2018年(平成30)に世界農業遺産に認定された。最も急なところで斜度が40度にもなるという畑では、野菜のほかソバやはだか麦、粟、こきびなどの雑穀が栽培されている。たかきびもその一つで、かつては米に混ぜてよく食べられていた。そのため戦後の食糧難の時代には全国各地で栽培されていたそうだが、やがてそれも廃れてしまった。しかし近年は食物繊維や鉄分、マグネシウムなどを多く含む栄養豊富な健康食品として人気が高まってきている。つるぎ町の標高400mの集落で、たかきび栽培に取り組んでいるのは磯貝一幸さん。農業は彼で田畑を切り開いたと伝えられている。足場が悪く、農耕機がほとんど使えない傾斜地での農耕は、夫婦や親子など複数で役割分担をしないと作業がこなせない。「長らく両親が頑張ってくれていたのですが、数年前、膝を悪くした父の勝幸の様子を見て、これは手助けをしないわけにはいかないと考えました」と話す。当初は勤め人をしながら休日に作業を手伝っていたが、徐々に「傾斜地農耕システム」の未来に危機感を感じ始めた。周囲の農家はほとんどが高齢者で、農業を断念する人もいたからだ。 「せっかく世界農業遺産に認定されたのに、このままではこの地の農業が消滅してしまう」と、一幸さんは5年前に思い切って勤めを辞めて専業農家となった。安定した収入を手放すことに不安がなかったと言えば嘘になる。「夫もその点は心配していたよ。それでも継いでくれたことをうれしく思っていたね」と母のハマ子さんは振り返る。0606_たかきびを栽培している磯貝ハマ子さんと息子の一幸さん。一幸さんは5年前、両親を支えたいとの思いから会社勤めを辞めて、就農した07_順調に成長しているたかきび。一雨降るごとに背が伸びて、収穫前には3m以上にもなる07  317代目。先祖が400年以上前に

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