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今、多くの人気雑誌で日本茶特集が組まれており、首都圏では日本茶専門のカフェが増えている。
急須で淹れるお茶が注目されているのだ。このブームの中で、産地にこだわってお茶を求める人も目立ってきたという。
「お茶どころ」と聞いてまず思い浮かべるのは、生産量日本一の静岡県や宇治茶で知られる京都府などで、
『四国』を思い浮かべる人は少ないかもしれない。
だが、四国には香川県の高瀬茶や徳島県の阿波番茶、高知県の碁石茶など、特徴あるお茶がたくさん存在している。
また、日本茶専門のカフェもあり、産地の情報や美味しい飲み方を伝えている。
さらには、地元産のお茶を使ったスイーツが、ヒット商品となっているという。そこで「四国の日本茶の今」をめぐる旅へと出かけた。
地図
四国の主な茶産地
麦茶、そば茶、どくだみ茶、びわ茶、野草茶などの代用茶の産地は表記しておりません。
地図中の市町村下にあるお茶の名称は統一ブランド名ではありません。
特徴的なお茶を表記しています。
監修:日本茶インストラクター 柿谷 奈穂子さん
松山城のお膝元で
日本茶の魅力を伝えるカフェ
ムスタキビ
 平成29年2月、愛媛県松山市にオープンした「ムスタキビ」は、砥部町出身の世界的なテキスタイルデザイナー・石本藤雄氏がプロデュースしたギャラリー&カフェ。看板メニューは、煎茶やほうじ茶、石鎚黒茶など愛媛県産の日本茶だ。「石本先生は、日本の美をデザインに取り入れています。そこで提供するメニューも日本的なものにしたいと、日本茶を選びました」と店長の二神桜美(ふたがみ おうみ)さん。四国中央市の新宮茶や西条市の石鎚黒茶などをメニューに取り入れたところ、これが思った以上にお客さまに喜ばれた。コーヒーも用意しているが、お客さまのほとんどが日本茶を注文するという。「日本茶は一煎目と二煎目、三煎目で味の違いが出ます。そんな飲み方を伝えると『知らなかった』と目を輝かせるお客さまも多いですよ」と二神さん。「ムスタキビ」は松山城のお膝元という場所柄、観光客の来店も多い。おいしく淹れた日本茶が、四国の旅の思い出になっているようだ。
窓越しに松山城の石垣が見える「ムスタキビ」では、愛媛県産の日本茶が楽しめる
窓越しに松山城の石垣が見える「ムスタキビ」では、愛媛県産の日本茶が楽しめる
「生産地による味の違いを知り、好みのお茶と出会って欲しい」と話す二神店長
「生産地による味の違いを知り、好みのお茶と出会って欲しい」と話す二神店長
地元名物の日替わりの和菓子セット
地元名物の日替わりの和菓子セット
フィンランドのライフスタイルブランド「マリメッコ」の元デザイナー・石本氏の作品をディスプレイ
フィンランドのライフスタイルブランド「マリメッコ」の元デザイナー・石本氏の作品をディスプレイ
お問い合わせ
ムスタキビ(MUSTAKIVI)
住所

愛媛県松山市大街道3-2-27 1F・B1F

電話番号 089-993-7496
URL https://mustakivi.jp
営業時間 10:00〜19:00
休み 火・水曜日
備考 お茶・日替わりひとくち菓子セット 756円(税込)、お茶 ・季節の和菓子セット 918円(税込)
四国一の茶産地である高知の
「土佐茶」を知ってもらう
ひだまり小路
土佐茶カフェ
 高知県高知市の「ひだまり小路 土佐茶カフェ」は、「ムスタキビ」より古く、オープンは平成22年12月。高知は、県内各地で茶葉の栽培が行われており、生産量約220トンは四国でトップだが、誰からも特産品として認識されていなかった。「そこで高知のお茶を『土佐茶』と総称し、まず地元の人に飲んでもらうことを目標としました」と話すのは、広報担当の中野京子さん。この店のメニューにコーヒーはない。当初、来店したお客さまの中には「コーヒーがないのなら帰るわ」という人もいたそうだが、今は『土佐茶』の呼び方とともに、日本茶カフェとして浸透しているという。
 このカフェでは、「土佐茶セミナー」や「土佐茶サポーター養成講座」を開催し、土佐茶の魅力を発信している。講師の一人である柿谷奈穂子(かきたに なおこ)さんは、日本茶インストラクターの資格を持つお茶の専門家。京都で6年間暮らした後に高知県に移住してきた柿谷さんは、「高知のお茶は味も香りも強く、風味が豊か。でも、県外にいたときには、煎茶の質の高さを知りませんでした」と話す。
 『土佐茶』の品質が専門家にすら知られていなかったのには理由がある。かつて、高知県の茶葉のほとんどが、「荒茶(あらちゃ)」として静岡や京都に出荷されていたためだ。荒茶とはブレンド前の原料茶葉のことで、強い風味を持つ高知県産は、有名茶葉のブレンド用アクセントとして使われていた。つまり、静岡茶や宇治茶などの中にひっそりと隠れていたのだ。そんな状況を変えようと、独自の取り組みで産地を盛り上げている生産者がいる。そこで、話をうかがいに仁淀川のほとりを訪ねた。
「ひだまり小路 土佐茶カフェ」で開催された土佐茶サポーター養成講座の様子。講座は3年前から始まり、これまでに100人以上の土佐茶サポーターが誕生している
「ひだまり小路 土佐茶カフェ」で開催された土佐茶サポーター養成講座の様子。講座は3年前から始まり、これまでに100人以上の土佐茶サポーターが誕生している
お問い合わせ
ひだまり小路 土佐茶カフェ
住所

高知県高知市帯屋町2-1-31

電話番号 088-855-7753
URL http://tosacha.net
営業時間 11:00〜19:00
休み 水曜日(祝日の場合は翌日)
備考 かぶせ煎茶 500円(税込)、上煎茶各種 360円(税込)
茶葉を使った菓子開発で
荒茶の知名度を高める
池川茶園
工房Café
 昼夜の気温差が大きく、茶葉の栽培に適していた気候の仁淀川流域。高知県内でも有数の生産地にある「池川茶園  工房Café」は、山中由貴さんら茶農家の奥さんたちが作った菓子工房。平成5年、地元の茶農家8名が「農事組合法人池川茶業組合」を設立。以降、減農薬栽培の「池川茶」を出張販売していたという。しかし、お茶だけでは、なかなか関心を持ってもらえない。そこで平成19年頃、山中さんは、「お茶には甘味が付き物だから、お菓子を作ってみてはどうか」と考え始めた。
 そこで茶農家の奥さん仲間に相談したところ、「茶産地らしく、お茶のお菓子にしよう。お菓子の材料として茶葉を使えば、消費拡大にもつながるから」と意見がまとまり、すぐに試作をはじめた。
「茶畑プリン」が火付け役
池川茶の人気も上昇
 商品開発にあたっては、高知県香南市の菓子工房「コンセルト」のオーナーシェフ和田道徳(みちのり)さんに助言を受けた。そうしてできあがったのが「茶畑プリン」。高級緑茶である「かぶせ茶」と香ばしい「ほうじ茶」の2種類のプリンは、いずれも濃厚に抽出したお茶を使用しており、隠し味には地元の蜂蜜を使っている。ほかにもチーズケーキなど10種類のお菓子を完成させた山中さんらは、このお菓子を持って上京し、いろんな人に試食してもらった。お茶の風味が強く感じられる「茶畑プリン」は、老若男女に好評で、これを看板商品にしようと決めた。
 約4年の準備期間を経て、平成23年4月に「池川茶園  工房Café」がオープンした。開業当初から客足は順調。また同年9月、全国放送の情報番組で紹介されたことで、インターネットや電話による注文が殺到。初年度の目標300万円に対して、売上はその5倍にも達した。しかし、とにかくいい材料を使っているため「全然お金は残っていないの」と山中さんは笑う。一度注文した人がリピーターとなり、人気は今も続いている。お茶スイーツのお陰で、「池川茶」にも注目が集まった。かつての名もなき荒茶は、「池川茶」としてその存在を輝かせている。
「茶畑プリン」が火付け役池川茶の人気も上昇
お問い合わせ
池川茶園 工房Café
住所

高知県吾川郡仁淀川町土居甲695-4

電話番号 0889-34-3100
営業時間 10:00〜18:00
休み 不定休
備考 茶畑プリン〈かぶせ茶・ほうじ茶〉各378円(税込)
チャンスを逃さず
沢渡茶(さわたりちゃ)の魅力を開発
ビバ沢渡
 もう一人、「ビバ沢渡」の岸本憲明(きしもと のりあき)さんは祖父が守ってきた仁淀川町の茶畑を引き継いでいる。高知市生まれだが、幼い頃から祖父母が住む仁淀川町が大好きだった岸本さんは、「この地には茶栽培の歴史があるのだから、お茶で地域を元気にしたい」と、平成23年に茶の生産と販売を行う「ビバ沢渡」を設立。畑仕事をしながら、「沢渡茶」「香ル茶(紅茶)」「俺の番茶」の3品を商品化した。しかし現実は想像以上に厳しく、お茶の売上だけでは生計が成り立たない。販路拡大に奮闘する中、知人の紹介で全国展開をしている雑貨店のバイヤーに売り込むチャンスを得た。岸本さんは、仁淀川流域がどれほど素晴らしい土地かを話し、「そのためにも茶栽培も盛り立てたい」と切々と語った。その後、彼の想いがバイヤーへと伝わり、飲みやすい沢渡茶が評価されて販売が決まった。
 次に岸本さんは「茶大福」の開発に取り組み始める。お茶を使った大福は、新宮茶の「霧の森大福」や碁石茶の「碁石茶大福」が既に人気を博していた。そこで「インパクトを重視した、おいしい茶大福」を目指し、平成26年、「食べられるお茶」をコンセプトに掲げ、茶葉そのままを甘さ控えめの白餡に包み込んだ「沢渡の茶大福」を完成させた。お茶の風味をダイレクトに味わえる上、お茶に合うと評判を呼び、翌年には日本航空の国内線ファーストクラスの機内食に採用された他、香港の高級カフェとの取引も始まった。
 岸本さんの熱意は、高知市内の老舗旅館も動かした。岸本さんの提案で、ウェルカムドリンクに沢渡茶を出すサービスを始めたのだ。夏は水で出す緑茶で宿泊客を迎えるおもてなしが好評だという。
 就農から7年、高齢化などにより、手が回らなくなった農家から茶畑を借りて、当初の約8,000平方メートルから2倍以上にまで増えた。平成30年3月には、沢渡茶や大福を味わえるカフェ「茶農家の店あすなろ」も開業した。「栽培面積も加工品もまだまだ増やしていきたい」という岸本さんの挑戦はこれからが本番だ。
お問い合わせ
株式会社ビバ沢渡
住所

高知県吾川郡仁淀川町別枝606

電話番号 0889-32-1234
URL http://www.viva-sawatari.com
営業時間 8:00〜17:00
休み 土・日曜日、祝日
備考 沢渡茶煎茶 100g 1,080円(税込)、俺の番茶 50g 432円(税込)、さわたりほうじ茶 80g 756円(税込)
茶農家の店あすなろ
住所

高知県吾川郡仁淀川町鷲ノ巣224-6

電話番号 0889-36-0188
URL http://asunaro-cafe.com
営業時間 10:00〜16:00
休み 木曜日
普段何気なく淹れているお茶も、淹れ方一つで味わいが深まる。
「土佐茶カフェ」直伝の淹れ方で、地元のお茶を味わってみよう。
美味しい煎茶の淹れ方
(監修:土佐茶カフェ)
1
ポットのお湯を直接急須に入れるのではなく、まず湯呑みに注ぎ、
さらに急須に移して急須を温める。
2
急須のお湯を湯冷ましに移し、急須に茶葉を入れる。
(1人分は3〜4グラム、ティースプーンに軽く2杯程度。)
3
湯冷ましのお湯を急須に注ぎ、 約1分間待つ。
4
茶葉が開いた後、最後の一滴まで注ぎきる。
5
二煎目はポットのお湯を湯呑みに注いでから急須に移す。
三煎目はポットのお湯を直接急須に注ぐ。
中野さんのアドバイス
「お茶の美味しさを引き出すためには湯温が大切。湯呑みや湯冷ましに移し替えることで湯温を調整します。湯温70〜80度の一煎目はテアニンによる甘みが、湯温80〜90度の二煎目はカテキンによる渋みが、湯温90〜100度の三煎目はカフェインによる苦みが強く出ます。味の違いを楽しんでください」。