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 温かみを感じる手触り、リラックスできる芳醇な香り。木は、人々の暮らしに安らぎを与える。日本人は古来より木の良さを見つめ、積極的に暮らしに取り入れてきた。
 今回は、木の魅力をユニークなアイデアで伝える、四国の二つの取り組みを紹介する。一つは、愛媛県松山市の材木店「大五(だいご)木材」。国内外の多様な材木を使ったオリジナル商品や、独自に「木の解説書」を制作して木の楽しみ方を伝えている。もう一つは、香川県三豊市で、家の大黒柱を伐採するツアーを行う「讃岐の舎(いえ)づくり倶楽部(くらぶ)」。林業の現場を一般の人たちが体験することで、県産ヒノキの魅力を広めている。この二つの企業・団体を訪ね背景や思いを伺った。

種類の多さと「物語」で
木に付加価値を与える

株式会社大五木材 ー愛媛県松山市ー
世界各国の材木を集めた倉庫で、用途に合わせ材木を選ぶ髙橋照国さん
世界各国の材木を集めた倉庫で、用途に合わせ材木を選ぶ髙橋照国さん
 愛媛県松山市の「大五(だいご)木材」は、材木の卸売をしながら、国内外の材木を用いたオリジナル商品を生み出している。これらを手掛けているのは、社長の髙橋照国(てるくに)さん。多彩な商品の中でも、35ミリの立方体が碁盤目状に並ぶ「森のかけら」シリーズは、累計800セットを売り上げる人気商品だ。扱う木の種類は、一般的に流通するものから中南米、アフリカ産の珍しいものまで、240種類以上。その中から100個、または36個を購入者がセレクトできる楽しさに加え、商品に添えられた照国さんが考案した「木の解説書」も人気を後押ししている。
 「大五木材」は昭和49年、照国さんの父が創業した。照国さんが入社した平成元年は、バブル最盛期で、景気も良かったため、「木のことは全く知らなくても、注文を受けて、売るだけで儲かる時代だった」と当時を振り返る。
 しかし、バブルが崩壊し、右肩下がりの景気とともに材木の価格も下落。会社存続の糸口を見付けたいと、妻・佐智子さんと全国各地の林業家や材木店などを訪ね、木について学んだ。「例えば長野県の『信州カラ松』は、ヤニが多いのですが、耐水性や耐久性があり、色も美しい。産地では、手間をかけて加工し、工芸品として生かしていたのです」と照国さん。次第に、木それぞれに特性があることを知り、産地や名前の由来といったことまで調べるようになり、木の奥深さにのめり込んでいった。
 各地で聞いた木の情報をたくさんの人に知ってもらうため、照国さんは手作り通信「適材適所」の制作を始めた。毎月発行を重ねるうちに、「スギやヒノキなど主要な木に関しては、国内にエキスパートがたくさんいる。ならば、自分はあまり知られていない木のことを極めよう」との思いが膨らみ、多様な材木を集めるようになった。ところが材木の中には住宅や家具用にはサイズが足りず、用途が見つからないまま処分するものも。照国さんは「縁あってここにたどり着いたのだから一切無駄にしたくはない」と思い付いたのが、手の中にすっぽりとおさまる小さな立方体。こうして「森のかけら」は誕生した。
 だが、材木関係者からは「目的のはっきりしないものは売れない」と批判を浴びる。その指摘どおり、売れない日々が続いた。そんなとき、照国さんは愛媛県内で、ある商品開発の会議に呼ばれ、「森のかけら」を持参。それに興味を持ったのが、県産業技術研究所の藤田雅彦さんだ。数々の商品づくりに関わってきた藤田さんは「こんなに種類のあるものはこれまで見たことがない。少し手を加えれば必ず売れる」と直感。同封していた木の説明書きにも注目し、デザインを改良するようアドバイス。照国さんは地元デザイナーと一緒に、240種類を紹介した「木の解説書」を制作。例えば、「樟(くすのき)」なら「信仰の対象ともなり、樟脳(しょうのう)が採取される木」、「蜜柑(みかん)」なら「長寿を祝う神聖な木」など、木の特徴だけではなく、雑学的な事柄も入れた。新たに専用の桐箱も作り、ロゴマークや木の名前ラベルのデザインを改良した。
 平成20年、100個セットと36個セットを主に自社のウェブサイトで販売。種類の多さと、木の解説書付きという新たな切り口が消費者の心をくすぐった。「森のかけら」は国内の優れた木製商品などを評価する「ウッドデザイン賞2015」を受賞するなど、製品としての評価も高まっていった。
 昨年、解説書には載っていない木を含めた289種類の「完全版」を購入した地元工務店経営の青木英章(ひであき)さんは、「この商品を使えば、お客さまに木の魅力を分かりやすく伝えることができます」と、その有益性を実感する。その他にも、ショップや家庭のインテリア、また、子どもの玩具など、購入者の使い方はさまざまだ。
 もっと手軽に購入できるよう、「森のかけら」の中から、5つを組み合わせた「5かけら」シリーズも展開。例えば、酒樽に使われる木を集めた「酒好きに贈る5かけら」など、これまでに40種類を商品化。そんな照国さんは今後の目標を「世界中の全ての木を見てみたい。いつか1,000種類集めることが夢です。商品としての名前が不明な木もたくさんあり、『森のかけら』に加えていくにはどうすればいいか、まだまだこれからです」と語る。木への尽きない愛情と好奇心で、照国さんは未知の世界へと挑み続ける。
「森のかけら」に付く「木の解説書」。これまで積み上げてきた照国さんの知識が生かされている
「森のかけら」に付く「木の解説書」。これまで積み上げてきた照国さんの知識が生かされている
地元で工務店を営む青木さんは、照国さんの木の知識に引き込まれたのが購入のきっかけ
地元で工務店を営む青木さんは、照国さんの木の知識に引き込まれたのが購入のきっかけ
森の重要性を伝えるオリジナルの木製絵本。妻・佐智子さんも木の魅力を伝える活動を行う
森の重要性を伝えるオリジナルの木製絵本。妻・佐智子さんも木の魅力を伝える活動を行う
「森の5かけら」は、長寿、スポーツ、酒シリーズなど40種類各2,500円(税別)
「森の5かけら」は、長寿、スポーツ、酒シリーズなど40種類
各2,500円(税別)
「森のかけら100」は240種類の中から100種類を選ぶことが可能。40,000円(税別)
「森のかけら100」は240種類の中から100種類を選ぶことが可能。40,000円(税別)
お問い合わせ
株式会社大五木材
住所

愛媛県松山市平田町455

電話番号 089-979-2238
URL http://morinokakera.jp/

近くの山の木の
伐採から始まる家づくり

讃岐の舎づくり倶楽部 ー香川県三豊市ー
伐採ツアーを主催した豊田均さん(前列中央左)、菅徹夫さん(豊田さん右後)と、ツアーに参加した人たち
伐採ツアーを主催した豊田均さん(前列中央左)、菅徹夫さん(豊田さん右後)と、ツアーに参加した人たち
 四国4県の中で、香川県は県産材の供給量が最も少ない。戦後、一斉に植林した松が、昭和40年代後半から松くい虫により壊滅的な被害を受けたことが一因だった。近年、松の後に植林したヒノキがようやく建築用材に適した大きさに成長してきた。香川県では、全国と比較して年間降雨量が少ないため、木がゆっくりと成長するので目が詰まって強度があり、良質なヒノキが育っているという。
 県産ヒノキを活用し、その良さを広めているのが、香川県三豊市で建築会社「菅組(すがぐみ)」の代表を務める菅(すが)徹夫さんだ。平成14年、民間グループ「讃岐の舎(いえ)づくり倶楽部(くらぶ)(以下:倶楽部)」を立ち上げ、地元の林業家と協力し、家を建てる施主と近くの人工林に入って家の「大黒柱」を一緒に伐採するツアーを実施している。ツアーは一般の方も参加が可能で、リピーターがいるほど好評のイベントだ。
 菅さんが倶楽部を立ち上げたのは、「近くの山の木で家をつくる運動」(NPO法人「緑の列島ネットワーク」主宰)の活動に賛同したことに端を発する。安価な外国産材ばかりを使う家づくりに疑問を抱いていた菅さん。「この運動は、地域への愛着を育むことにつながる。ひいては県内の林業を守る一助にもなるはず。そのためにも木材の地産地消を進めたい」と、地元香川でのグループ結成に踏み切った。その仲間として声を掛けたのが、県内では数少ない専業林業家の豊田均(ひとし)さんだ。
豊田さん(右)の人工林で、ヒノキについて語る菅さん(左)
豊田さん(右)の人工林で、ヒノキについて語る菅さん(左)
 豊田さんは、香川県まんのう町で約50万平方メートル(甲子園球場の約13倍)の森林(人工林)を管理する。約50年間、人工林を保全するため生育の妨げになる木を間引く「間伐」と、節ができないための「枝打ち」を行い、質の高いヒノキを育ててきた。
 豊田さんの人工林は樹木の間から光が入り、大木の足元で育つ低木も緑色に輝く。現場にあった切り株を見つめながら、菅さんはほほ笑む。「製材すると、美しい肌目が出るんです。熊野や吉野といった有名なヒノキの産地にも引けを取らないほど美しい森です」と菅さん。この場所に一般の方を招き入れ、香川県産ヒノキのことを知ってもらうイベントを開きたい。そんな思いから伐採ツアーを企画した。
 ツアー当日は、豊田さんがこれから伐採するヒノキや林業などについて説明をした後、枝打ちなどの作業を体験。その後、伐採の様子を参加者全員で見守る。
 高さ20メートル以上に育ったヒノキが倒れる瞬間、地面が揺れる衝撃と風圧を感じる。「毎回、伐採ツアーの現場は、拍手と歓声に包まれます。目の前で伐採された木を使えば、家への愛着も、より一層深まるでしょう」と菅さん。
 活動を始めてから17年間で、60本余りのヒノキが大黒柱になった。直径30センチのヒノキからは大黒柱を含めて4、5本の柱ができる。最近の住宅では柱を隠す構法が増えているが、菅さんはヒノキの美しさや伐採ツアーの記憶にいつでも触れることができるようにと、大黒柱を含む何本かの柱を、あえて見えるように設計するという。
「間伐」や「枝打ち」を終えた人工林は、光が差し込み周囲の空気が変わる
 昨年、菅さんが長年願ってきた100%県産材の住宅も実現した。施主の佐藤直人さんも、幼いお子さん2人を伴い、家族で伐採ツアーに参加した。木が前面に出た自然素材の家に興味があったのは奥様で、佐藤さん自身はもともと、コンクリート建築が好みだった。しかし、「倶楽部」のホームページで紹介していた伐採ツアーで、木について熱く語る菅さんの思いにいつの間にか惹き付けられていった。
 佐藤さん宅のリビングは芳醇なヒノキの香りが漂い、柱が美しい肌目を見せていた。「もともと好きだった直線の構造美も木で表現できるんだと知りました。香りや見た目から、家の中にいながら自然を感じることができます」と、家の魅力を語る。さらに、「伐採ツアーは特別な体験で、子どもたちの記憶にも残りました。目の前で伐採された木が柱となって家を支えていることを考えると、私たち家族にとって、とても思い入れのある家になりました」と佐藤さん。県産ヒノキへの関心を高める伐採ツアー。菅さんたちの取り組みは、確実に広まっている。
ヒノキの上部は、「木登り柱」としても活用。子どもたちにも人気だ
ヒノキの上部は、「木登り柱」としても活用。子どもたちにも人気だ
「菅組」では県産ヒノキのドアも製作している
「菅組」では県産ヒノキのドアも製作している
直線の構造が美しい佐藤さん宅のリビング
直線の構造が美しい佐藤さん宅のリビング
伐採ツアーに参加し、オール県産材の住宅を建てた佐藤さん家族
伐採ツアーに参加し、オール県産材の住宅を建てた佐藤さん家族
お問い合わせ
讃岐の舎づくり倶楽部
住所

香川県三豊市仁尾町仁尾辛15-1

電話番号 0875-82-2988
URL http://www.sanuki-ie.com/
備考 大黒柱伐採ツアーは昼食代、保険料込みで1人1,000円(税込)