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 市民マラソンとは、日本陸上競技連盟に登録していないランナーも参加できるマラソン大会のこと。平成19年に市民マラソンとして「東京マラソン」が開催されたことでブームに火が付き、全国の自治体などで盛んに開催されるようになった。
 それに伴い、フルマラソンに挑む人も増えた。その地域の特色を生かした応援や、もてなしに触れようと、全国各地の大会を訪れるランナーも存在する。
 長い道のりに挑む彼らを支えるのは、ボランティアスタッフや応援をする市民たちであり、彼らが一体となってランナーを盛り上げる。参加者数が1万人以上の四国を代表するマラソン大会を紹介する。

常に全国トップクラスの評価を得る

 愛媛マラソンの歴史は長く、平成31年で57回目を迎える。第1回は30人の選手が出走する競技会だった。その後コースなど変更を加えながら回を重ね、平成22年には一般ランナーも参加できる市民マラソンとして生まれ変わり、現在は1万人規模にまで成長した。
 規模の大きな大会は高評価が得にくいといわれる。しかし愛媛マラソンは、全国のマラソン大会の情報を提供する、日本最大級のランナー向けウェブサイトで、常にトップクラスの評価を得ている。
 その理由には、道後温泉周辺をはじめ、市内に宿泊施設が多いなどの便利さもあるが、一番の理由はボランティアスタッフや地元住民たちによるおもてなしの心だ。
ランナーのイラスト
湯ったりオレンジロードを走る愛媛マラソンランナー
愛媛県庁前から「坊っちゃん列車」の汽笛に見送られ「湯ったりオレンジロード」と呼ばれるコースを走る。年々人気が高まり、現在ではエントリー抽選倍率が約3倍にもなるという
沿道で鐘と太鼓が打ち鳴らされている様子
折り返し地点付近では、松山市北条地区のだんじりが鐘と太鼓を打ち鳴らす。地元住民たちは平成22年に市民マラソンになってから毎回だんじりを出して応援している
沿道にはランナーを応援するギャラリーがずらり
コース上の37km地点。途切れることのない応援がランナーの背中を押す

愛媛ミカンを片手に応援

 声援を受けるということは、ゴールを目指すランナーにはとても励みになる。「途切れることのない温かな声援に、毎回涙が出そうになる」など、ランナー向けウェブサイトには応援に対する県外ランナーからのコメントも多く寄せられている。
 コース沿道には給水や給食を行う「エイド」と呼ばれるポイントがあり、大会運営の公設エイドに加え、個人・グループ・企業などによる私設エイドがある。なかでも大会が市民マラソンになった平成22年から毎回活動をしている「みかんエイド」は、愛媛マラソン私設エイドの先駆け的グループ。愛媛特産のミカンを提供しながら心のこもった応援でランナーを励ます名物エイドだ。
 「みかんエイド」で配るミカンは、メンバー約20人が自費で購入。最初のランナーが通過するまでに、朝9時から3時間近くかけて一口サイズに剥(む)き準備を整える。
 このエイドがあるのは32㎞地点。疲労と戦うランナーたちに、心を込めて剥いたミカンを差し出しながら、「あと10㎞しかないよ」「まだまだ行ける!」と、折れそうになった心を前向きにする熱い言葉をかける。「このミカンおいしいね」とランナーが喜ぶ姿を見て、「また来年もミカンでもてなそう」と思うそうだ。
一口サイズに剥いた愛媛みかんをランナーに差し出す
「みかんエイド」では最後のランナーが通過するまで、ミカンが無くならないように約160kgを用意している
笑顔の菊地康男さん
「みかんエイド」のリーダーの菊地康男さん
笑顔の濱﨑栄則さん
愛媛陸上競技協会の副会長を務める濱﨑栄則さん。「ランナーの喜ぶ顔を見ると励みになる」と話す
ゴールしたランナーに今治タオルをかけ出迎える様子
ゴール後は、ボランティアスタッフが今治タオルでランナーを出迎える
足湯で疲れを癒すランナー
ゴールエリアにある足湯は、道後温泉の源泉を利用している

高校生ボランティアの思いやりの心

 ゴール直後のランナー手荷物受け渡し所で活躍するのは高校生ボランティア。手荷物はゼッケン番号から探し出すのだが、荷物を受け取りに来るランナーのゼッケン番号を遠くから確認し、受け渡し所にたどり着く頃には荷物が準備できるよう工夫している。それは回を重ねる中で「疲れているランナーを待たせては悪い」と高校生が自主的に考え出した手法で、先輩からから後輩へ引き継がれている。「途切れない応援や、ボランティアスタッフのランナーに対する細やかな心配りのおかげで高評価を得られているのではないでしょうか」と運営に長年携わる、愛媛陸上競技協会の濱﨑栄則(しげのり)さんは話す。
 実行委員会は、ランナーの安全への配慮など、課題には素早く対処することを心掛けている。今後もより楽しく、より安全な、ランナーのための大会づくりを目指す。

第57回愛媛マラソン大会DATA

第57回愛媛マラソン(愛媛県松山市)
住所

〔スタート地点〕 愛媛県庁前:愛媛県松山市一番町4丁目4-2

開催日 平成31年2月10日(日)
スタート地点 愛媛県庁前
フィニッシュ地点 城山公園(堀之内地区)
URL https://ehimemarathon.jp

県民の健康増進を目指した、県民のための大会「とくしまマラソン」

 徳島県は全国でも糖尿病の多い県といわれていた。「県民の健康増進に役立つものはないか」「春の目玉イベントをつくりたい」など、県が抱えるさまざまな課題について検討する中で、たどり着いたのが市民マラソンだった。県外からの参加を期待する大会も多いが、とくしまマラソンは県民のランナーも増やそうと、初心者のためのランナー養成講座や、ランナーのマナー向上運動にも力を入れている。
ランナーのイラスト
吉野川川沿いを走るランナーたち
スタートから約2.5km走ると市街地を抜けて、吉野川へ。吉野川の壮大な景色がランナーを開放的な気分にさせる
グッドランナーバッジ
ランナーのマナーアップ活動の一環として、「グッドランナーバッジ」を販売している
走るんじょ!初心者講座の様子
とくしまマラソン実行委員会が、県民のランナーを増やすために開催している「走るんじょ!初心者講座」

とくしまマラソンを象徴する初心者のためのペースセッター

 運営ボランティアに、ペースセッターがある。ペースセッターとは、目標とするゴールタイムのペースの目安として走る人のことで、ランナーをゴールに導く役割を果たす。ペースセッターはコースのアップダウン・気温・天候も考慮しなければならず、走力と経験値を必要とする非常に難しい役割だ。
 ペースセッターのボランティアを務めるのは、「徳島大学ジョガーズパラダイス(以下:TJP)」。大会開催以前の平成14年から徳島大学 大学開放実践センターでは、田中俊夫教授の指導のもと、初心者ランナー向けにフルマラソンを走るための公開講座を行っていた。TJPはその第1期受講生から自主的に派生したランナーズクラブだ。
 とくしまマラソンには、ゴール時間が3時間30分から6時間30分まで、30分刻みでペースセッターがいる。6時間30分のペースセッターは、初心者を意識して設定されており、このペースセッターに35㎞付近までついて行けると、そこから少し遅れても制限時間内にゴールできるという。「一緒に走ることで完走を果たせたので、初心者にはありがたいです。おかげでランナーとしての自信がつきました」と初めて走った県民は笑みを浮かべる。
ペースセッターを務めた田中俊夫さん
徳島大学大学開放実践センター教授の田中俊夫さん。昨年の大会は3時間30分のペースセッターを務めた
阿波木偶人形での応援の様子
国の重要無形民俗文化財「阿波人形浄瑠璃」で使われる、阿波木偶(あわでこ)人形での応援
沿道では阿波おどりのさまざまな「連」が熱い踊りでランナーたちを出迎える
四国大学阿波踊り部など、沿道では阿波おどりのさまざまな「連」が熱い踊りでランナーたちを出迎える
ペースセッターのゼッケンにはゴールの時間が書かれている
ペースセッター(右)のゼッケンにはゴールの時間が書かれている
力強い太鼓の音で、ランナーを奮い立たせる鴨島鳳翔(ほうしょう)太鼓
力強い太鼓の音で、ランナーを奮い立たせる鴨島鳳翔(ほうしょう)太鼓
とくしまマラソン実行委員会事務局の樫本篤実さん、岡田浩良さん、井川拓也さん
とくしまマラソン実行委員会事務局の樫本篤実さん(左)、岡田浩良さん(中)、井川拓也さん(右)

ゴール時に分かち合う喜びの素晴らしさ

 なぜペースセッターとして走るのか?「それはペースセッターの立場でしか味わえない喜びがあるからです」と田中教授は話す。一緒に走るうちに、いつの間にか、一つのチームのような連帯感が生まれ、ゴールを目指す。無事ゴールし、共に喜びや感動を分かち合う瞬間は、一人でゴールした時とは比べものにはならないという。
 大会名物でもある6時間30分のペースセッターの周りには、初心者や高齢者が多く、常に気配りが必要とされる。しかも長丁場のため自分の体力とも戦わなければならず、非常に難しいという。田中教授は6時間30分のペースセッターを10年間務め、昨年の大会では練習を重ね実力を付けたTJPのメンバーに引き継いだ。今後もペースセッターを担える人が増えることを願っている。

完走率全国1位を獲得

 ランニングの普及・発展のための事業を展開する「アールビーズスポーツ財団」が平成29年度に調査した「全日本マラソンランキング」。このなかで徳島県は、マラソン完走者の比率が、初めて全国1位を獲得した。実行委員会はマラソンが県民に定着してきたことを実感しているという。
 平成29年には、フルマラソンでは中四国初となるウェーブスタート(参加者を走力などで組分けし、時間差を付けてスタートする方式)を導入。これによりスタート時の混雑が緩和され、記録を目指すランナーも、不慣れな初心者も安心して出走できるようになった。今後も誰もが気持ちよく走れる大会づくりで「県民のための市民マラソン」を盛り上げていく。

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 四国のマラソン大会が盛り上がる理由の中に、お遍路の「お接待」文化が見て取れる。長い道のりに挑む人を無償でもてなし・励ますという四国人たちのお接待の心は、市民マラソンでも存分に発揮されているようだ。

とくしまマラソン2019大会DATA

とくしまマラソン2019(徳島県徳島市)
住所

〔スタート地点〕 徳島県庁前:徳島県徳島市万代町1丁目1

開催日 平成31年3月17日(日)
スタート地点 徳島県庁前
フィニッシュ地点 徳島市陸上競技場
URL https://www.tokushima-marathon.jp

世界の一流選手が本気の走りをみせる 香川丸亀国際ハーフマラソン

 国際陸上競技連盟(IAAF)から認定を受けたコースは比較的フラットなため、世界新記録が出たこともある「超高速コース」として知られる。そのため国内外のトップランナーたちが好記録を目指す、地方都市では珍しい国際的な市民マラソン。
 箱根駅伝で活躍した選手や、世界記録保持者など、豪華な顔ぶれのトップランナーの熱い戦いが見られるとあって、地元はもとより、全国各地からマラソンファンが沿道に集まる。そのため声援も盛大で、ランナーにはその声援を励みに自身の記録に挑めると評判が高い。
 トップランナーから初心者まで幅広い層が参加し、自己記録更新や、走ることを楽しむこの大会。距離がハーフなので、市民マラソンへの初チャレンジにも最適だろう。
コースから見える飯野山
讃岐平野を走るコースからは、讃岐富士の名で親しまれる飯野山が見える
ゴール付近の様子
平成20年から制限時間が3時間に緩和され、一般ランナーも参加しやすくなった

第73回香川丸亀国際ハーフマラソン大会大会DATA

第73回香川丸亀国際ハーフマラソン大会(香川県丸亀市)
開催日 平成31年2月3日(日)
スタート地点 Pikaraスタジアム前
フィニッシュ地点 Pikaraスタジアム
URL https://www.km-half.com

「わざわざ高知で走ろう」高知龍馬マラソン

 出走と観光を併せて楽しむ「旅ラン」好きのランナーたちにも評判の大会。海・山・川と雄大な高知ならではの景色の中を走り、よさこい鳴子踊りでの応援や、かつお飯を振る舞うエイドなど、高知の魅力が凝縮されている。
 前日にはランナーへのもてなしにと、よさこい鳴子踊りなど、賑やかな歓迎イベントを開催。また、当日は地元食のブースなどもあり、高知を満喫できる内容になっている。
 全国には同日に行われる大会が他にもある。その中から高知を選んでもらえるよう「わざわざ高知で走ろう」をキャッチコピーに、これからも高知らしさがあふれる大会作りを目指していく。
キラキラと輝く太平洋のそば
キラキラと輝く太平洋のそばを走るコースは南国・高知ならではの魅力だ
笑顔でゴール!
高知のおもてなしを受けながら42.195kmを走りきり、笑顔でゴール!
前日イベントのよさこい鳴子踊り
前日イベントのよさこい鳴子踊り。高知ならではのパワーがダイレクトに伝わってくる

高知龍馬マラソン2019大会DATA

高知龍馬マラソン2019(高知県高知市)
開催日 平成31年2月17日(日)
スタート地点 高知県庁前
フィニッシュ地点 春野陸上競技場
URL https://ryoma-marathon.jp