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 戦国時代の長宗我部元親をはじめ、司馬遼太郎の歴史小説『功名が辻』に登場する山内一豊・千代夫妻、幕末を駆け抜けた志士・坂本龍馬、三菱財閥の初代総帥となった岩崎彌太郎、自由民権運動の指導者・板垣退助ら高知県からは多くの偉人が世に出ている。その活躍は、多くの人が知るところだ。また県内には、偉人ゆかりのスポットが数多く点在しており、歴史を肌で感じることができる。
 そんな「歴史の宝箱」ともいえる高知で、今、2つの歴史ミュージアムが注目を集めている。1つは平成29年3月、高知城のふもとに開館した「高知県立高知城歴史博物館」。全国的にも珍しく、頻繁に展示が入れ替わっている博物館だ。もうひとつは、平成30年4月にリニューアルオープンした「高知県立坂本龍馬記念館」。新たに誕生した「新館」により、龍馬ファンを一層惹きつけている。ともに歴史ミュージアムとしての新しいあり方を示している2つの施設を訪ねて、その取り組みを紹介する。

「本物」にこだわった実物展示で魅了

年間十数回の展示替えで貴重な資料が続々登場

 「高知県立高知城歴史博物館(以下:城博(じょうはく))」は、オープン後1年間で20万人以上が来館した。その前身は、平成7年に設立された「土佐山内家宝物資料館」。この資料館は、土佐藩主山内家に代々伝わっていた古文書や美術工芸品、写真など約6万7,000点を収蔵。長宗我部地検帳(国指定重要文化財)や、山内一豊に宛てられた豊臣秀吉の朱印状など、研究者も驚く資料ばかりだったが、意外にもそれらが県民の目に触れる機会が少なかった。「これだけの貴重な実物資料を、新しい博物館でもっと多くの人に見てもらわなくてはとの想いがありました」と広報担当の大保和巳(おおぼかずみ)さん。
 展示室は3室あり、「総合展示室1」では土佐藩を概観し、「総合展示室2」では大名道具や土佐の文化、さらに「特別展示室」では季節や学芸員独自の多彩な切り口による企画展を開催。各室の展示品は2ヵ月に1回入れ替えている。「3室それぞれ時期をずらしながら入れ替えて、年間合計で十数回もの展示替えを行っています」と大保さん。訪れる度に展示が変わっていることもあるほど、「来館者を飽きさせない博物館」なのだ。これまでに坂本龍馬や西郷隆盛の真筆(しんぴつ)など、初公開の資料も次々と展示され話題となった。「今、どんなテーマで貴重な実物資料が展示されているのか」と興味をそそることで、来館者の再訪につなげている。
高知城を大パノラマで望む
左/特別展示室では、年間を通して季節に合わせたテーマや、独自の切り口による多彩な企画展が行われる
右上/展望ロビーからは、江戸時代の姿を残す美しい高知城を大パノラマで望むことができる
右下/展示室では、音声ガイド機器による分かりやすい解説を聞きながら観覧できる

全国でも珍しい地域連携担当部署

 「城博」では、県内の歴史や文化を守っていくために、スタッフが積極的に各地を飛び回っている。博物館と地域のパイプ役となっているのが、地域連携専門の部署「企画課」。博物館に地域連携の専門部署を設置している例は全国でも稀だ。
 タンスや物置に眠っている日記や古文書、書籍、手紙などは、その価値に気付かず処分されてしまうケースがある。「ところがこれらに記録された内容が、歴史の裏付けとなるのです」と企画課の筒井聡史(さとし)さん。かつて企画課には、「公民館にある古い文書を廃棄してしまってもよいか」という相談が寄せられたことがある。すぐに現地調査をしたところ、江戸時代後期から昭和までの土地や年貢に関する帳簿、神社の祭礼に関する文書など、地区の歴史を知る上で貴重な資料であることが分かった。「いつの日か、地域に眠っている資料が、歴史の常識を覆すような発見につながるかもしれません」と筒井さん。また、地域の歴史の情報を発信するために、2階「閲覧室」では「小村データ」を公開している。これは県内1,000ヵ所以上に及ぶ江戸時代の旧村単位の情報をまとめたデータであり、パソコンを通して誰もが閲覧することができる。今、自分が住んでいる地域の昔の様子を知ることができると好評だ。
 こうした郷土の歴史文化保存事業は、地域の人たちが自らの故郷を見つめ直し、大切にするという動きにつながるのではないだろうか。
広報担当の大保和巳さん(左)と企画課の筒井聡史さん(右)。「城博」では2人のような若手スタッフたちが活躍している
広報担当の大保和巳さん(左)と企画課の筒井聡史さん(右)。「城博」では2人のような若手スタッフたちが活躍している
建物2階閲覧室にある「小村データ」。高知の歴史情報を誰でも閲覧することができる
建物2階閲覧室にある「小村データ」。高知の歴史情報を誰でも閲覧することができる
松皮菱梅切丸三柏紋蒔絵耳盥・嗽椀(まつかわびしにうめきりまるにみつがしわもんまきえみみだらい・うがいわん)
松皮菱梅切丸三柏紋蒔絵耳盥・嗽椀(まつかわびしにうめきりまるにみつがしわもんまきえみみだらい・うがいわん)
黒漆地に梅を散らした松皮菱文様と、山内家の家紋である三柏紋・花桐紋を表したお歯黒道具。揃いの図柄で手鏡箱・文庫などが伝わる
兎耳形兜(うさぎみみなりのかぶと)
兎耳形兜(うさぎみみなりのかぶと)
4代藩主 山内豊昌(とよまさ)所用/17世紀
兎を模した変わり兜。武士にとって欠かせない武器・武具類は家ごとに由緒やデザインに特徴のあるものが多いが、山内家は奇抜なデザインの兜が際立つ
長宗我部地検帳
重要文化財 長宗我部地検帳(ちょうそがべちけんちょう)
豊臣政権期に土佐国主であった長宗我部氏が行った検地の成果で、土佐国全域368冊が現存する
渾天儀(こんてんぎ)
渾天儀(こんてんぎ)
川谷薊山(かわたにけいざん) 作/江戸時代中期(18世紀)天体の位置を観測するための中国古来の観測機器である渾天儀の模型。土佐藩士・天文暦学者の川谷薊山が藩主に献上したもの
主な展示スケジュール

お問い合わせ

高知県立高知城歴史博物館
住所

高知県高知市追手筋2-7-5

電話番号 088-871-1600
開館時間 9:00〜18:00(日曜は8:00〜)※展示室への入室は閉館の30分前まで
定休日 なし
観覧料 500円(企画展開催時700円) 高校生以下無料
URL https://www.kochi-johaku.jp

龍馬の魅力がギュッと詰まった記念館

龍馬の生涯を資料でたどる常設展示室
左/龍馬の生涯を資料でたどる常設展示室 右上/本館2階から太平洋を望む。龍馬の生き様を学んだ後に眺める太平洋の情景は感慨もひとしお 右下/蒸気船を模した展示では、幕末の船や大政奉還について学べる

体験して楽しむ「本館」歴史資料と出会う「新館」

 太平洋を見下ろす高台に建つ「高知県立坂本龍馬記念館(以下:記念館)」は、平成3年に開館した。桂浜の坂本龍馬像からも近く、一帯は全国から龍馬ファンが訪れる「聖地」とも言える場所となっている。建築にあたっては、県内の青年たちが募金活動を行い、完成に至ったという経緯がある。太平洋に漕ぎ出す船のように見える建物は、ハーフミラー仕上げの総ガラス張り。館内には太陽光がさんさんと差し込み、明るく開放的な雰囲気が人気を呼んでいる。「一方で、貴重な資料の展示や保存の環境を改善することも課題となっていました」と、広報担当で学芸員の河村章代(あきよ)さん。そこで従来の建物を「本館」とし、平成30年4月、3つの展示室やホールを備えた「新館」をオープン。「新館」を資料の展示スペースとし、開放感満点の「本館」では、体験型の展示を行うようになった。「新館ではゆっくりと歴史資料を見学していただき、本館では楽しみながら歴史を学ぶ。方向性の異なる2つの建物により、記念館の魅力はいっそう増したと自負しています」と河村さんは胸を張る。貴重な資料を保存するための収蔵庫も整備され、現在は新たな資料の収集にも力を入れている。
龍馬が持っていたものと同型のピストル「スミス&ウエッソンⅡ」
龍馬が持っていたものと同型のピストル「スミス&ウエッソンⅡ」

新館の誕生により常設展示がいっそう充実

  新館の常設展示室では、手紙などを通して龍馬の生涯を紹介している。龍馬が筆まめであったことはよく知られており、龍馬が親しい人と交わした書簡は展示の目玉となっている。姉の乙女に宛てたものなど、これまでの所蔵品に加えて、新たに収蔵した龍馬直筆の手紙なども展示され、より充実した内容となった。また、展示品の中には複製品もあるが、その精度は高い。「京都国立博物館や宮内庁書陵部など、各地で保存されている貴重な龍馬の書簡を複製展示していますが、常設展示室で一堂に見ることで気付くこともあるんです」と河村さん。例えば姉に宛ててしたためた書簡では大らかで柔らかい筆使いも、盟友に宛てては几帳面。相手によって龍馬の筆致が変わっていることが理解でき、より龍馬の人間性に近づけたように感じられるのだ。

体験型施設によりより幅広いファンの獲得を

 「新館」が『龍馬を学ぶ』施設とすれば、「本館」は『龍馬と遊ぶ』をテーマにした歴史を楽しむ施設。薩長同盟のあらましを説明するコーナーが芝居小屋のようなつくりになっていたり、蒸気船を模した展示や再現された旅籠・近江屋があったりと、体験型の展示がずらりと並んでいる。龍馬が書いた仮名文字を使って名刺を作るコーナーでは、子どもたちが夢中で自分の名前の文字を探している。幼児や小学校低学年の子どもも、遊び感覚で楽しみながら龍馬や歴史に触れることができるのだ。
 「記念館」の入館者は、平成30年7月に400万人に到達するなど、歴史ミュージアムとしては大盛況の施設となっている。多くの人が、「記念館で龍馬のことを知りたい」と思っていることがうかがえる。低かった県内在住者の来館者数も、リニューアル後は増加し、親子連れや3世代の来館者も目立つようになった。「今後は出前講座など、さまざまな催しにも力を入れて、記念館そのもののファンをもっともっと増やしていきたい」。「記念館」の挑戦はこれからも続く。
本館の「薩長同盟」の展示コーナーでは、アニメーションを使って分かりやすく説明している
本館の「薩長同盟」の展示コーナーでは、アニメーションを使って分かりやすく説明している
学芸員の河村章代さんの説明を聞きながら資料を見つめる子どもたち。「大好きな龍馬さんのことを知ることができて嬉しい」と顔をほころばせる
学芸員の河村章代さんの説明を聞きながら資料を見つめる子どもたち。「大好きな龍馬さんのことを知ることができて嬉しい」と顔をほころばせる
龍馬の写真をもとに作られたパズル。遊びの要素を取り入れつつ、子どもたちが龍馬に触れられるよう工夫されている
龍馬の写真をもとに作られたパズル。遊びの要素を取り入れつつ、子どもたちが龍馬に触れられるよう工夫されている
龍馬が暗殺された京都の「近江屋」8畳間を実物大で再現したコーナー。現場にあったとされる屏風も複製展示
龍馬が暗殺された京都の「近江屋」8畳間を実物大で再現したコーナー。現場にあったとされる屏風も複製展示
坂本龍馬書簡 慶応2年(1866)12月4日 姉乙女宛(新婚旅行報告)(複製・写真は一部)
坂本龍馬書簡 慶応2年(1866)12月4日 姉乙女宛(新婚旅行報告)(複製・写真は一部)
坂本龍馬書簡 慶応3年(1867)11月13日 陸奥宗光宛
坂本龍馬書簡 慶応3年(1867)11月13日 陸奥宗光宛

お問い合わせ

高知県立坂本龍馬記念館
住所

高知県高知市浦戸城山830

電話番号 088-841-0001
開館時間 9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
定休日 なし
入館料 企画展開催時700円(その他の期間490円) 高校生以下無料
URL https://ryoma-kinenkan.jp