促成キュウリの単位面積あたりの収穫量で全国2位を誇る徳島県海部郡。
1,000㎡で30トンの収穫量を誇る“キュウリの匠”たちがその立役者だったが、昨今は、高齢化と担い手不足が深刻化。キュウリ農家は存続の危機にあった。そこで移住就農による地域活性化を目指して新たなプロジェクトが始まった。
農業にイノベーションを!
先進の栽培技術で地域を活性

海部(かいふ)きゅうり塾
平成27年、高齢化による生産農家の減少を危惧した地元農協のJAかいふと徳島県、海部郡3町(牟岐町・美波町・海陽町)は、移住就農を希望する人を育成して、地方創生を図る「きゅうりタウン構想」を掲げた。これまで温暖な気候と冬場の日照量の多い地の利、高い栽培技術によって確立してきた“収入を得られる農業”を次世代に引き継いでいく計画だ。
そこで、農業の初心者でもキュウリの栽培を学べる「海部きゅうり塾(以下:きゅうり塾)」を開講した。この塾では1年かけて、農業の基礎知識から栽培技術、経営方法まで学んでいく。若い世代に興味を持ってもらうためには「きつい、汚い、給料が安い」という農業のイメージを払拭することが必須。クリーンな空間で栽培でき、省力化できるオランダ式の「養液栽培」を導入した。また、養液栽培の実習環境として「次世代園芸実験ハウス」を建設。ここでは、確実に安定した収入を得るための収穫に必要な研究や試作を行い、研修中はもちろん卒業後もサポートする。さらに、卒業後5年間は、高価なオランダ式のハウスを定額でレンタルできるなど、移住就農に向けた手厚いサポートも用意した。
「どんなにいいところであっても、仕事がないと生活できません。移住しやすい環境をつくるのも私たちの役目です」ときゅうり塾を担当するJAかいふの奥村航(わたる)さん。就農1年目の卒業生で460万円ほどの年間所得があるという。




現在5期が終了し、6期生を募集しているきゅうり塾。卒業生のうち16人が就農し、そのうち8人は、「きゅうり団地」と呼んでいる海陽町のビニールハウスで就農している。
夫婦で4期生として研修を受け、昨夏から就農した満尾匡記(みつおまさき)さん・美香さん家族は大阪府からの移住組。「移住の決め手は、このハウスと養液栽培でした。前職はシステムエンジニアだったので、ハウスや作物の細かな管理に、これまでの知識が生かせるのではないかと思ったんです」と匡記さん。夫の挑戦を応援しようと、ともに学んだ美香さんは「大阪ではあまりなかった家族の時間が増えたことで、今までよりも2人の子どもたちに笑顔が増えた」とほほ笑む。移住したら趣味のアウトドアを楽しむという思惑は、今のところキュウリに夢中でお預けだが、広いハウスが子どもたちの休日の遊び場になっているという。
一方、2期生の伊藤千尋(ちひろ )さんは、妻と子、両親とともに埼玉県からの移住組。移住前にも農園を経営していた伊藤さんは「これまでの経験から、農業で安定した収入を得るのは大変と実感していました。ですが、養液栽培であれば収穫量が一定になり、安定した収入が得られると思ったんです」という。1,700㎡のハウスで収穫期には、1日あたり1,500本〜2,000本を収穫できるようになり、手応えを感じ始めているそうだ。
「地元の農家さんも移住してきた人も、みんなで一緒に課題をクリアしながら、10年後には、キュウリのハウスが一面に広がる一大『きゅうりタウン』にしていきたい」と奥村さんは言う。計画はまだ始まったばかり。これからも海部を愛する全員が一丸となって、キュウリとともに成長していくに違いない。




住所 |
徳島県海部郡海陽町野江南の前43番地1
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電話番号 | 0884-73-1263 |
メール | ja-kaifu-eigyoubu@circus.ocn.ne.jp |
URL | https://www.facebook.com/kaifukyuuri/ |