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 知識を深めたり、想像力を育んだり、生きる力を得たりと、「本」から得られる情報は多い。何度も読み返したくなる愛読書がある人も少なからずいるはずだ。そんな本との出会いの場となっている本屋に、今ちょっとした変化がうまれている。店主が厳選した新刊や古書を並べた「街の小さな本屋さん」が、四国で増えているというのだ。
 これらの書店では、店主が「選書」を行っており、貴重な1冊に出会えることがある。
 また、小規模な出版社の本や自費出版本との出会いも待っている。ゆっくりとコーヒーを飲みながら本を選ぶことができるところもあり、あたかもカフェを訪れるように、定期的に足を運ぶ人もいるようだ。そこで「街の小さな本屋さん」を訪ねて、その魅力を探った。

CASE:1本屋ルヌガンガ

7万種類の中から自分の読みたい1冊を

 活字離れが進んでいる…。そんな話を耳にすることがある。確かに「紙の本」の売上は右肩下がりが続いている。こうした状況にともなって、本屋事情にも変化が訪れている。老舗の個人書店の数が激減してしまったのだ。「それに代わるかのように、10年ほど前からポツポツとでき始めたのが、東京の『COW BOOKS 中目黒』や京都の『恵文社 一乗寺店』など、独立系書店、セレクト書店とも呼ばれる『街の小さな本屋さん』なのです」と話すのは、香川県高松市にある「本屋ルヌガンガ(以下:ルヌガンガ)」の店主・中村勇亮(ゆうすけ)さん。これらの書店は本好きの店主が厳選した本だけを置くのが特徴で、本と人を結びつけるさまざまなイベントにも取り組んでいる。
 今、国内では年間7万種類の本が出版されており、この数は、ここ10年間ほぼ横ばい状態。「あの本を買いたい」と目的を持った人のニーズは、大手書店やインターネット通販が満たしてくれるが、街の小さな本屋さんの役割はまた別。「ゆっくりと吟味し、読みたくなるような1冊に出会いたい」と考えている人が足を運んでくるのだ。中村さんは、愛知県でサラリーマンをしていたときに「街の小さな本屋さん」のファンになり、いつしか故郷の高松市で開業したいと考えるようになった。そして平成29年8月、「ルヌガンガ」を開業した。
雑貨屋さんやカフェを思わせるおしゃれな外観
雑貨屋さんやカフェを思わせるおしゃれな外観
中央にある大きなテーブルでは「座り読み」で本の内容を確かめられる
中央にある大きなテーブルでは「座り読み」で本の内容を確かめられる
ともに本好きの「本屋ルヌガンガ」の店主・中村夫妻
ともに本好きの「本屋ルヌガンガ」の店主・中村夫妻。「ルヌガンガ」とは、スリランカの著名建築家ジェフリー・バワが自分自身のために建てた別荘。店主夫妻は、言葉の響きが好きで店名として採用

全国でも珍しい地域連携担当部署

 「ルヌガンガ」は約30坪の店内に、約6,000冊の新刊が並んでいる。出版部数が少なく、宣伝もほとんどされていない本の中にも良書はたくさんある。「ルヌガンガ」は、そうした本との出会いの場だ。「文芸作品全般、小説・エッセイ、写真集などを自分の視点で選書しています。日々を楽しくするヒントをもらえたり、あるいは人生観に影響を与えたり。ここでそんな1冊と出会ってほしい」と店主の中村さん。足しげく通っている四宮幸子(さちこ)さんは、「買う本が決まっているときは大きな書店に行きます。大げさなようですが、ルヌガンガさんには『まだ見ぬ運命の1冊』を求めて来ています」と話す。
 店の奥には階段状の座席や大きなテーブル席があり、一角では、コーヒーやデザートを販売している。越智博子さんは、カフェのような雰囲気のこの書店のファン。「立ち読みならぬ『座り読み』で、じっくりと本を選ぶことができるのがうれしい。また、中村さんをはじめ、本好きの人たちと会話できるのもこの店ならでは」と、ゆっくりと本選びを楽しんでいる。
 本来、読書は一人でできるもので、これまで読書家が集うコミュニティはほとんどなかった。ところが「街の小さな本屋さん」では、本好きが集まって、本の感想や、そこから得られた人生観などを語り合うイベント「読書会」も盛んだ。中村さんと妻の涼子さんの出会いも、読書会がきっかけだった。「街の小さな本屋さん」は、本だけではなく人との出会いの場でもあるようだ。
「食」や「体」についての本を並べたコーナー
「食」や「体」についての本を並べたコーナー
会社帰りにスイーツやドリンクをいただきながらじっくり過ごすのもOK
会社帰りにスイーツやドリンクをいただきながらじっくり過ごすのもOK
中村さんにとって思い入れのある2冊
中村さんにとって思い入れのある2冊

本の轍

文学のまち・松山でわずか6坪の書店を開業

 越智政尚(まさなお)さんは子どもの頃から本が大好きで、小学生のときには3日で1冊を読破していたという読書家。広島県で就職したが、故郷の松山市に転勤になった3年前、かつて彼が通っていた個人書店が軒並み店じまいしていることにショックを受けた。「書店は文化の発信拠点。松山市のキャッチフレーズは、『文学のまち』のはずなのに、このままでいいのだろうか」と考えた越智さんは、妻の千代さんとともに平成29年11月、わずか6坪の小さな本屋「本の轍」を開いた。
 扱っているのは越智夫妻がこれまで読んで気に入った児童書、絵本、写真集、エッセイなど。コレクションしていた古書に加えて、手に取りやすい本を中心に揃えている。また、大手の書店では扱っていないリトルプレスと呼ばれる自主制作の出版物、それも四国在住の作家が書いたものも扱っている。「うちはスペースも限られているので、はっきり言って偏っています(笑)」と越智さん。その限られた本から「自分のための1冊」を見つけてもらうために、越智夫妻はお客さまとの会話を大切にしている。「どんなジャンルの本が好きか」などを聞き、その人のために「選書」を行うのだ。店に置いてある本全てを読破しているからこそできるサービスと言えよう。また、自分でゆっくりと選びたいという人のために、こちらの店もテーブルと椅子を用意。コーヒーやアルコールを片手に、お気に入りの1冊を探すことができる。
街角のビルの1階にある「本の轍」
街角のビルの1階にある「本の轍」

限られたスペースながら、ユニークな本がぎっしりと集まっている店内

限られたスペースながら、ユニークな本がぎっしりと集まっている店内
本だけではなく音楽など幅広い分野の知識が豊富な政尚さんと千代さん。彼らとの会話を楽しみに訪れる人も多い
本だけではなく音楽など幅広い分野の知識が豊富な政尚さんと千代さん。彼らとの会話を楽しみに訪れる人も多い

企画展やイベントで店のファンづくり

 「本の轍」では、企画展も定期的に開催している。平成30年に開催した「ロシアの装丁と装画の世界」展は、1950年代から80年代にかけて発行されたロシアの児童書などを展示販売し、好評を博した。来場者からは「当時の紙の雰囲気が独特で、箔押しなどの装丁も見事。手にしただけでワクワクした」という声が寄せられた。
 著者を囲むトークイベントも人気だ。松山市在住のエッセイストが新作を出版した際のトークイベントでは、店からあふれんばかりの参加者が集まった。新居浜市から足を運んだ合田みゆきさんは「地元に作家さんがいることを知り、迷わず参加を決めました。とても近い距離感で著者に直接質問を投げかけたり、自分の感想を発表したり、読むだけではない本の楽しさを満喫できました」と話す。「あの小さな店は、いつも面白いことをやっている」。そう感じてもらい、本と親しむきっかけをつくりたいと願う越智夫妻だ。

 「街の小さな本屋さん」には、本好きの店主がいて、そこを愛するお客さまがいた。まだ足を運んだことのない人も、一度、のぞいてみてほしい。もしかしたらそこにはあなたの「運命の1冊」があるかもしれない。
企画展で開催した「ロシアの装丁と装画の世界」展
企画展で開催した「ロシアの装丁と装画の世界」展
平成31年1月には松山市在住のエッセイスト・ミズモトアキラさんのトークイベントを開催
平成31年1月には松山市在住のエッセイスト・ミズモトアキラさんのトークイベントを開催

選書とブックイベント

 藤井佳之さんは、香川県高松市の街なかの古民家で、平成18年に完全予約制の古書店「なタ書」を開業した。「書店経営以外にもいろんなことをしたい。時間を有効に生かしたい」というのが完全予約制にした理由。ところが『予約をしないと入れない』というのがかえって話題となり、今では年間で約7,000人が訪れる人気店となっている。
 「県外はもとより、海外からやって来る人もいます」と話す藤井さんのもとには「選書」の依頼も多く寄せられる。飲食店や美容院などが、「他店にも置かれているファッション誌や週刊誌などとは違う、個性のある本を店に置きたい」と注文してくることがあるのだ。藤井さんは打ち合わせを重ね、そこにやって来るお客さまのニーズを考慮しながら本を選ぶ。高松市の中心部で平成30年12月にオープンした宿泊施設「WeBase 高松」からは、共有スペースに置く本の選書を依頼された。そこで、国内外からやって来る宿泊客が香川県や瀬戸内地域を楽しめるように、香川県内で出版されたものを中心に、写真集や郷土文化の本など約80冊をセレクト。「美しい写真が掲載されたものも多いので、海外の方にも好評です。カフェスペースとビジネスワーキングスペースに置いたこれらの本は、旅の参考になると喜ばれていますよ」と宮本 奈生子(なおこ)支配人。ここでは「本」もサービスの一つとなっているのだ。
 「近年は、街の小さな本屋さんが集まって行うブックイベントが各地で開催されており、大盛況。老若男女、大勢の人がやって来て、本との出会いに目を輝かせています」と藤井さん。ただ本を売るだけではない、本の魅力を伝えるという書店の果たすべき役割を改めて感じた。
「なタ書」の藤井佳之さんは、「完全予約制の古本屋」という全国でも珍しい形態で営業
「なタ書」の藤井佳之さんは、「完全予約制の古本屋」という全国でも珍しい形態で営業
古い建物の2階にある「なタ書」。本の迷宮に迷い込んだかのようなカオスな雰囲気もまた魅力だ
古い建物の2階にある「なタ書」。本の迷宮に迷い込んだかのようなカオスな雰囲気もまた魅力だ
不思議な雰囲気の「なタ書」は、今や観光名所にもなっている
不思議な雰囲気の「なタ書」は、今や観光名所にもなっている
「WeBase 高松」のカフェスペース。本を整理する宮本支配人
「WeBase 高松」のカフェスペース。本を整理する宮本支配人
平成30年11月に高松市内で開催されたブックイベントには、中四国の「街の小さな本屋さん」や「古本屋さん」が集まった
平成30年11月に高松市内で開催されたブックイベントには、中四国の「街の小さな本屋さん」や「古本屋さん」が集まった

お問い合わせ

本屋ルヌガンガ
住所

香川県高松市亀井町11-13

電話番号 087-837-4646
営業時間 10:00〜19:00
定休日 火曜日
URL https://www.lunuganga-books.com
なタ書
住所

香川県高松市瓦町2-9-7

電話番号 070-5013-7020
営業時間 予約制
定休日 不定休
URL https://twitter.com/KikinoNatasyo
WeBase 高松
住所

香川県高松市瓦町1-2-3

電話番号 087-813-4411
チェックイン 15:00
チェックアウト 11:00
カフェ営業時間 12:00〜20:00
URL http://we-base.jp/takamatsu/
本の轍
住所

愛媛県松山市春日町13-10

電話番号 089-950-4133
営業時間 13:00〜19:00
定休日 不定休
URL https://twitter.com/honno_wadachi
https://www.instagram.com/honno_wadachi/?hl=ja