愛媛県久万高原町の中でも高知県との県境近くに位置する中津地区は、手つかずの自然が残るエリア。
地区内にある学校を再生してつくられたのが「中津大人の音楽学校」。
音楽を楽しむ大人が集まる場所として、地域を盛り上げている。
ふるさとから聴こえるメロディ
人を惹きつける音楽の力

中津大人の音楽学校
平成21年にスタートした「中津大人の音楽学校」。旧柳谷(やなだに)村(現在の久万高原町)で生まれ育った羽澤(はざわ)修一さんと稲田稔久(としひさ)さんが中心となり、音楽をキーワードに多くの人が集い楽しむためにつくった拠点だ。きっかけは、平成13年に閉校となった旧中津小学校の活用。平成元年に建築した木造校舎は、まだまだきれいな状態にもかかわらず、ほとんど活用されていなかった。そこで、現在、同施設の管理者である稲田さんが、羽澤さんに「思い出の場所を活用して、町を元気にするために何かできないか」と持ちかけたのだった。
羽澤さんは、作詞・作曲をこなし、数々のイベントでその歌声を披露する「中津地区のスター」。音楽を自由に楽しめる施設にしてみてはという稲田さんの提案に、羽澤さんが賛同。「われわれのようにフォークギターで青春を謳歌した世代はもちろん、テレビやラジオで音楽番組を楽しんでいた少し上の世代にとっても、音楽は身近な存在。何より音楽には世代間の垣根がない。20〜30歳くらい年が離れていても、一緒に演奏すれば即仲間ですからね」と羽澤さん。放送室の既存の施設を生かしつつ、機材や備品を持ち寄り、自分たちの手でホールや録音スタジオなどへと改装した。
主な活動は、音楽を楽しむ人たちへの場所の提供と体育館を活用したイベントの開催。ミュージシャンの合宿などを誘致するほか、平成25年から行っている「中津生(なま)オケ大会」には、レコード会社の関係者などが審査するとあって、県外からも、われこそはという「のど自慢」たちが集まる。第1回優勝者で松山市在住の永井佑佳(ゆか)さんは「生オケ大会をきっかけに久万高原町に足を運ぶようになりました」と話す。今では羽澤さんのバンドにボーカルとして参加するなど、アイドル的存在だ。




同学校最大のイベントが、東北地方の復興を願って始まったチャリティーコンサート「結(ゆ)い音楽祭」。毎年、東北にゆかりのある歌手などが出演するとともに、町内外のミュージシャンも演奏を行い、数百人の観客を集める。中庭では地元の人たちが手作りカレーや炭火で焼いたアマゴなどを提供するマルシェも開く。
昨年11月に行われた「第8回 久万高原 結い音楽祭」は、町内外から約600人の観客でにぎわった。平成26年開催の「第2回 中津生オケ大会」の優勝者で高知県仁淀川(によどがわ)町在住の高橋慎也さんは、伸びやかな歌声で観客を魅了。「幅広い年齢の人たちに聴いていただけるのはうれしいですね。これからも参加し続けたいと思います」と話す。さまざまなジャンルの音楽が奏でられる中でも、やはり人気は往年の歌謡曲。「遠くまで音楽を聴きに行けないからうれしい。毎年、このイベントを楽しみにしているんです」と、最前列に陣取り聞きほれる人も。音楽という魔法にかけられたかのように、会場の誰もが満面の笑顔になる。音楽祭の終盤、羽澤さん率いる「修(しゅう)ちゃんバンド」がステージに上がると、「しゅうちゃーん!」「がんばってー!」と明るい歓声が会場のあちらこちらから聞こえてきた。
「自分たちが楽しみながらやっていることで地域の人たちを笑顔にできる。だから続けられている」と羽澤さん。「音楽を通じてにぎわいや関わりが増えていくのは中津の財産ですね」と稲田さん。「中津大人の音楽学校」を拠点にして、人の温かさとのどかな環境、穏やかな時間の流れなど、中津の魅力が幅広い世代へ響きわたっていく。




住所 |
愛媛県上浮穴郡久万高原町中津4732番地
|
---|---|
電話番号 | 0892-54-2109 |
メール | inada@quolia.ne.jp |
URL | http://www.nakatsu-ehime.jp/ (中津まるごとミュージアム) |
備考 | ・「第5回 中津生オケ大会」 2019年6月9日(日)開催(出場応募締切5月10日) |