愛媛県八幡浜市にある「パン・メゾン」は、行列のできるパン屋として有名。市内外から訪れる人たちの目当ては、平田巳登志(みとし)社長が考案した「塩パン」だ。ソフトバケット生地でバターを包み、こだわりの塩をトッピングしたシンプルなパンは、1日5,000個以上を売り上げたこともある。
まずうかがったのは、平田社長が「パン・メゾン」を開業したきっかけ。話は先代の時代にさかのぼる。平田社長の父・康雄さんは、昭和34年に「ハチキョーベーカリー」の屋号で、給食用やスーパーに卸すパンを製造する会社を立ち上げた。幼い頃より、必死で働く父の姿を見ていた平田社長は、東京で腕を磨いた後に帰郷し、父の下で家業を盛り立てていた。ところが、平成5年頃、米飯給食の推進などの影響があり、「このままでは会社を続けることは難しい」と判断した康雄さんは、大手パンメーカーとの合併を決意。屋号を残すという条件で合併を行った。しかし3年後、運営方針の転換により、「ハチキョーベーカリー」の名が消えることとなった。「両親が育てた会社の名前が消えてしまうことに納得できず、それなら自分は独立して、『ハチキョー』の名を復活させてみせると宣言したんです」と平田社長。これに大反対をしたのが、康雄さんだ。「わざわざ苦労をする必要はない」と言う父に対して、平田社長は一歩も譲らず、平成9年、41歳で「パン・メゾン」を開業。その後、法人化にあたり、「有限会社ハチキョーベーカリー」と名付けた。
明太子や生クリーム、ビスケット生地などを使った
「塩パン」のバリエーション。
「これからもどんどん増やしたい」と平田社長
開業から数年は苦戦した平田社長だが、状況を打開するために平成12年頃より「1年に100種類の新商品を生み出す」という目標を自ら立てた。単純計算で4日に1種類以上。評判の良かったものは定番としたために、パンの種類はどんどん増えていった。いつしか「あの店にはいつも目新しいパンがあるよ」と評判となり、客足は順調に伸びていった。
平成15年頃、厨房のオーブンの前で、パンの焼き上がりを待ちながら平田社長は新商品に思いを巡らせていた。「パンは夏場に売り上げが落ち込んでしまう。夏に食べたくなるパンを作れないものか」。そう考えながら、額の汗を拭った平田社長は、「塩を使ったパンはどうだろう」とひらめく。汗をかく夏場は、体が塩分を欲しがる。シンプルな味のパンなら、食欲の落ちる時期にも食べやすい。他店でパン職人の修業をしていた長男の将武(まさむ)さんの「うちの店には、塩を使ったフランスパンがあるよ」との言葉がヒントになり、「塩」をトッピングして使うことを思いついた。塩気のあるバターを生地にたっぷり巻き込むアイデアはすぐに出たが、塩を目に見える形で使うのにはどうすればいいのか。トッピングしても、普通の塩だと焼き上がったときに溶けてしまう。そこで、いろいろな塩を取り寄せて試作を行った。ようやく探し当てたある岩塩を使ったところ、きちんと粒が残っていた。試作品を近くの魚市場で働く人や部活帰りの学生に食べてもらうと、とても評判が良かった。手応えを感じて翌年に正式に商品化したところ、うれしい誤算があった。「5個ほどを鉄板にのせて焼く試作品と違い、約10個を一度に鉄板にのせて焼くと中に入れたバターが溶け出して、パンの底がカリッと焼きあがったんです」。外はしっかりと歯ごたえがあり、中はもっちり、そして下がカリカリのパンは、作り手すら想像しなかったおいしさも加わり、口コミで人気が広がった。そして、考案から5年後には、八幡浜市外からも買い求める人が来るほどの大ヒット商品となったのだ。
平田社長は「塩パン」の製法を同業者に教え、レシピもほぼ公開している。その結果、愛媛県内はもちろん、全国各地で「塩パン」を作るパン屋が増えた。「あんパンもカレーパンも、最初は一人の職人が考案したものですが、今は日本全国で作られています。塩パンもそうなってほしいと思ったんです。ただ苦労して見つけた塩の種類だけは企業秘密にしています」と笑う。
平成27年、「パン・メゾン」は同じ市内の広い店舗へと移転。その店の表には、かつて父の会社で使われていた「ハチキョーベーカリー」の看板が取り付けられている。「私が独立して間もなく、父は病に倒れて他界しました。塩パンを食べてもらうことも、この看板を見てもらうことも、できなかった…」。看板を見ながら、平田社長は声を震わせる。
だが、パン職人として、生涯を全うした父の思いは、平田社長のなかに確かに息づいている。そればかりか、支店の「パン・メゾン松前(まさき)店」を営む長男の将武さん、東京で「塩パン屋
パン・メゾン」を営む次男の克武(かつむ)さんが、次代の担い手となっている。その奮闘ぶりに、亡くなった康雄さんもきっと目を細めていることだろう。
店頭に出すやいなや、飛ぶように売れる「塩パン」。だが、この成功もあくまでプロセス。平田さんは次のヒット商品を生み出そうと意欲満々だ。
住所 |
愛媛県八幡浜市北浜1-8-15
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電話番号 | 0894-27-0348 |
営業時間 | 6:30〜19:00 |
定休日 | 火曜日 |
高知県のご当地パンとして、老若男女に愛されているのが「ぼうしパン」。その名の通り、「ツバ」がある麦わら帽子のようなパンだ。これは昭和30年頃、高知市内にある老舗のパン屋で生まれたもの。メロンパン用の丸めた生地に、ビスケット生地ではなく、カステラ生地をかけて焼いたのが始まりといわれている。「柔らかなカステラ生地が流れて、帽子のように広がって見た目が面白く、あっさりしたパンとカステラの甘みが好相性ということで、ほかのパン屋にも広がったんです」と話すのは、製造元の一つである「ヤマテパン」の山手淳(きよし)社長。今では県内にあるほとんどのパン屋に加えて、高知県内の大手パンメーカーでも「ぼうしパン」を製造している。
このように「ぼうしパン」が広がった背景には、高知県らしい理由がある。それは、製造者同士の付き合いが普段から親密で、酒を酌み交わしながら情報交換を行うことが多かったため。「昔も今も、こんなパンを作ったぞ、とお互いがこだわりなく教えあっているのです」と山手社長。戦前に創業した「ヤマテパン」でも、山手社長の祖父がすぐに作り始めたという。
山手社長は、そんな「ぼうしパン」に、新たな創意工夫を行った。きっかけは20年ほど前。パンを買いに来た県外のお客さまの「ぼうしパンには何が入っているの?」という一言だ。それがヒントになり、フィリング(パンの詰め物)を入れることを思い付いた山手社長は、餡やクリームなどのバリエーションを生み出した。
山手社長の「ぼうしパン」はさらに進化を続ける。カステラ生地にチョコや抹茶などを練り込み、色の付いた「ぼうしパン」を開発したのだ。またフィリングについても、思い付くものは何でも試した。「これまでに100種類以上は作りましたが、失敗作もたくさんあります」と山手社長。例えばキムチやカレー入りは、その失敗例。一方、生地にイチゴのジャムを練りこんだ「イチゴぼうしパン」などは好評。こうしたチャレンジは、決して無駄にはならず、「面白いぼうしパンがある!」と話題になった。平成22年、銀座に高知県のアンテナショップの出店が決まった際には、バイヤーから「ぜひ東京で売らせてほしい」と声が掛かった。しかし、これには問題があった。以前にも、県外で開催される物産展などに出品したことがあったが、柔らかな「ツバ」の部分が割れてしまうことがあったのだ。
この問題を解決するために、「ツバ」の改良に取り組む。まず思い付いたのは、「ツバ」を小さくすること。使い捨てのアルミニウムの皿を使ったところ、サイズ感がちょうど良かった。さらに「ツバ」に厚みを持たせることで、割れを防ぐことができた。今では、この改良型の「ぼうしパン」が、県外で販売されている。
東京で「ぼうしパン」を購入した高知県出身者から「懐かしい味に出会えて、故郷を思い出しました」という手紙をもらったこともある。「ぼうしパン」は、故郷を象徴するソウルフードなのだ。
住所 |
高知県高知市南久保16-10
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電話番号 | 088-884-9966 |
営業時間 | 9:00〜17:00 |
定休日 | 日曜日 |
愛媛県産のはだか麦(大麦の一種)は、国内の生産量の約4割を占めている。はだか麦は小麦に比べてグルテンの含有量が少ないため、製麺や製パンには向いておらず、麦飯で食べたり、味噌・焼酎・はったい粉などに加工されたりするのがほとんど。はだか麦は、白米の10倍以上の食物繊維を含んでおり、なかでも「β-グルカン」という水溶性の食物繊維が豊富に含まれている。平成23年、はだか麦の需要拡大に取り組んでいた愛媛県産業技術研究所は、県内の食品製造会社と共同で「はだか麦パン用ミックス粉」を開発した。その実用化に協力したのが、明治25年創業の「篠﨑ベーカリー」4代目・篠﨑清栄(せいえい)さんだ。「はだか麦粉は水分を吸収しやすいため、生地が柔らかくなり成型がしにくいという特性があります。思った以上に大変な作業でした」。水分量を変えたり、撹拌(かくはん)にかける時間を調整したり、その商品化には約4年を費やした。試行錯誤の末にできあがったはだか麦のパンは、通常のパンよりもっちり感が強く、麦の風味を強く残した素朴な味わいに仕上がった。
今や、篠﨑さんが考えたはだか麦を使ったパンは、10種類以上。店頭での販売だけではなく、全国展開の大手量販店にも卸しており、愛媛県生まれの健康パンとして人気上昇中だ。
住所 |
愛媛県伊予市灘町137
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電話番号 | 089-983-4020 |
営業時間 | 7:00〜19:00 |
定休日 | 日曜日、祝日 |
URL | http://shinopan.info |