メニュー

WATER SPORTS IN YOSHINO RIVER

祖谷渓や剣山など、豊かな自然に恵まれた徳島県三好市。日本三大暴れ川の一つに数えられる吉野川の中流域に位置する「大歩危・小歩危」はラフティングの聖地として知られ、年間約4万人が訪れるという。その激流はレースラフティングの選手たちの間でも評判が高く、平成29年には「ラフティング世界選手権」が開催され、成功を収めた。

さらに翌30年、「ウェイクボード世界選手権大会」の開催をきっかけに、吉野川の池田ダム湖(以下:イケダ湖)が注目を集め、三好市の『ウォータースポーツのまち』づくりに新たな風が吹き始めている。

山あいの町が、吉野川の恵みを生かそうと模索する、町づくりの姿を追った。

ウェイクボードとは

ウェイクボードは、両足を固定した1枚の板でモーターボートに曳航(えいこう)されながら水面を滑るスポーツ。ボートの曳波(ひきなみ)(ウェイク)を利用して繰り出すジャンプや宙返りなどのダイナミックな技は、初めて観戦する人をも魅了する。

競技では、技の完成度や難易度、ジャンプの高さなどが採点され、その合計得点で勝敗が決まる。

愛好者は世界で約3,000万人、国内は約80万人といわれている。東京オリンピックでは競技種目の候補に挙がったが、惜しくも落選。2024年のパリオリンピック以降、正式種目となる可能性を秘めている。

ウェイクボードで繰り出す技はスノーボードのハーフパイプに、採点方式はフィギュアスケートに似ている
ウェイクボードで繰り出す技はスノーボードのハーフパイプに、採点方式はフィギュアスケートに似ている
「イケダ池」が引き寄せた

ウェイクボード世界選手権大会の会場となったイケダ湖。国内有数のラフティングスポットである「大歩危・小歩危」とは異なり、終日波のない静かな水面を保っているのが特徴だ。強風などで水面が荒れると競技に支障が出るウェイクボードにとって、ここは周囲を山に囲まれているため風の影響を受けにくい最高の環境。しかし、利用しているのは一部の愛好者のみで、全国的な知名度は低かった。平成27年、当時のアジアウェイクボード協会会長、薄田(すすきた)克彦さんの目に留まったことで、イケダ湖は三好市の新たな観光資源として、転機を迎えることになる。

薄田さんは、アジアで開かれるウェイクボードの大会を日本で開催したいと候補地を探していた。そこへ、ウェイクボード愛好者からイケダ湖はとても良いと勧められ、視察に訪れた。薄田さんは「日本にこんなにすごい湖があったとは!」と、一目惚れ。世界選手権大会の招致も夢ではないと確信したという。

周囲を山に囲まれたイケダ湖。湖上を徳島自動車道の「池田へそっ湖大橋」が通る
周囲を山に囲まれたイケダ湖。湖上を徳島自動車道の「池田へそっ湖大橋」が通る
世界選手権大会の仕掛け人であり、イケダコイレブン生みの親の薄田克彦さん(右)、ボート運転や指導を担当する宮口徹也さん(中)、写真撮影担当の大柿豊弘さん(左)
世界選手権大会の仕掛け人であり、イケダコイレブン生みの親の薄田克彦さん(右)、ボート運転や指導を担当する宮口徹也さん(中)、写真撮影担当の大柿豊弘さん(左)
井川池田IC近くの国道沿いに掲げられたウェイクボード世界選手権大会の看板
井川池田IC近くの国道沿いに掲げられたウェイクボード世界選手権大会の看板
アジア初の快挙

薄田さんは、すぐさま三好市に世界選手権大会の招致を持ちかけた。自然を生かした町づくりに尽力していた三好市長の黒川征一さんは、薄田さんの思いに賛同。力を合わせ、世界選手権大会の招致に名乗りを挙げた。

世界ウェイク協会会長のシャノン・スターリングさんを視察に招いた際、イケダ湖の静かな湖面と美しい水を目の当たりにした会長は「素晴らしい!」と絶賛。世界でも数少ない最高の場所だと評価された。また、三好市の中心部、JR阿波池田駅から車で5分ほどの場所にあるため、コンビニや宿泊施設など、利便性の良さも申し分なかった。

平成29年、開催地候補として、カナダやポルトガルの有名スポットが名乗りを挙げる中、三好市のイケダ湖が選ばれた。これは日本のみならず、アジア初の快挙だった。

練習を始めた頃はどこか不安な表情を浮かべていたイケダコイレブンの子どもたち。立ち上がれるよう、コーチも湖に入って見守った
練習を始めた頃はどこか不安な表情を浮かべていたイケダコイレブンの子どもたち。立ち上がれるよう、コーチも湖に入って見守った
練習を開始した次のシーズンにはジャンプなどの技を繰り出せるようになった
練習を開始した次のシーズンにはジャンプなどの技を繰り出せるようになった
世界を目指す子どもたち

以前から「スポーツの力で町を元気にしたい」という夢を抱いていた薄田さんは、「夢を実現するなら、惚れ込んだイケダ湖のそばしかない」と、世界選手権大会開催の決定を機に三好市へ移住。開催までの間、『ウォータースポーツのまち』づくりを見据え、準備に奔走した。

その一つが、子どもたちのウェイクボードチーム「イケダコイレブン」。かつてこの町から全国に名を轟かせた池田高校野球部「さわやかイレブン」にちなみ、「みらいの世界チャンピオン」を発掘しようと薄田さんが発案。三好市が小・中学生を対象に募集し、平成29年8月に12人で活動を開始した。

1年後に迫る世界選手権大会を目指して、イケダ湖にプロ選手などをコーチとして招き、子どもたちの練習の日々がスタートした。すべての子どもが初めての体験だったため、最初の目標は立ち上がれるようになること。初めはコーチも湖に入り、そばで指導を行うこともあった。

転倒してもまた立ち上がり、練習を繰り返す子どもたち。「風を切るのが気持ちよく、楽しい」「できなかった技ができるようになるのがうれしい」と、笑顔を浮かべる。短い練習期間にも関わらず、アマチュアクラスに10人がエントリーした。

地元の素晴らしさを

平成30年8月30日から4日間の日程で迎えたウェイクボード世界選手権大会。エントリーした選手は、プロ・アマ合わせて34カ国147人、来場者数は、約1万1,000人と成功を収めた。イケダコイレブンもメンバーのほとんどが無事にフィニッシュでき、男女2人が見事3位入賞を果たした。

また、子どもたちは競技以外でも貴重な体験ができた。海外の同世代の選手たちや、いろいろな国の人との交流を通して世界に触れられたのだ。国内外から訪れたプロの選手たちが口々にイケダ湖を絶賛する姿を見て、「三好市ってすごい町なんだ」と思ったという。地元への誇りを育むことこそ、イケダコイレブンを結成した真の目的だった。「生まれ育った町の魅力を知り、誇りに思うことで、大人になってもこの町で暮らしたいと思ってもらえれば最高です。ウォータースポーツを楽しみながら、いきいきと暮らす若者が、また新たな若者を呼ぶ。それが町の活性化につながると考えました」と薄田さんは話す。

世界選手権大会の終了後、「イケダコイレブン」に参加したいという声が地元の子どもや保護者たちから多く寄せられ、来年4月には新メンバーの募集を予定している。

ボートの順番待ちのときやオフシーズンには、トランポリンでバランス感覚を養う
ボートの順番待ちのときやオフシーズンには、トランポリンでバランス感覚を養う
世界選手権大会当日、大人たちの心配をよそに、子どもたちはのびのびと練習の成果を発揮した
世界選手権大会当日、大人たちの心配をよそに、子どもたちはのびのびと練習の成果を発揮した
練習のかたわら、子どもたちはウェイクボード世界選手権大会のPRにも一役買った。池田球場にて、四国アイランドリーグplusの開幕戦始球式を行う様子
練習のかたわら、子どもたちはウェイクボード世界選手権大会のPRにも一役買った。池田球場にて、四国アイランドリーグplusの開幕戦始球式を行う様子
イケダ湖は間近で観戦できる点も高評価だった
イケダ湖は間近で観戦できる点も高評価だった
世界大会

世界選手権大会は、三好市民にもさまざまな変化をもたらした。

大会期間中、イケダ湖畔への飲食ブース出店やボランティアとして大会に携わるなど、市民も選手や観光客のもてなしに努めた。

町なかにも賑わいを呼び込もうと、阿波池田駅周辺では、地酒を集めた「四国酒まつり秋の陣」や、三好市の特産品などを集めたマルシェを開催。イベントに携わった阿波池田商工会議所の竹内勲さんは、「大歩危・祖谷はもちろんのこと、イケダ湖を含む市街地も観光地として、もてなしのスキルを向上させて町を盛り上げたい」と話す。

「イケダコイレブン」の活躍だけにとどまらず、世界選手権大会を通して、三好市民は町の活性化に積極的に取り組むようになった。

世界選手権大会のステージで、プロの選手と記念撮影するイケダコイレブンのメンバー
世界選手権大会のステージで、プロの選手と記念撮影するイケダコイレブンのメンバー
イケダコイレブンからは2人がアマチュアクラスで3位入賞。2人は「これからもウェイクボードを続けたい」と話す
ボーイズビギナー(10〜13歳)部門の松尾優太くん(右)
ボーイズビギナー(10〜13歳)部門の松尾優太くん(右)
ジュニアガールズ(9歳以下)部門の三木ここ美さん(右)
ジュニアガールズ(9歳以下)部門の三木ここ美さん(右)
これからも吉野川とともに歩む町づくり

ラフティングとウェイクボード、2つの世界大会成功を糧として、三好市は『ウォータースポーツのまち』づくりを進めていこうとしている。

ラフティングは「ワールドマスターズゲームズ2021」の開催など、招致活動を積極的に行っている。その施策の一つが、世界選手権の様子と吉野川の魅力を紹介する動画の配信。この動画は英語、北京語、広東語の3つの言語でつくられており、海外からの観光客の増加も狙っている。

また、新たな取り組みとして、イケダ湖の静水面を生かした「静水ラフティング」を始めた。力を合わせてゴムボートを漕ぐことで、チーム力を高めるという、企業向け研修プログラムだ。吉野川の激流でのゴムボートの操作は初心者には難しいが、イケダ湖なら年齢や体力を問わず、安全に操作できることに着目した取り組みである。さらに、ウェイクボードに必要なボートスロープを設置するなど、イケダ湖水際公園としての整備も進める予定だ。

「世界選手権大会の成功で、市民の地元に対する意識の変化にも手応えを感じています。今後も地元を誇りに思う心を育みながら、『ウォータースポーツのまち』づくりを通して、三好市の活性化を目指したいと思います」と薄田さん。10年、20年後を見据えた町づくりは、まだ始まったばかりだ。

企業・団体を対象にした「静水ラフティング」。人材育成プログラムなどを組み合わせ、新たなツーリズムの開発を目指している
企業・団体を対象にした「静水ラフティング」。人材育成プログラムなどを組み合わせ、新たなツーリズムの開発を目指している
大型ビジョンで迫力ある演技を観戦できるように工夫
大型ビジョンで迫力ある演技を観戦できるように工夫
選手や観光客のおもてなしには、三好市を応援するキャラクター「つたはーん」も駆けつけた
選手や観光客のおもてなしには、三好市を応援するキャラクター「つたはーん」も駆けつけた
会場にはミニチュアかずら橋も登場
会場にはミニチュアかずら橋も登場
会場周辺でもさまざまなイベントを開催し、観光客を呼び込んだ
会場周辺でもさまざまなイベントを開催し、観光客を呼び込んだ
イベントスケジュール
イベントスケジュール イベントスケジュール
レジャーとして体験するラフティングは、まるで天然のジェットコースター
レジャーとして体験するラフティングは、まるで天然のジェットコースター
(写真提供/三好市観光協会)
三好市まるごと三好 観光戦略課
TEL 0883-72-7620