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平成から始まった猫ブームは「ネコノミクス」などと呼ばれ、和歌山電鐵の「猫駅長・たま」や、広島県尾道市の「猫の細道」など、猫が観光客を呼び寄せている地域が話題となった。猫をはじめとする動物たちとのふれあいには、心を落ち着かせる「癒し効果」があるといわれており、瀬戸内海にも猫好きが集まる場所がある。香川県多度津町沖に浮かぶ佐柳(さなぎ)島は、約100匹の愛らしい猫たちに出会える島。日帰りで訪れる人が多かったが、平成29年には、旧佐柳小学校を活用したゲストハウス「ネコノシマホステル」がオープン。猫に癒される滞在型の島として生まれ変わりつつあるようだ。

穏やかな景観を誇る瀬戸内の島を散策し、癒しの空気を満喫した。

見返り美猫 ジャンプ猫 ガン見猫
猫3連
約1時間の船旅で
島の堤防で日向ぼっこする猫。こんなのんびりした空気感が島の醍醐味
20年ぶりに訪れた祖父母が住んでいた島

多度津港からフェリーで約1時間、瀬戸内海に浮かぶ塩飽(しわく)諸島に属する佐柳島は、周囲約6・6㎞の小さな島だ。島には本浦(ほんうら)港と長崎港の2つの港があり、およそ70人が暮らしている。主に漁業を生業(なりわい)としながら住民たちが穏やかに暮らしているこの島は、近年、観光客が増えている。お目当ては猫。島のあちらこちらで自由に暮らしている猫や島民が飼っている猫とふれあうためにやって来るのだ。都会では猫の室内飼いが推奨されているため、こうして屋外で猫に触れ合える機会は少なくなってしまった。訪れる人たちは猫に餌を与えたり、写真を撮ったりして、島でのひと時を楽しんでいる。

佐柳島が猫の島として知られるようになったのは、数年前に有名な動物写真家が島に棲む猫を撮影し、写真集やテレビ番組で紹介したことがきっかけ。ちまたで猫ブームが起こっていたこともあり、人気に火が付いた。

本浦港の船着場。佐柳島行きのフェリーは多度津港から1日3便が本浦港へ、1便が長崎港に定期運行している
本浦港の船着場。佐柳島行きのフェリーは多度津港から1日3便が本浦港へ、1便が長崎港に定期運行している

平成29年8月には、島で唯一の宿泊施設「ネコノシマホステル」がオープンした。施設内には「喫茶ネコノシマ」も併設している。運営をしている村上淳一さんは大阪出身だが、佐柳島は淳一さんの父方の故郷で、幼いころに何度か訪ねたことがあった。「最後に訪ねたのは祖母が他界した20年前。以来、島からは足が遠のいていたのですが、ふと目にした写真集をきっかけに、懐かしくなって平成28年6月に妻と遊びにきたんです」と淳一さん。淳一さんと妻の直子さんは、ともに猫好きで、すぐに佐柳島の虜になったが、飲食店や宿泊施設がなく、「ゆっくり休憩できないし、日帰りじゃないと来られないのは残念だなぁ」と感じたという。2人が猫を追いかけながら島内をぶらぶらと散策していると、平成7年に廃校となった旧佐柳小学校に出会った。場所は本浦港と長崎港の中間に位置し、「ここが観光客の拠点になれば便利なのに」と思った淳一さんは、帰阪後、「あの場所で宿泊施設や飲食店を経営することはできないか」と考えるようになる。そして廃校舎を活用した施設運営のための企画を練り始めた。「これを誰に見せればいいのか」と悩んでいた淳一さんは、大阪で香川県の移住フェアが開催されていることを知り参加。企画書を携えて多度津町役場のブースでプレゼンテーションを行った。折しも、多度津町が佐柳島の活性化に力を入れようとしていたこともあり、淳一さんの企画に関心をもってもらえた。

「そこからは自分でも信じられないくらいトントン拍子にことが進んでいきましたね」と淳一さん。その後、廃校舎の使用が正式に認められた。

堤防の切れ間をジャンプする猫を捉えた写真家の作品が、佐柳島を一躍有名にした。それを真似て撮影する人も多い
堤防の切れ間をジャンプする猫を捉えた写真家の作品が、佐柳島を一躍有名にした。それを真似て撮影する人も多い
「ネコノシマホステル」の正面玄関に立つ村上さん夫婦。大阪から一緒に連れてきた愛猫も含め、現在、11匹とともに生活している
「ネコノシマホステル」の正面玄関に立つ村上さん夫婦。大阪から一緒に連れてきた愛猫も含め、現在、11匹とともに生活している
ここは元職員室。カフェとしてビジターの利用もOKで、宿泊者の朝食や夕食の会場にもなる(ともに要予約)
ここは元職員室。カフェとしてビジターの利用もOKで、宿泊者の朝食や夕食の会場にもなる(ともに要予約)
「喫茶ネコノシマ」ではハンドドリップのコーヒーやチキンカレーなどがいただける
「喫茶ネコノシマ」ではハンドドリップのコーヒーやチキンカレーなどがいただける
ベッドメイクをする直子さん。「宿泊室への猫の立ち入りは禁止です」と話す
ベッドメイクをする直子さん。「宿泊室への猫の立ち入りは禁止です」と話す
観光客だけではなく

それまで、淳一さんは大阪で小さな古書店を経営していた。島に移住するとなると、古書店は店じまいをしなくてはならないが、迷いはなかったという。「本屋がやりたくなれば島でやってもいい、それよりも、この木造校舎と出会ったときに感じた『ここで何かを始めたい』という気持ちだけで突き進みました」。  

平成29年3月、村上夫妻は愛猫とともに佐柳島に移住。約半年かけて校舎のリノベーションを行った。造作の難しい部分は多度津町の工務店に依頼したが、なるべく費用をかけたくないと壁塗りなどは自分たちで行った。職員室はカフェ兼宿泊者の食堂に、図書室はドミトリー(相部屋)に、図工室と資料室、理科室は個室の宿泊室にして、シャワーブースを新設。ここを訪れた人にノスタルジックな雰囲気を味わってほしいとの思いから、学校らしさは程よく残した。

村上さん夫婦は、宿泊施設や飲食店の経営も未経験だったが、「なんとかなるだろう」と楽観的だった。しかもうれしいことに、今は亡き淳一さんのお祖父さんのおかげで、島暮らしにもすぐに馴染めた。「僕の祖父はかなりユニークな人だったようで。『マンガみたいに面白い』と、島では『マンガさん』というニックネームで呼ばれていたそうです。島の人からは『あのマンガさんのお孫さんか』と温かく受け入れてもらえました」。

やがてカフェにはコーヒーを楽しみに足を運ぶ島の常連さんもでき、「親戚が帰省するから宿を利用したい」という人も増えてきた。観光客のみの利用を見込んでいた「ネコノシマホステル」と「喫茶ネコノシマ」が、佐柳島の人たちにも愛される施設となったのは、淳一さんも想像しなかったうれしい誤算だ。

天井や床を張り替え、壁を塗り直した宿泊室。学校時代の黒板はそのまま残した
天井や床を張り替え、壁を塗り直した宿泊室。学校時代の黒板はそのまま残した
ドミトリーの宿泊室。低料金で利用できるため若者を中心に人気
ドミトリーの宿泊室。低料金で利用できるため若者を中心に人気
「喫茶ネコノシマ」でくつろぐ観光客のもとに、窓越しに猫がご挨拶
「喫茶ネコノシマ」でくつろぐ観光客のもとに、窓越しに猫がご挨拶
建物の裏手には「猫のためのカフェ(エサやり場)」も。常連の猫がやってくる
建物の裏手には「猫のためのカフェ(エサやり場)」も。常連の猫がやってくる
直子さんが制作した、佐柳島で猫とのふれあいを楽しむ際の注意事項を記載したリーフレット
直子さんが制作した、佐柳島で猫とのふれあいを楽しむ際の注意事項を記載したリーフレット
猫を目当てに来た観光客が

「猫の写真を撮りたい」と県外からやってきた観光客は、「海を背景にしたり、路地で撮ったりできるのは島ならでは。今日は日帰りですが、手頃な値段で宿泊できるので、次回はゆっくり滞在してベストショットを狙いたい」と話す。カフェの利用者は、「住宅事情から猫が飼えないので、これほどたくさんの猫に出会える島はパラダイス」と時折、窓辺に現れる猫に歓声をあげていた。猫好きたちは、島を散策しながら猫に餌を与え、ときには抱っこして猫とのふれあいを満喫している。人懐っこい猫や恥ずかしがり屋の猫、さまざまな性格の猫との出会いに、時間が過ぎるのを忘れてしまう。

もともとネズミ退治のために飼われたといわれている佐柳島の猫は、今や島に人を呼び寄せてくれる人気モノとなった。しかし、島の魅力はそれだけではない。「のどかな景色と、ゆっくり流れる時間、そして猫と島に愛情を注いでいるやさしい人たちこそが、この島の最大の魅力だと感じています」と淳一さん。

最近では、猫を目当てにきた人が島のファンになり、再び訪問するケースも増えているという。「ネコノシマホステル」と「喫茶ネコノシマ」のある佐柳島は、そんな人たちにとってもう一つのふるさととなっていくのだろう。

「猫の写真を撮りたい」とやって来た観光客。本浦港でフェリーを下船するやいなや猫に囲まれてうれしそう
「猫の写真を撮りたい」とやって来た観光客。本浦港でフェリーを下船するやいなや猫に囲まれてうれしそう

お問い合わせ

ネコノシマホステル
住所

香川県仲多度郡多度津町佐柳1353

電話番号 0877-35-3505
チェックイン 17:00〜
チェックアウト 〜10:00
宿泊料 ドミトリー1泊3,000円(税込)、個室1泊5,000円(税込)
URL neconoshima.jp
喫茶ネコノシマ
営業時間 9:00〜17:00
定休日 火曜日
アクセス便利な
アクセス便利な アクセス便利な

瀬戸内海には、ほかにも動物たちと出会える島がある。その名のとおりに鹿たちが暮らす、愛媛県松山市の鹿島を訪ねた。

 昭和31年に国立公園に追加認定された鹿島は、愛媛県松山市北条の沖合約400mに浮かぶ無人島で、周囲は約1.5km。鹿島渡船で片道約3分という近さから、「松山市街からもっとも近いリゾート島」や「伊予の江ノ島」との別名も。この島には古くから野生のニホンジカが生息しており、昭和36年には島の植生保護のために約300㎡の鹿園をつくり、30頭ほどを保護した。しかし、残る野生の鹿による食害が進んだことから、平成29年に新たな鹿園を建設。現在は2カ所の園内に合わせて約65頭が暮らしている。

 船着場近くの旧鹿園の鹿たちは人馴れしており、専用の餌を与えることができるが、新鹿園の鹿たちは野性的で、人が近づくと急斜面を素早く駆け上っていく。

 旧鹿園のそばにあるのは、鹿島の歴史を紹介したミュージアム「松山市北条鹿島博物展示館・かしまーる」。ここには休憩室や授乳室が完備されており、乳幼児連れでも安心だ。

 また島内には「北条鹿島キャンプ場」や「鹿島海水浴場」も整備されているので、鹿とのふれあいだけではなくアウトドアレジャーも心ゆくまで満喫できる。

急斜面に棲んでいる新鹿園の鹿たち。こちらの鹿たちは野生に近い
急斜面に棲んでいる新鹿園の鹿たち。こちらの鹿たちは野生に近い
急斜面に棲んでいる新鹿園の鹿たち。こちらの鹿たちは野生に近い 急斜面に棲んでいる新鹿園の鹿たち。こちらの鹿たちは野生に近い
急斜面に棲んでいる新鹿園の鹿たち。こちらの鹿たちは野生に近い
島にある商店で販売している鹿のエサ(100円)を購入すれば旧鹿園でのエサやり体験が可能
島にある商店で販売している鹿のエサ(100円)を購入すれば旧鹿園でのエサやり体験が可能
「松山市北条鹿島博物展示館・かしまーる」にある授乳室。おむつ換えができるベッドも完備
「松山市北条鹿島博物展示館・かしまーる」にある授乳室。おむつ換えができるベッドも完備
白砂が美しい北条鹿島海水浴場。遠浅なので、子ども連れでも安心して利用できる
鹿島海水浴場
白砂が美しい北条鹿島海水浴場。遠浅なので、子ども連れでも安心して利用できる

お問い合わせ

鹿島
住所

愛媛県松山市北条辻1590

電話番号 089-948-6556(松山市 観光・国際交流課)
松山市北条鹿島博物展示館・かしまーる
住所

愛媛県松山市北条辻1596-3

開館時間 8:30〜17:30
定休日 無休
入館料 無料