それまで、淳一さんは大阪で小さな古書店を経営していた。島に移住するとなると、古書店は店じまいをしなくてはならないが、迷いはなかったという。「本屋がやりたくなれば島でやってもいい、それよりも、この木造校舎と出会ったときに感じた『ここで何かを始めたい』という気持ちだけで突き進みました」。
平成29年3月、村上夫妻は愛猫とともに佐柳島に移住。約半年かけて校舎のリノベーションを行った。造作の難しい部分は多度津町の工務店に依頼したが、なるべく費用をかけたくないと壁塗りなどは自分たちで行った。職員室はカフェ兼宿泊者の食堂に、図書室はドミトリー(相部屋)に、図工室と資料室、理科室は個室の宿泊室にして、シャワーブースを新設。ここを訪れた人にノスタルジックな雰囲気を味わってほしいとの思いから、学校らしさは程よく残した。
村上さん夫婦は、宿泊施設や飲食店の経営も未経験だったが、「なんとかなるだろう」と楽観的だった。しかもうれしいことに、今は亡き淳一さんのお祖父さんのおかげで、島暮らしにもすぐに馴染めた。「僕の祖父はかなりユニークな人だったようで。『マンガみたいに面白い』と、島では『マンガさん』というニックネームで呼ばれていたそうです。島の人からは『あのマンガさんのお孫さんか』と温かく受け入れてもらえました」。
やがてカフェにはコーヒーを楽しみに足を運ぶ島の常連さんもでき、「親戚が帰省するから宿を利用したい」という人も増えてきた。観光客のみの利用を見込んでいた「ネコノシマホステル」と「喫茶ネコノシマ」が、佐柳島の人たちにも愛される施設となったのは、淳一さんも想像しなかったうれしい誤算だ。