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平成30年2月号で紹介したのは愛媛県と徳島県の練り物。今回は香川県と高知県から、地元で受け継がれる伝統の練り物に着目した。

香川県の高松市は、練り物の一種である揚げかまぼこの消費量が全国で2番目に多い市※で、なかでも「細天」が名物として親しまれている。また、観音寺市では地元産の小エビを使った「えび天」の製造が盛ん。それぞれの練り物を製造する老舗を訪れた。

高知県の練り物は、華やかで種類も豊富。かつて練り物だけを盛り付けた皿鉢(さわち)料理があったため、さまざまな種類が生まれたという。今回は「ハレの日」の練り物「大丸(だいまる)」と、日常食として親しまれている「すまき」を取り上げた。

それぞれの店が受け継ぐ伝統の技術やこだわりを、製造風景と共に紹介する。

※総務省統計局調べ(平成28年~平成30年平均)

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明治15年(1882)、鮮魚店として創業した「うえ松」。売れ残った魚をすり身にして揚げたところ好評で、練り物の販売を行うようになり、今では専門店として老舗の看板を掲げている。

明治30年(1897)ごろ、本格的に練り物の販売を始めた当初からあったという細天は、この店の一番人気。モッチリとした歯ごたえと上品な味わいにファンも多い。この歯ごたえの決め手はすり身にある。上質な3種の魚のすり身を独自にブレンドし、季節によって温度調整をしながら、きめ細やかに練り上げる。それを少し寝かせることでモッチリとした食感が生まれる。「すり身の練りあがりの状態が良いことを、祖父で3代目の植松敏章は『力がある』と表現していました」と、孫で5代目の繁さんは懐かしむ。味付けは糖分を控えめのため揚げ色が付きにくく、色白の細天ができ上がる。

この店の細天は、揚げた後にサッと湯通しをして油切りしているのも特徴だ。「4代目の父、明弘は研究熱心。日持ちの良さも追求し、真空包装にしようと湯通しでの油切りを考案。その結果、当店ならではのさっぱりとした風味が生まれました」と繁さんは話す。真空包装にすることで2日の賞味期限を7日まで延長することができ、 全国各地へ届けられるようになった細天。「時代に合わせながら受け継がれた手法を大切にしたい」と繁さん。今ではインターネット通販を手掛け、讃岐うどんとのセット販売などで、全国へ「讃岐天ぷら」をアピールしている。

1.すり身を、真空状態になる機械で練る。その後、いったん冷蔵庫で寝かせる 2.細天はすり身の成形から、揚げ、冷却まで機械で行うが、常にそばで状況を確認する 3.高松市民にとって日常食である細天 4.高松兵庫町商店街からほど近い場所にある店舗 5.店内には高松市出身の文豪・菊池寛の写真も掲げる。近くに生家があり、高松市在住中はよく立ち寄ったという 6.昭和初期の店舗 7.「製法はもちろん、これまで培った店の歴史も大切にしたい」と話す5代目の植松繁さん
1.すり身を、真空状態になる機械で練る。その後、いったん冷蔵庫で寝かせる
2.細天はすり身の成形から、揚げ、冷却まで機械で行うが、常にそばで状況を確認する
3.高松市民にとって日常食である細天
4.高松兵庫町商店街からほど近い場所にある店舗 5.店内には高松市出身の文豪・菊池寛の写真も掲げる。近くに生家があり、高松市在住中はよく立ち寄ったという
6.昭和初期の店舗 7.「製法はもちろん、これまで培った店の歴史も大切にしたい」と話す5代目の植松繁さん

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讃岐天ぷら うえ松
住所 香川県高松市兵庫町6-8
電話番号 0120-15-3648
営業時間 9時~18時(日曜日、祝日は10時~17時)
休み 1月1日~3日
備考 細天(3本入り)1袋453円(税込)
URL https://store.shopping.yahoo.co.jp/uematsu-honten/
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観音寺名物のえび天は、魚のすり身にミンチ状の小エビとしぼり豆腐を加えた練り物。明治43年(1910)創業の「福弥蒲鉾」の代表取締役会長 福島加寿子さんは「かつて燧灘(ひうちなだ)では小エビ漁が盛んだったので、無駄にしないようにと考案された加工品の一つがえび天。以前は専門店がいくつもありました」と、昔を懐かしむ。そのえび天専門店の味に負けないようにと試行錯誤の末たどり着いたのが、小エビの殻のシャリシャリとした食感と旨みを生かした今の製法だ。

使用する小エビは全て地物。近くの観音寺港で水揚げされたばかりの小エビを伊吹漁協から直接仕入れ、新鮮なうちに1尾ずつ手で頭を取る。殻がしっかりしている6月~9月のものでないと、この食感が出ないため、この期間に1年分の小エビを仕入れる。大漁の日は社員総出で、頭を取る作業にかかることもある。「大変な作業ですが、エビを1尾1尾大切に扱うことができます。常に鮮度を保ち、エビ本来の味が引き出せるよう集中して行います」と、製造課長の嶋雅利さんは話す。

この店では10時~11時の間、揚げたてのえび天が味わえる。揚げたては、すり身に混ぜ込んだしぼり豆腐がもたらすふんわり感と、小エビのシャリシャリ感が合わさった絶妙な食感がたまらない。この贅沢な味わいを多くの人に知ってもらおうと、地元のイベントなどで揚げたての販売も行う。「アツアツを食べてもらうことで、練り物の良さを若い世代へ伝えたい」と、品質管理に携わる八木義樹さんは話す。そのおいしさはSNSなどで拡散され、わざわざ訪れる旅行者もいるほどだ。

8.水揚げしたばかりの小エビを仕入れる 9.手作業で1尾ずつ丁寧に頭を取る手早さに驚く 10.すり身、殻ごとミンチ状にした小エビ、しぼり豆腐を合わせて練る。仕上がりはベテランの職人が指先の感覚で確かめる 11.揚げたてのえび天はふっくらしている。家庭では軽く炙ることで、揚げたてに近い味わいが楽しめる 12.関東からやって来たという旅行者。「ふわふわな食感が珍しくておいしい」 13.観音寺港の近くにある本社工場。注文すると工場内から揚げたてを持ってきてくれる 14.左から製造課長の嶋雅利さん、代表取締役会長の福島加寿子さん、品質管理室の八木義樹さん
8.水揚げしたばかりの小エビを仕入れる
9.手作業で1尾ずつ丁寧に頭を取る手早さに驚く
10.すり身、殻ごとミンチ状にした小エビ、しぼり豆腐を合わせて練る。仕上がりはベテランの職人が指先の感覚で確かめる
11.揚げたてのえび天はふっくらしている。家庭では軽く炙ることで、揚げたてに近い味わいが楽しめる
12.関東からやって来たという旅行者。「ふわふわな食感が珍しくておいしい」 13.観音寺港の近くにある本社工場。注文すると工場内から揚げたてを持ってきてくれる 14.左から製造課長の嶋雅利さん、代表取締役会長の福島加寿子さん、品質管理室の八木義樹さん

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福弥蒲鉾
住所 香川県観音寺市港町2-9-38
電話番号 0875-25-1131
営業時間 8時~17時
休み 水曜日、日曜日
備考 えび天1枚227円(税込)
URL http://www.fukukama.jp/
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海にほど近い住宅地に佇む小さな「河村かまぼこ店」は、明治創業。120年以上の歴史を持ち、地元ではかつての屋号「伊勢屋」の名で今も親しまれている。

ゆで玉子をすり身で巻いた“大丸”は日の出を思わせるため、おめでたい練り物として皿鉢やおせち料理に使われる。この店の大丸は、ほとんど手作り。卵を蒸すことから始まるのだが、特に手間がかかるのは、ゆで玉子を巻く土台になる「が」と呼ばれる薄い皮を手焼きする作業だ。波形の型にピンクと白のすり身を薄く塗り、1枚ずつ焼け具合を確かめながら炙る。通常は月約200本分作るが、最盛期の年末は半月で約3,000本分を作るという。この「が」にすり身と玉子を乗せ、竹簾(たけす)で巻く。力加減が難しく、強いと玉子が出てしまい、弱いと隙間ができてしまう。何より弾力に違いがでるという難しい作業で、今は5代目の河村啓太さんが担当している。

啓太さんは「機械には出せない弾力がおいしさの秘訣。幼い頃から見てきた製法なので、大丸はこうやって作るものだと身に染みついています」と話す。この大丸を地元の人は「きりつきがええ」と表現するそうだ。「きりつき」とはこの地域の方言で「食感」の表現だが、標準語には変換しがたいという。スッと切れる歯切れのよさと、ほどよい弾力のハーモニーが癖になる食感で、思わずもう一切れ食べたくなる。これが手作りだからこその「きりつきがええ」食感なのだろう。啓太さんは代々守り続けた製法で、今日も黙々と大丸作りに励む。

15.「が」の型にピンクと白のすり身を薄く塗る。カットしたときに美しい模様になるよう、型に波模様が付いている 16.1枚ずつ「が」を焼く 17.「が」に玉子を3個並べすり身で隙間を埋め、玉子が動かないよう気を付けながら巻いていく 18.蒸しあがった大丸。切り分けると玉子の黄身の有無があるが、黄身が無いところが好きという人もいて、県民それぞれ好みが分かれる 19.香我美町の住宅街にあり、趣深い店構えが目を引く 20.家業を継いで13年目になるという、5代目の河村啓太さん(左)と妻の尚子(しょうこ)さん
15.「が」の型にピンクと白のすり身を薄く塗る。カットしたときに美しい模様になるよう、型に波模様が付いている
16.1枚ずつ「が」を焼く
17.「が」に玉子を3個並べすり身で隙間を埋め、玉子が動かないよう気を付けながら巻いていく
18.蒸しあがった大丸。切り分けると玉子の黄身の有無があるが、黄身が無いところが好きという人もいて、県民それぞれ好みが分かれる
19.香我美町の住宅街にあり、趣深い店構えが目を引く
20.家業を継いで13年目になるという、5代目の河村啓太さん(左)と妻の尚子(しょうこ)さん

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河村かまぼこ店
住所 高知県香南市香我美町岸本52-1
電話番号 0887-54-2241
営業時間 9時~17時
休み 日曜日
備考 大丸1本994円、ちび大丸389円(税込)
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かつてマグロの遠洋漁業が盛んだった室戸市。漁船に積み込む食料として、冷凍可能な揚げた練り物が重宝され、漁師の疲れを癒す甘い味付けが好まれたそうだ。そのため、室戸市の練り物は、高知県のほかの地域よりも甘めだという。

昭和13年(1938)に創業した「山本かまぼこ店」は手作りにこだわる。蒸したすまきは、すり身を筒状に押し出す機械を使う店も多いというが、この店は弾力にこだわり1本ずつ手巻きで作っている。3代目の山本正幸さんは、伝統を守りながらも、さらなるおいしさを追求したいと、水と塩に着目した。「いろいろな水で試した結果、水の硬度や分子を電気の力で調整した水が一番でした」と正幸さん。装置を導入し、水を作るのも仕込み作業の一つだ。塩は室戸沖の水深約200m以上からくみ上げた、海洋深層水を精製したものを使用。「ミネラル豊富で味に深みが出ることと、地元への感謝の気持ちを込めています」と正幸さん。

正幸さんの義父で2代目の隆一さんはこの道60余年。今も工場で職人として腕を振るっている。その背中から伝統の技を学びつつ、すまきを7大アレルギー物質(乳、卵、小麦、えび、かに、落花生、そば)に対応させるなど、今の時代に合わせた練り物についても日々模索する。マグロ漁に育まれた練り物の伝統は、時代のニーズに対応しながらこれからも続いていくだろう。

各地の食文化を反映する四国の練り物。お取り寄せして、味覚の旅をしてみてはいかがでしょうか。

21.国道55号沿いにある工場では、商品を直接購入することも可能だ 22.ピンクの皮はあらかじめ焼いておき、手作業でカットしていく 23.ピンクの皮にすり身をのせ、手で巻いていく 24.すまきの模様が付いた型に並べ、蒸し上げる 25.3代目の山本正幸さんは、研究熱心で好奇心旺盛。室戸の練り物を広めるためのアイデアが尽きないという 26.白い部分にピンクの模様が入り込んでいるのが手巻きの証。手巻きならではの弾力と味わいがある 
21.国道55号沿いにある工場では、商品を直接購入することも可能だ
22.ピンクの皮はあらかじめ焼いておき、手作業でカットしていく
23.ピンクの皮にすり身をのせ、手で巻いていく
24.すまきの模様が付いた型に並べ、蒸し上げる 25.3代目の山本正幸さんは、研究熱心で好奇心旺盛。室戸の練り物を広めるためのアイデアが尽きないという
26.白い部分にピンクの模様が入り込んでいるのが手巻きの証。手巻きならではの弾力と味わいがある

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山本かまぼこ店
住所 高知県室戸市室津2431-1
電話番号 0887-22-0011
営業時間 7時~17時
休み 日曜日、12月31日~1月5日
備考 すまき(2本入り)1袋173円(税込)
URL http://muroto-kamabokoya.jp/