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「グリーンパークほどの」から程野の滝の一つ「東滝(ひがしたき)」へ続くトレッキングコースは整備されて歩きやすい

四季折々の自然に恵まれた日本では、古くから「野遊び」が楽しまれてきた。「野遊び」は、日本人の遊びの原点であり、山や川など豊かな自然との距離を縮め、それによって人々は、独自の感性を磨いてきたのだ。ある調査によれば、「野遊び」などの自然体験をした子どもは、課題解決能力や発想力、想像力などの「生きる力」が養われるという。そのため、近年では教育界でも「野遊び」が注目されている。

面積の8割以上を森林が占め、仁淀川や四万十川などの清流を有する高知県には、「野遊び」の拠点となる施設が多数ある。各施設では、その普及活動やサポートを行っており、自然の中で過ごすひとときを提供している。そこで、今回は高知県内の施設を訪ねて、「野遊び」の魅力を紹介する。

葉っぱのにおいを感じる親子
「どんなにおいがするかな?」と敷地内に植栽された葉っぱを手にとって嗅いでみる
松ぼっくりを拾って「大きい!」と驚く子どもたち
「ドングリでどんな人形を作ろう?」と想像をふくらませることも大事な経験
森の中に造られたブランコ。「公園のブランコより気持ちいい!」
森と親しみ、遊ぶことで自然の大切さを知る

香美市土佐山田町の「高知県立森林研修センター 情報交流館」は、森や林業について広く知ってもらうことを目的に平成11年にオープン。広い敷地には、約400種類もの樹木があり、歩いて1時間ほどの遊歩道が設けられている。子どもたちは森の中を駆け回ったり、落ち葉や木の実を拾ったり。「面白い形の葉っぱがあったよ」「落ち葉の下の土は湿っぽいね」。そんな小さな発見をしながら、子どもたちは目を輝かせている。コース上には、ツリーハウスやブランコなども設置されており、森を吹き抜ける風の音、木々が放つ爽やかな香りを感じることができる。

「全国的に原っぱなど、子どもたちが自然にふれあいながら遊べる場所は減少しています。ここでそうした体験をしてもらいたい」と話す施設長の濵口佳太さんは、子どもたちがはつらつと遊ぶ姿に目を細める。

交流館内には工作室があり、遊歩道で集めた松ぼっくりや木の実などを使った工作体験もできる。自分が見つけたものを材料に、何を作ろうかと知恵を絞る子どもたち。

工作室では、毎週日曜日に「クラフトハウス木工工作教室」も開催している。竹とんぼやゴム鉄砲など、昔ながらのおもちゃ作りに、大人も夢中になるとか。「森の整備にもさらに力を入れ、もっと子どもたちに足を運んでもらえるイベントを開催していきたい」と話す濵口さん。森の案内人となる「森林ボランティアリーダー」の養成にも取り組み、「野遊び」のファンを増やしていく考えだ。

子供たちに質問する濵口さん
「この木はどの位の高さがあるかな?」と質問する濵口さん。自然に興味を持つきっかけを与えている
ウッドテラスに上る男児
「ここまで登れた!」と木の幹に設置されたウッドテラスに興奮
濵口さん
高知県立森林研修センター 情報交流館施設長の濵口さん。「自然に関わる仕事がしたい」と8年前にIターン。施設管理や案内のほか、木工工作の指導も行っている
リース作りに挑戦する様子
「この葉っぱを使おう!」と拾った葉っぱや木の実などを使ってリース作りに挑戦
オリジナルリース
ドングリや松ぼっくりで作ったオリジナルリース
森と親しみ、遊ぶことで自然の大切さを知る

清流・仁淀川の上流域に位置する、いの町にある「グリーンパークほどの」は、テントサイトやお祭り広場などが整備された人気のオートキャンプ場。日帰り利用もできる施設の名物となっているのが、「バウムクーヘン作り体験」だ。

「えっ、オーブンがないのに作れるの?と目を丸くする子どもたちも多いですよ」と話すのは、管理人の細川忠之さん。バウムクーヘンは、元パン職人の細川さんオリジナルの生地を少しずつ竹筒にかけて、回しながら炭火で焼く…という作業を繰り返しながら仕上げていく。作業には根気が必要だが、少しずつ焼き色が付き、太くなっていく様子に夢中になる子どもたち。「野外調理のいいところは、失敗が気にならないこと。焦げても、形がいびつでもいいんです。苦労して自分たちで焼き上げたバウムクーヘンは格別な味わいですよ」と細川さん。「お店で買ったのよりおいしい」という子どもたちの言葉からは、自分で作り上げることの楽しさが伝わってくる。

体験後は、「程野(ほどの)の滝」まで片道約4 ㎞のハイキングがおすすめ。体力に自信のない場合は近くまで車でも行ける。管理棟では案内地図を配布しており、「体力にあわせたさまざまなコースを紹介しています。新緑や紅葉など四季の変化を感じることができますよ」と細川さん。バウムクーヘン作りをきっかけに同施設を知り、その周辺の自然に魅了され、キャンプやハイキングで再び足を運ぶようになる人も少なくない。バウムクーヘン作りは「野遊び」に親しむきっかけとなっているようだ。

バウムクーヘンの作り方
野外調理でバウムクーヘンを作る親子
「バウムクーヘンがこんがり焼けてきた!」と喜ぶ親子。表面にまんべんなく焼き色がつくようゆっくり回すのがコツ
バウムクーヘンの作り方
「グリーンパークほどの」の近くにある程野の滝の一つ「東滝」は60mの高さから流れ落ちる
笹舟を見せる
東滝周辺で見つけた笹で笹舟を作り、近くの小川で遊ぶ。「うまく浮かんだよ!」
タイトル
「グリーンパークほどの」管理人の細川さん。「ほそやん」の愛称で利用者から親しまれている名物管理人
自然体験は、子どもの健やかな成長にも好影響

「野遊び」を安全に楽しむためには、知識や経験を持つ指導者の存在が必要不可欠。高知県教育委員会は、平成25年から「自然体験活動指導者」の養成に取り組んでいる。自然体験活動指導者(以下:指導者)とは、的確で安全な自然体験活動を推進するための指導能力を身に付けた人材だ。全国体験活動指導者認定委員会(通称NEAL(ニール))が策定した養成カリキュラムを受講し、さらに実務経験後、資格が付与される。「有資格者となった人材は年々増えており、教員や青少年施設の職員、大学生など、平成30年までに誕生した指導者は100人以上になります」と話すのは、県教育委員会生涯学習課の久米田真吾さん。今後は、子どもたちの豊かな自然体験活動の機会を増やすため、学校の課外活動や青少年施設の研修、イベントなどへ、これまで養成した指導者の派遣を増やしていく予定だ。さらに令和元年からは、指導者をイベントや青少年施設の宿泊研修などに派遣している。「指導者のサポートにより、高知県の野山に子どもたちの元気な声を響かせたい」と願う久米田さんだ。

受講者
自然体験活動指導者に必要な演習を受ける受講者
久米田さん
高知県教育委員会生涯学習課の久米田さん。四万十市出身で、幼い頃に野山を駆け回った経験から、教育現場に自然体験を取り入れる働きかけを行っている
大人が正しい知識を得ることで安心して楽しめる「野遊び」を

指導者の1人である深瀬尚子(ひさこ)さんは、葉っぱや木の実を使った簡単な遊び「ネイチャーゲーム」を取り入れた体験型のイベントに取り組んでいる。「高校の社会科教員をしていたのですが、環境問題に関する授業をきっかけに自然に興味を持ち、子どもたちに楽しみながら自然に親しんでほしいと活動を始めました」と話す。

昨年、深瀬さんは、高知県立牧野植物園で行われたネイチャーゲームとクラフト教室の講師を務めた。色とりどりの草花が咲き誇る園内を散策した後、広場でドングリをあちらこちらに隠して見つけ出すゲームや、ドングリを使った人形作りなどを指導した。木の実や土に触れることで、自然に対する感性や好奇心を身に付けることができるという。参加した子どもたちの笑顔を見つめながら「自然の恵みを手にして、想像力をふくらませながら作った作品は、自宅でも野遊びの楽しさを思い起こさせ、達成感を与えてくれるはず」とほほ笑む。

楽しさだけでなく自然の中で遊ぶリスクもしっかりと伝えるのが指導者の役割。ハチやヘビなどへの注意喚起はもちろん、ゴミの投棄などによる環境破壊についても教えている。また、「自然の中にお邪魔するという気持ちが大切」と、自然体験の際に忘れてはならない心構えもしっかりと伝えている深瀬さんだ。

春が訪れ、これからはお出かけの機会もどんどん増えていく。豊かな自然の中で楽しむ「野遊び」は、子どもの健やかな成長だけではなく、家族の素敵な思い出づくりになるはずだ。

ドングリを探す子どもたち
自分がリスになった気分で楽しみながらドングリを探す子どもたち
サルウィア・レウカンタやツワブキ
紫の可憐な花を咲かせるサルウィア・レウカンタやツワブキの黄色い花も牧野植物園内で観察できる
作った人形を自慢する子どもたち
ドングリなどで作った人形を自慢する子どもたち。世界で一つだけの宝物だ
深瀬さん
ドングリ探しゲームの後に、絵本「どんぐり」を子どもたちと読む深瀬さん
「野遊び」をさらに進化させ清流の岸辺に広がるフィールドへ

高知県には、アウトドアメーカー「スノーピーク」が運営するキャンプ場が続々と誕生している。その中の一つ「スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド」。目の前に仁淀川が流れるロケーションが魅力で、県外からも多くの人が足を運んでいる。

利用者は仁淀川で川下り体験ができ、「仁淀ブルー」と呼ばれる美しい川の流れを全身で体感できる。すぐ近くの河原では、水生生物の観察、流木集めなど、工夫次第でさまざまな「野遊び」が楽しめる。

「野遊び」を手軽に楽しみたいという初心者には、「手ぶらキャンププラン」が好評。テントや寝袋といった道具を全て貸し出している。星空観察をしたり、朝靄(あさもや)にけむる川を眺めたりと、時間の経過とともに変わる周囲の環境を丸ごと体感することができるのだ。フィールド内には「住箱-JYUBAKO(じゅうばこ)-」と呼ばれるトレーラーハウスもあり、テント泊が不慣れな方にはこちらがおすすめだ。

住箱
住箱
スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド
住所

高知県高岡郡越知町片岡4

電話番号 0889-27-2622
定休日 水曜日
URL https://sbs.snowpeak.co.jp

お問い合わせ

高知県立森林研修センター 情報交流館
住所

高知県香美市土佐山田町大平80

電話番号 0887-52-0087
開館時間 9:00~17:00
休館日 月曜日(祝日の場合は翌日休)、年末年始
URL https://www.k-kouryu.net
グリーンバークほどの
住所

高知県吾川郡いの町清水上分973-8

電話番号 088-867-3705
定休日 木曜日(GW、夏休み期間は営業)、年末年始
URL https://www.gp-hodono.jp
備考 施設利用やバウムクーヘン作り等についてはお問い合わせください
高知県立牧野植物園
住所

高知県高知市五台山4200-6

電話番号 088-882-2601
開園時間 9:00~17:00
休園日 年末年始、メンテナンス休園あり
URL http://www.makino.or.jp