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高知県南国市にある第29番札所 国分寺の庭園は、桜の名所として知られる。中門を入ると広がる庭には、高浜虚子の長男・年尾、五女・高木晴子などの句碑が点在し、境内全域が国の史跡に指定されている

四国路の春は
お遍路さんの鈴の音とともにやってくる…。
この言葉が示すように、遍路のベストシーズンが到来。
各札所には美しい花々が咲き、
緑が穏やかな春の陽を浴びている。
ことに庭園のある札所の美しさは絵画さながら、
訪れる人に癒しを感じさせてくれる。
今回は、庭園のある4県の札所を訪ねて、
それぞれに趣のある名園を紹介する。

常楽寺
岩盤の断層が連なった流水岩の庭園。お遍路さんは足元に注意しながら歩む

第14番札所 常楽寺で目にするのは「流水岩の庭園」。「庭園」と言っても、人によって整備されたものではない。雨や風で削られ、荒々しい岩肌がむき出しになった地面をこう呼んでいるのだ。

常楽寺は文政元年(1818)、灌漑(かんがい)用のため池を造成するために、低地から階段を約50段上がった現在地へと移された。その際、山を切り崩し、お堂は岩盤の奥に建立された。境内の地面には岩肌がそのまま残り、雨や風によって侵食され、このような姿になったのだ。ゴツゴツとした地面は非常に歩きにくく、特に雨に濡れたときにはツルツルと滑ってしまうことも。だが、その造形が自然の営みによるものだと思えば、大地のエネルギーが足元から伝わってくるかのようでもある。しかも僅かずつではあるが、侵食は現在も続いており、まさに生きている庭園。そのそばで、愛らしい猫たちが日向ぼっこをしている姿も、のどかで心が和む。

大師堂前
石仏が並ぶ大師堂前。その先には鐘楼堂などがある
納経所の前では、近所の猫たちが思い思いに過ごす姿が。この札所の人気ものだ
第14番札所 常楽寺
住所

徳島県徳島市国府町延命606

電話番号 088-642-0471
駐車場 あり
備考 拝観自由
竹林寺
「小書院前庭(北庭)」とともに「高知県三名園」の一つに数えられている「客殿前庭(西庭)」。平成16年に国の名勝に指定された

鎌倉から南北朝時代に活躍した禅僧・夢窓疎石(むそうそせき)が設計したといわれる第31番札所 竹林寺の「名勝庭園」は、国の名勝に指定されている名園。庭園は、来訪者をもてなすために建てられた客殿の西側と北側の2カ所にあり、ともに座敷から眺めることを想定した鑑賞式庭園だ。

西側の「客殿前庭(西庭)」は、南北に細長い池泉(ちせん)があり、山すそ側の出入りのある曲線が美しい。中国の廬山(ろざん)と鄱陽湖(はようこ)の景色を模したともいわれており、石組や枯滝、自然の巨石などのあしらいが映えている。

北側の「小書院前庭(北庭)」は、山に沿うように中心がくびれた瓢箪(ひょうたん)形の池を造り、その中央に石橋が架けられている。細部にまで計算されたつくりにより、実際の広さ以上の広がりを感じさせる。

名園鑑賞やお参りの後、西境内にある「めぐりのもり」にも立ち寄りたい。生い茂る木々の中にステンドグラスのドームがあり、木橋や石橋が架かった池などを眺める小径(こみち)をゆっくりと散策できる。ここで、自然との一体感を味わうのも一興だ。

小書院前庭(北庭)
「小書院前庭(北庭)」。山へと続く飛び石が打たれている
めぐりのもり
西境内に生い茂っている木々を生かした「めぐりのもり」は、3つの池の周りをゆっくり散策できる
第31番札所 竹林寺
住所

高知県高知市五台山3577

電話番号 088-882-3085
観賞時間 8:30〜17:00
休み 無休
駐車場 あり
備考 拝観自由 ただし宝物館・庭園は観賞料400円(めぐりのもりは拝観自由)
西林寺
池の中にある「福授地蔵」は「一願地蔵」とも呼ばれ、願いを1つだけ叶えてくれると伝えられている

弘法大師の霊力が、人々に恩恵をもたらしたという伝説は各地で語り継がれている。第48番札所 西林寺のある松山市高井地区も、そんな伝説の地。弘法大師がここを通りかかったときに大地に杖を突き入れると、水が湧き出たという伝説が残されている。門前には清らかな小川が流れ、「秋風や 高井のていれぎ 三津の鯛」という正岡子規の句碑が佇んでいる。また、納経所前には、鯉が泳ぐ池があり、そこには穏やかな顔の福授(ふくじゅ)地蔵が鎮座している。

子規が句に詠んだ「ていれぎ」は、刺身のツマとして使われている水草で、水温15度前後に保たれた清涼な水でしか育たない。西林寺の奥の院にあたる「杖(じょう)ノ淵公園」では、湧水(ゆうすい)泉に「ていれぎ」が群生している。また、湧水で満たされた池の真ん中に建つ弘法大師像が、園内で水遊びや散策を楽しむ人を優しく見守っている。

子規の句碑
門前にある子規の句碑。子規自筆の文字を石に刻んでいる
杖ノ淵公園
奥の院にあたる「杖ノ淵公園」。清らかな水が湧き出る池を中心に、散策路や芝生の広場が整備されている
第48番札所 西林寺
住所

愛媛県松山市高井町1007

電話番号 089-975-0319
駐車場 あり
備考 拝観自由
杖ノ淵公園
住所

愛媛県松山市南高井町1346-1外

電話番号 089-948-6519(松山市役所公園緑地課)
駐車場 あり(駐車場の開門は4月〜9月8:00〜19:00、10月〜3月8:00〜18:00)
備考 入園自由
志度寺
京都の名園「龍安寺の石庭」を思わせる趣に満ちた無染庭

第86番札所 志度寺の「無染庭(むぜんてい)」は、昭和初期に活躍した作庭家・重森三玲(しげもりみれい)が手掛けた枯山水(かれさんすい)の庭。三玲は設計にあたって、この寺に残る「海女の玉取(たまと)り伝説」をモチーフにした。この伝説は藤原不比等(ふひと)と契りを結んだ海女が、龍神に奪われた「面向不背(めんこうふはい)の玉」という宝珠(ほうじゅ)を命と引き換えに取り戻したというもの。不比等と海女の間に生まれた子・房前(ふささき)は、後に志度寺で母の菩提を弔ったといわれている。

「無染庭」に敷き詰められた白砂は瀬戸内海、ところどころに置かれた大小さまざまな石は島、中央にあるのは、母である海女の命が尽きた真珠島で、そこに不比等が乗った船が着岸した様子を表現しているといわれている。京都の名園「龍安寺(りょうあんじ)の石庭」の美意識にも通じるような石庭は、シンプルでありながら荘厳(そうごん)な美しさを感じることができる庭だ。

志度寺学芸部長
無染庭に秘められた伝説について説明してくれた志度寺学芸部長の野崎恭一さん
仁王門
寛文10年(1670)に松平頼重が寄進したという堂々とした仁王門
第86番札所 志度寺
住所

香川県さぬき市志度1102

電話番号 087-894-0086
駐車場 あり
備考 拝観自由(無染庭の拝観は事前予約が必要)