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西条市で合宿を行ったオーストリア代表のジェシカ・ピルツ選手。世界トップクラスのアスリート

自然の中で行われていた岩登りをスポーツへと発展させた「スポーツクライミング」は、平成元年に初めて国際大会が行われた新しい競技。来年開催予定のオリンピックで初めて正式種目として採用されたことでも注目を集めている。

この競技を市民レベルに普及させようとしているのが、愛媛県の東部に位置する西条市だ。平成27年に専用の競技場「石鎚クライミングパークSAIJO(以下:クライミングパーク)」が完成したことで、競技人口が増えている。

今回は、「スポーツクライミング」の魅力に迫り、さらにはスポーツシティとして盛り上がる西条市の姿を紹介する。

石鎚クライミングパークSAIJO完成記念碑
石鎚山の麓でスポーツクライミング

平成29年、愛媛県では「第72回国民体育大会(通称:えひめ国体)」が開催された。西条市では、少年男子のサッカーや成年男女のハンドボールなど複数の競技が行われた。中でも注目を集めたのが、「クライミングパーク」で行われた山岳競技だ。一般に山岳競技は、登山、スキー登山、スポーツクライミングの総称だが、国体ではスポーツクライミングのみが行われる。「石鎚山には古くから多くの登山者やスキーヤーが足を運んでいます。こうした歴史を踏まえた上で、『えひめ国体の山岳競技は、ぜひ西条市で!』と名乗りをあげたのです」と話すのは、西条市スポーツ健康課の櫛部一洋(くしべかずひろ)さん。

鳥居周辺の様子
多くの登山客で賑わう石鎚山遥拝(ようはい)の鳥居

スポーツクライミングには3つの種目がある。制限時間内により高い場所への到達を目指す「リード」、制限時間内により多くのコースを登る「ボルダリング」、目標点への到達スピードを競う「スピード」の3種だ。それまで四国内には、ボルダリングにトライできるスポーツジムなどはあったが、リードやスピードができる施設はなかった。えひめ国体では、「クライミングパーク」が、大会公式競技の「リード」と「ボルダリング」の2競技の開催会場となり、大いに盛り上がった。これをきっかけに、それまであまり馴染みのなかったスポーツクライミングに興味を持つ人も増えてきた。

「この盛り上がりの火を消したくない。市民にクライミングパークをどんどん利用してほしい」。スポーツ健康課では、そのための知恵を絞った。

スポーツクライミングの3種目
スポーツクライミングの3種目
スポーツクライミングの3種目 スポーツクライミングの3種目 スポーツクライミングの3種目
ガッツポーズをきめる5人の男性
スポーツを通じて市民の健康な生活と交流人口の拡大を目指す西条市スポーツ健康課のみなさん。
左から2人目が松本さん、4人目が櫛部さん
クライミング教室を通じて競技人口の拡大を!

まず始めたのは、競技人口のすそ野を広げ、市民の健康づくりに役立てるためのボルダリング教室。壁の高さが5メートル以下の「ボルダリング」は、子どもや高齢者も挑戦しやすい。そこで、現役のクライマーでもある同課の松本雄太郎さんが指導する教室を定期的に開催するようになった。教室には幼児から70歳を超える方まで、多いときには20人以上が参加している。「全身の筋肉を使うボルダリングは、バランス感覚が大切なので、体幹を鍛えることができます。また、登りきったときには達成感があり、楽しみながらチャレンジできるのも魅力です」と松本さん。妹と一緒に教室に初めて参加した市内の小学3年生の女児は「家族とボルダリングをしたことはありましたが、あまり上手にはできませんでした。今日、先生に教えてもらい、上の方まで登ることができてうれしい。もっと上手になるよう頑張りたい」と笑顔を見せていた。

ボルダリングの指導風景
市民向けに開催しているボルダリング教室で指導している松本さん。それぞれの体力や経験値に合わせて、その日の目標を設定する
姉妹がピース
コツを掴んだという初参加の姉妹。「また練習に来たい」とニッコリ
部の練習風景
ボルダリングを練習中の丹原高校スポーツクライミング部の部員たち
オーストラリア代表選手ら
世界選手権の事前調整として、西条市で合宿を行ったオーストリア代表選手
競技場
左のグレーの壁が「スピード」、黄色い壁が「リード」、右の建物が「ボルダリング」の競技場
高校生も、l世界的な競技者も腕を磨く「くらいみんぐパーク」

「クライミングパーク」では、地元の高校生たちも汗を流している。平成30年4月に西条市内にある丹原高校に誕生した、愛媛県初のスポーツクライミング部の部員たちだ。主将の加地未来(かじみらい)さんは四国中央市出身だが、中学生のときに体験したスポーツクライミングに本格的に取り組みたいと同校に進学した。「競技人口が少ないため、一生懸命に取り組めば世界を相手に戦える競技者になれるかもしれない…という夢を抱いています」と話す。

加地さんをはじめとする部員たちは、週に2回、「クライミングパーク」で練習をしている。創部当時に4人だった部員は、2年目に14人に増えた。これを受けて、丹原高校では校内に簡易式の壁2組を整備した。指導にあたっている近藤悠貴(ゆうき)教諭は、愛媛大学クライミング部の出身。「基礎体力や身体能力はもちろん必要ですが、コースどりでは頭も使います。生徒たちには体も頭も鍛えてもらい、高校選抜大会や国体で優勝できるような選手に育ってほしい」というのが、近藤教諭の願いだ。

西条市民だけではなく、世界のトップアスリートも、この施設を訪れた。平成30年10月オーストリア代表選手の合宿が同市で行われた。訪れた選手の1人は、「2018世界選手権」の「リード」種目で1位に輝いたトップアスリート。その練習風景を見学した市民が刺激を受け、さらに利用者が増えるという波及効果も生まれている。

近藤教諭
丹原高校の近藤教諭。自身も「スピード」の練習を行っていたが、「生徒たちのレベルが高くなり、負けることも多いんです」と笑う
練習用の壁
丹原高校に設置された練習用の壁。部員たちは手軽に練習できるようになった 
スピードの様子
「スピード」は瞬発力が求められる競技。
トップ選手は5〜6秒のタイムを記録する
丹原高校の加地さん
「コースを攻略したときに味わう気持ちの良さは最高です」と話す丹原高校の加地さん
リードを使用する様子
安全のために壁面に設置されたクイックドローと呼ばれる器具にロープをかけながら登る「リード」。最高部にあるクイックドローにロープをかければ完登となる
スポーツ施設を有効活用!「合宿都市構想」

「クライミングパーク」以外にも、同市には屋内運動場「ビバ・スポルティアSAIJO」や野球場、プールなど合わせて30以上のスポーツ施設がある。「これらの施設を有効に活用しよう」と考えた西条市は、平成21年度より「合宿都市構想」を掲げている。学生、社会人、プロなど全国のあらゆるスポーツチームの合宿を誘致し、交流人口の拡大と関連する産業の振興を図ろうと考えたのだ。開始年には1競技・5団体だったスポーツ合宿も、令和元年度にはクライミング日本代表ユースや女子ユースサッカー、プロ野球選手の自主トレなど10競技・50団体を受け入れた。

合宿したチームからは「市民からの応援が力になった」「野菜や魚介類など食べるものもおいしい。何よりも市内に湧き出る天然水『うちぬき』のおいしさには驚いた」などの声が寄せられており、市の魅力PRにもつながっている。

山や海があり、名水で有名な西条市。「クライミングの聖地」や「合宿都市」を目指す背景には、その豊かな自然と充実したスポーツ環境が存在している。ここから未来のトップアスリートが生まれることを予感させた。

野球の練習試合
西条市で合宿を行った神戸国際大学硬式野球部と至誠館大学硬式野球部は、実戦形式の練習試合を行った
屋内競技場
野球やサッカーもできる屋内競技場「ビバ・スポルティアSAIJO」は、天候に左右されず快適に競技ができるため、合宿したチームにも好評

お問い合わせ

西条市役所 スポーツ健康課
住所 愛媛県西条市明屋敷164
電話番号 0897-56-5151(代表)
URL https://www.city.saijo.ehime.jp
石鎚クライミングパークSAIJO
住所 愛媛県西条市氷見乙608 西条西部公園内
電話番号 0897-57-9383(西条市スポーツコミュニティセンター)
開場時間 9:00~22:00
定休日 月曜日(祝日の場合は翌日)、12月29日~1月3日
料金 市内 一般の個人使用1時間150円〜
市外 一般の個人使用1時間220円〜
URL https://www.city.saijo.ehime.jp/soshiki/sportskenko/climbingpark-gaiyo.html
備考 ※開館状況、営業時間等はHPでご確認ください
ビバ・スポルティアSAIJO
住所 愛媛県西条市河原津新田甲157
電話番号 0898-66-0361
開場時間 9:00~22:00
定休日 12月29日~1月3日
URL https://www.city.saijo.ehime.jp/soshiki/sportskenko/0038-00.html
備考 ※開館状況、営業時間等はHPでご確認ください
ドライブ途中にも立ち寄れるクライミング体験施設 ドライブ途中にも立ち寄れるクライミング体験施設

スポーツクライミングが盛り上がりをみせる西条市。令和元年7月、松山自動車道・石鎚山SAに隣接する道の駅に、アウトドア製品の製造・販売を行う「モンベル(本社:大阪市)」が運営する「モンベル アウトドアオアシス石鎚」がオープンした。建物内には、登山やキャンプ、サイクリング用品を販売するアウトドアショップだけではなく、ロープクライミングとボルダリングの体験コーナーもある。壁の高さは約6メートル。安全装置があり、インストラクターも常駐しているため、初心者も安心してトライできると好評だ。

ハイウェイオアシスは高速道路利用者だけではなく、一般道からもアクセスが可能なので、気軽に立ち寄ることができる。「クライミングパーク」と同様に、多くの人を受け入れている。

クライミングしている様子
「モンベル アウトドアオアシス石鎚」のクライミング体験コーナー
モンベル アウトドアオアシス石鎚外観
ハイウェイオアシスにあるため、ドライブ途中にも気軽に立ち寄ることができる

お問い合わせ

モンベル アウトドアオアシス石鎚
住所 愛媛県西条市小松町新屋敷乙22-29
電話番号 0898-76-3111
開場時間 9:00〜19:00
定休日 無休
料金 クライミングウォール 1回(20分)660円 11:00〜17:00
ボルダリングウォール 1回(60分)440円 10:00〜17:00
URL https://store.montbell.jp/common/system/information/disp.php?c=5&id=316
備考 ※開館状況、営業時間等はHPでご確認ください