平成30年に発生した豪雨災害は、全国各地に爪痕を残した。香川県では、丸亀城の石垣が崩落したことに、県民の多くが胸を痛めた。家族とともに丸亀城を訪れた岡田さんは、その惨状に言葉を失った。「何か自分にできることはないか」と考えた彼は、「文学賞で石垣の修復を応援しよう」と決意。丸亀市役所にその話を持ちかけた。
広聴広報課の七座武史(しちざたけし)課長(当時)は、「文学を通じて丸亀城の魅力や丸亀城石垣の現状の情報発信を行えるのは大変有難い話」と快諾。第5回のテーマは「丸亀城」となった。これをうけて丸亀市は、原稿募集チラシ1万部を作成し、企業や丸亀市内の各コミュニティセンター、公共施設に配布し、応募を呼びかけた。また、丸亀城石垣復旧PR館にも作品の応募箱を設けた。さらに梶正治丸亀市長や丸亀市文化観光大使である作家の広谷鏡子(ひろたにきょうこ)さんら、丸亀市ゆかりの方たちも審査員を務めてくれることになった。
令和元年8月から6カ月の募集期間に小説やエッセイに加え、俳句や短歌など、幼児から高齢者まで全国から182作品が集まった。「青春時代の思い出や趣味の歴史研究など、着眼点もさまざま。また丸亀城や石垣を擬人化し、愛情を込めて送られた手紙形式の作品もあり、それぞれの心にある丸亀城への思いに感銘を受けました」と岡田さん。それらを多くの人と共有するべく、1万部発行予定の入賞作品集には、石垣修復の一助となるよう、寄付のための振込用紙を綴じ込みにする。「寄せられた作品は丸亀城の石垣修復へのエール。完全修復への道のりは決して容易ではありませんが、勇気をいただけました」と七座さん。
「半空文学賞」の募集や応募の手法はアナログだが、現在は入賞作のデジタル化、英訳にも取り組んでいる。誰もが知る名作でなくとも、たった一人でいい。読んだ人の救いや喜びになるような作品を。それこそが、カウンターから生まれた小さな文学賞の役割なのかもしれない。