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ひとことジャーナル
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着慣れたお洋服やお気に入りの靴下、愛用の手提げなど、着心地や使い心地がちょうど良くなってきたころに、生地の傷みや穴、シミなどを見つけることはありませんか? そんなちょっと寂しい状況は、ダーニングを施すことで解決できます。


ダーニングとは英語で‘繕(つくろ)う’ということ。ヨーロッパで伝統的に行われている、傷んだ生地を繕う針仕事です。私が提案するダーニングは、繕った箇所を見えなくする、新品と同じ様な状態にするものではありません。繕い跡を「その衣類を愛する気持ちの印としてあえて見せよう」というものです。そして一口にダーニングといってもさまざまなテクニックがありますので、今回は初心者でも取り組みやすいゴマシオダーニングをご紹介します。

手芸が苦手な人でも取り組みやすいものとして、基本の半返し縫いを応用したゴマシオダーニングをご紹介します。ゴマシオを思わせるツブツブの表情が可愛いゴマシオダーニングはいろいろな傷みに応用できます。欧米では、ダーニングマッシュルームという、ダーニング専用のキノコ型や卵型の道具がありますが、キッチンのおたまでも代用できます。

まず傷んでいる箇所の下にダーニングマッシュルームをあてて、生地が緩まないようにヘアゴム等で止めます。太めの手縫い糸や、刺繍糸を半分に割ったものなどを刺繍針に通して、傷んだ箇所よりも一回り大きめに半返し縫いをします。右から左に5〜10mmぐらい刺して、糸を抜いたら、2mmほど戻り、また右から左に5〜10mmぐらい進みます。これを繰り返すだけ。ゴマシオダーニングは伸縮性があり、表には点々とゴマ粒のような針目、裏には長めの針目が現れるので、生地の補強にもなります。

アップリケじゃ子供っぽいし、市販の補修用布ではごわつく…。服に穴が開いてしまった時に手芸店に足を運んだものの、どう繕ったらよいものか悩んだ経験はありませんか? デニムの膝のような激しい傷みには、一度洗って柔らかくなった綿の布を裏からあてて表にゴマシオダーニングを施すと良いでしょう。ミシンで頑丈に繕うのとは違う柔らかな仕上がりになります。

ダーニングには正しいやり方というものはありません。いろいろなテクニックも、家庭科で習った手縫いの延長のようなものばかり。針目がきれいに整っていないところが味になるので、普段針仕事に慣れていない方が始めやすいのも嬉しいですね。

衣類が貴重だった頃、人々は今あるものを大切に修繕しながら使い続けていました。繕いの技法は世界各国にあり、日本の「刺し子」もその一つと言えるでしょう。しかし、物が溢れている今、新しいものを買い続けることが幸せにつながるとは限りません。気に入ったものを手をかけながら長く使うことで愛着がわき、それらに囲まれて過ごす方が幸せかもしれません。傷みの気になる服があればダーニングで繕ってみてください。その際傷んでいない箇所にも少しゴマシオを施してみましょう。そうすることで世界で一つだけの素敵な服になります。隙間時間でくたびれた服が生まれ変わる針仕事、ぜひ皆さんも挑戦してみてください。

野口 光 hikaru noguchi

テキスタイルデザイナー ニットブランド「HIKARU NOGUCHI」を主宰。英国、南アフリカ共和国で30年間にわたりデザイナーとして活動。その中で出会ったダーニングを日本に紹介したダーニングの第一人者。オリジナルのダーニング道具の開発や、日本だけではなく、海外でも数多くのワークショップを開催し、ダーニングの魅力を伝えている。著書として「愛らしいお直し」(主婦の友インフォス)、「野口光の、ダーニングでリペアメイク」(日本ヴォーグ社)など