今年は全国各地で秋祭りが中止・縮小している。香川県丸亀市の獅子連の一つ
「中府北部獅子連」も、感染防止の観点から奉納行事を断念した。
誰もが寂しく感じる「祭りのない秋」。今号では昨年の例大祭の雰囲気とともに、
子どもから大人まで地域が一丸となって絆を深めてきた獅子連の活動を紹介する。
獅子舞で培(つちか)った地域の絆を
さらに深める静寂の秋
獅子舞で培(つちか)った地域の絆をさらに深める静寂の秋

香川独自の獅子舞文化で
世代を超えた関わりを
香川県は全国でも有数の「獅子舞県」。天下太平と五穀豊穣を願って勇壮に舞う獅子舞は、香川県が誇る伝統芸能の一つ。江戸時代に始まり、明治から大正にかけて県内各地に広まった。全盛期には約1,200組の獅子連があり、獅子頭や胴部分の柄(がら)、舞の種類や鳴り物も、それぞれの地域で個性豊かに変化していった。秋祭りの時期になると、県内のあちらこちらで賑やかな鉦(かね)の音(ね)が聞こえるのが香川の”秋の日常“だ。
現在も県内には約800組の獅子連がある。そのうちの一つが、菅原道真を祀(まつ)る丸亀市の会下(えげ)天満神社に奉納している「中府北部獅子連(以下:中北獅子連)」。四国4県の祭りが一堂に会する「四国の祭り」や、「丸亀お城まつり」などのイベントでも獅子舞を活発に披露している獅子連だ。
高度成長期以降、平成の半ばまでは、核家族化や県外進学・就職の増加に伴って、他の連同様、「中北獅子連」も担(にな)い手が減少していった。地元で育ち獅子舞に関わってきた若手メンバーは「このままでは獅子連がなくなってしまう」と危惧。15年ほど前から、地元で子育てをする同年代を中心に、年齢性別を問わず参加を呼びかけるようになった。「獅子舞に参加すると、少しずつ地域の中に知り合いが増えるんです。子どもたちも大人との関わりが楽しく次の年も参加する。そうするうちに、獅子舞という行事がなくてはならないものになっていくんです」と話すのは、長年獅子舞に携わり、現在、「中北獅子連」の会長を務める横山祐司(ゆうじ)さん。世代を超えた交流が少しずつ増え、今では練習が始まる時期になると子どもから大人まで約40人が自然と集まるように。近年では県外に進学した学生や就職した人たちも祭りに合わせて帰省するようになってきた。



「祭りのない秋」で
存続する決意を新たに
毎年10月中旬に行われる「会下天満神社例大祭」の1日目は、早朝の宮入りから始まる。翌日には中府地区にある3つの獅子連が会下天満神社に集まり獅子舞を奉納したあと、山車(だし)とともに地域を巡行しながら御旅所(おたびしょ)である神社へと神幸(しんこう)する。
令和初となる例大祭が行われたのは、昨年10月19・20日。爽やかな秋晴れの中、鉦と太鼓の賑やかな音色が響き渡り、「中北獅子連」の演舞が始まった。「中北獅子連」は、赤・紫・緑の獅子3体による息の合った舞が特徴。次第に激しくなる音に合わせ、鉦と太鼓の上に登り、空へ吠えるなど、力強く勇壮な舞を奉納した。

神社での奉納を終えた当時中学3年生の横山紗佳(すずか)さんと山花真紀(やまはなまき)さんは、「緊張した!」と声を揃えた。二人とも獅子頭を使うのは初めて。「男子と比べると体力面などにハンデはありますが、それでもやりたいと思える魅力が獅子舞にはあります!」「高校に入っても絶対に続けます!」と顔を見合わせながら満足そうに笑った。



例年であれば、獅子舞の練習が始まる頃だが、今年は新型コロナウイルスの影響により、会下天満神社の例大祭も中止となった。「子どもたちはもちろん大人たちもまだ現実味はなくて、本当に祭りがないんだなと少しずつ感じているところです。ですが今回不測の事態で、改めて受け継いできたものの大きさと地域の絆のありがたさを感じられたからこそ、大切に次のステップに繋げていこうと話し合いました」と横山会長は力強く話す。来年の祭りは、きっと例年以上に熱くなるはずだ。
