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特集 癒しと学びに満ちた魅力あふれる「動物園」 特集 癒しと学びに満ちた魅力あふれる「動物園」

現在、日本動物園水族館協会に登録されている動物園は全国で91園。うち四国には4園があり、工夫を凝らした展示や取り組みで来園者を魅了している。愛媛県砥部町の「愛媛県立とべ動物園」は、大型動物の展示頭数が多く、ここ10年でアフリカゾウの繁殖に成功した国内唯一の動物園だ。また高知県香南市の「高知県立のいち動物公園」は、旅行者向け口コミサイト「トリップアドバイザー」において、「日本の動物園ランキング2019」で1位に輝き話題となった。

新型コロナウイルスの影響で祭りやイベントの中止が相次ぐなか、癒しや学びに満ちた動物園は3密を避けたお出かけ場所として人気が高まっている。そこで2つの動物園を訪ねて、人気の秘密に迫った。

愛媛県立とべ動物園

複数の動物が共存する全国屈指のパノラマ展示

「愛媛県立とべ動物園(以下:とべ動物園)」の前身は、昭和28年、道後公園内に開園した「愛媛県立道後動物園」。長く県民に愛されていたが近隣の都市化に伴い、昭和63年4月に現在地に移転した。とべ動物園は、約11.2ha(甲子園球場の約8.6個分)の敷地に、無柵放養式の一種であるパノラマ展示を採用。これは檻や柵などを可能な限り使わず、自然の地形や堀の段差を活用して動物たちを見せる手法だ。これにより、遮蔽物なしに動物たちを見られる機会が増え、より自然環境に近い状態が体感できる。

パノラマ展示の醍醐味を体現しているのは、園内のサバンナ観測センター。広いパドックでは、キリンやシマウマなど、異種の草食動物が駆け回り、その奥にはライオンが寝そべっている。まるで一つの空間に共存しているかのようだが、草食動物とライオンの展示の間には深さ6mの堀がある。視覚的な効果により、まるでサバンナにいるような気分になれる。

サバンナ観測センターの様子 サバンナ観測センターの様子

生命を誕生させ、育む飼育員たちの取り組み

動物園の主役は動物だが、普段は目にすることのない飼育員たちの努力にも注目したい。とべ動物園といえば、ホッキョクグマの「ピース」が有名。それまで国内のホッキョクグマの出生は122頭報告されていたが、半年以上育ったのはわずか16頭。ピースは、国内では前例のない人工哺育が行われた。担当飼育員によるつきっきりのケアのおかげで順調に成長し、20歳を超えた。

また、ライオンは雄ライオンを中心に群れを形成していると思いがちだが、野生では血縁関係のある雌ライオンが「群れ」をつくり、そこに雄が入ることで繁殖が行われる。とべ動物園では、平成27年頃から母子関係にある複数の雌に雄1頭が加わる群れづくりを始めた。今年6月には、この群れの「リリ花」と他園から迎えた雄の「ネオ」の間に2頭の赤ちゃんが誕生。「5年ぶりとなるライオンの出産。群れづくりがしっかりと実を結びました」と顔をほころばせるのはライオン担当の清水和真(かずまさ)飼育員。8月末からは仔ライオンの愛らしい姿がお披露目されている。

清水さん
「今いる雌と血縁関係のないネオを姫路セントラルパークから迎えたことで、群れづくりと繁殖に弾みがつきました」と清水さん
ライオンの哺乳風景
ライオンの赤ちゃんの哺乳風景。仔ライオンはすくすくと成長中だ
※写真提供/とべ動物園
サバンナを再現したパノラマ展示
のんびりとくつろぐライオンの先に、キリンなどの草食動物が暮らしている。堀が見えないため、まるで1つの空間にいるかのよう

動物の健康状態を知り、治療を行うトレーニング

近年、動物の健康管理のために力を入れているのが「ハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)」。これは採血や検温、治療や投薬がしやすいように、動物たちに体勢や行動を覚えさせるためのトレーニングのこと。象舎では、今年3月に新たに造られた柵越しのトレーニングが軌道に乗り始めた。象などの大型動物は、検査や治療のために体を押さえることが困難。「そこで号令に合わせて、体を動かす訓練を行っています」と濱田純基(はまだじゅんき)飼育員。棒を象の足に当て、掛け声をかけると、象は足を柵にかける。ご褒美を与えながら、足裏の洗浄や治療を行う。同様に耳からの採血、口腔内や尻尾のチェックなどもスムーズに行うことができるようになった。

現在、とべ動物園では「リカ」とその娘の「媛(ひめ)」「砥愛(とあ)」の3頭のアフリカゾウ(いずれもメス)を飼育している。ここ10年、国内でアフリカゾウの赤ちゃんが生まれたのはとべ動物園だけ。アフリカゾウの母娘が暮らす国内唯一の動物園となっている。

アフリカ象の親子の様子 アフリカ象の親子の様子
濱田さん
苦戦すると思われたハズバンダリートレーニング。「リカ母娘の賢さのおかげで、短期間で訓練できました」と濱田さん
象の足裏を洗浄する様子
棒を当てた部分を柵にかけさせ、足裏をきれいに洗浄する

動物の貸し借りにより新しい生命を増やしていく

今春、とべ動物園はベビーラッシュに湧いた。早くも人気者となっているのは、5月13日に生まれたキリンの「リュウト」。「リュウトは、繁殖のための動物の無償貸し借り(ブリーディングローン)により生まれた赤ちゃんです」と話すのは田村昌吾飼育員。今、野生動物の頭数激減により、ワシントン条約で取引規制が強化され、一部の動物は海外から購入することが難しい。そのためこの方法が活発化しているのだ。母キリンの「杏子(あんず)」は福山市立動物園(広島県)生まれだが、その母の「柑麟(かりん)」はもともととべ動物園にいたキリン。父の「リュウキ」は徳山動物園(山口県)から借り受けており、母子二代に渡って「ブリーディングローン」によって生まれた生命なのだ。

動物たちを残していくことも動物園の大切な使命。「親が子を愛おしむ姿を通して、親への感謝、生命の尊さを感じてほしい」と田村さん。ブリーディングローンはそんな飼育員たちの願いを叶える手段でもあるようだ。

キリンの親子「杏子」と「リュウト」
仔キリンの名前は一般公募により6月に決定した
乳を飲む「リュウト」
乳を飲む「リュウト」。生後1年以上は、こんな微笑ましい姿が見られる

お問い合わせ

愛媛県立とべ動物園
住所 愛媛県伊予郡砥部町上原町240
電話番号 089-962-6000
開園時間 9:00〜17:00(入園は16:30まで)
休園日 月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日〜1月1日)
入園料 大人500円、65歳以上・高校生200円、小・中学生100円、6歳未満無料
駐車場 あり(普通車1回300円)
URL https://www.tobezoo.com
高知県立のいち動物公園

1トンの雨が降り注ぐ本格的な熱帯雨林館

平成3年に開園した「高知県立のいち動物公園(以下:のいち動物公園)」は、約19.9ha(甲子園球場の約15.3個分)の広い敷地と、周辺の山並みを借景にした自然豊かな環境で人気の動物園。その目玉施設の一つが、平成7年に日本初の本格的な熱帯雨林館として誕生した「ジャングルミュージアム」だ。鉄筋コンクリート3階建ての全天候型完全屋内施設で、館内は中南米と東南アジアの2つのゾーンに分かれている。「木々を植栽し、哺乳類や鳥類、魚類など熱帯雨林に生息する動物たちが自然の中で暮らしているかのような展示が見どころです」と仲田忠信飼育員。

毎日11時と14時には各部屋に総量約1トンもの雨が豪快に降り注ぐアトラクションが行われる。ビントロング(別名:クマネコ)が水に打たれながら毛づくろいし、カピバラが雨に耐えるかのような様子が愛らしい。「雨を喜ぶ動物がいれば、嫌う動物もいる。ジャングルでしか見られないような光景を体感することで、動物たちの生態を知ってもらいたい」と話す仲田さんだ。

館内のスコールの様子
スコールを待っていたかのように木の上に登るビントロング
うっとりするビントロング
水に打たれながらうっとりとする様子からも、その喜びが伝わってくる
仲田さん
「同じジャングルでも中南米と東南アジアで、異なる生態系を学んでほしい」と話す仲田さん
カピバラ
アンデス山脈の東側に生息しているカピバラは、世界最大のネズミの仲間(げっ歯類)

SNSを有効活用し動物園のファンづくりを

のいち動物公園ではSNSを活用した情報発信にも力を入れている。令和元年7月に仔キリンの寝姿を「ツイッター」で発信したところ、4万3,000件以上の反応が得られた。「担当飼育員はよく目にする姿ですが、多くの方が新鮮に感じたようです」と学芸員の酒井稚加(ちか)さん。この反響は大きな励みとなり、以後も日々の動物たちの様子を折に触れて発信している。

発信の際には、SNSの特性を見極めながら、かわいらしいものは女性ユーザーの多い「インスタグラム」、ユニークなものは「ツイッター」、そして幅広い年齢層のユーザーが見込める「フェイスブック」にはイベントなどの情報と、媒体を選ぶ工夫も行うようになった。

「SNSでの発信が、のいち動物公園のファン作りにつながれば」と願う酒井さん。コロナ禍で休園した際には、「動物の姿が癒しになりました」との声も寄せられた。動物たちの日常の様子を見て、笑顔になってほしい。そんな思いを込めながら、酒井さんはカメラを片手に園内を駆け回っている。

からくり時計やキリンに見入る家族 からくり時計やキリンに見入る家族
2匹のプレーリードッグが横に並んでいる
草を食べるプレーリードッグ(北米の草原地帯に棲むリスの仲間)
※写真提供/のいち動物公園
ツイッターで様子になった仔キリンの寝姿。タコのようにも見える※
※写真提供/のいち動物公園

スター動物はいなくても口コミサイトで堂々1位に

のいち動物公園は、旅行口コミサイトの「トリップアドバイザー」において、「日本の動物園ランキング2019」で1位(2020年も1位)に輝いたことでも話題となった。「うちの園にはコアラやパンダなどのスター的な動物がいるわけではありません。誰より驚いたのは、私たち自身です」と多々良成紀(たたらせいき)園長。快挙の理由を探るべく、寄せられた口コミに目を通したスタッフは、「園内に緑が多い」「動物たちがのんびり過ごす様子に癒される」「動物たちとの距離感が近い」などの声が多いことに気付いた。展示している動物の種類は106種。国内最多を誇る東山動植物園(愛知県)が500種に及ぶことを考えれば、決して多くはない。だが、その分、動物1種に対する展示面積を広く取ることができ、ゆったりとしたスペースで動物たちが生き生きと暮らすことができているのだ。

また動物だけではなく、この動物園は訪れる人にもやさしい設計。観覧通路の道幅が広く、スロープも緩やか。弁当を広げてくつろげる芝生広場なども設けられており、ピクニック気分で過ごすファミリーの姿も目立つ。のいち動物公園のコンセプトは、「人も動物もいきいきと」。まさにそれを体現している。

近年は、何度も足を運ぶリピーターが増えていることも実感している。「毎回、ハシビロコウ(ペリカン目の鳥類)を見るためだけに、遠方から来られるという熱心なファンもいますよ」と多々良園長。ハシビロコウは絶滅危惧種に指定されており、国内では7園しか飼育していない。「めったに動かない」というのが面白がられているが、のいち動物公園の雄の「ささ」、雌の「はるる」は、羽を広げたり、嘴(くちばし)をカタカタと鳴らしたりの動作を見せる。その一挙手一投足を眺めて、来園者は大喜び。「当園の豊かな環境のおかげで、ハシビロコウもアクティブになったのでしょうか」と多々良園長は笑う。


今、コロナ禍により多くの人が不安な日々を過ごしている。だからこそ、癒しと学びを与えてくれる動物園が存在価値を高めている。

「ハシビロコウが見られる施設」というのも、「のいち動物公園」の人気につながっている
トリップアドバイザー動物園・水族館ランキング2019 第1位
動物を近くで観察したり、生態について学べる体験が口コミで高く評価されている
※写真提供/のいち動物公園
シロテテナガザル
器用にロープ渡りをするシロテテナガザル。現在は4頭が仲良く暮らしている
多々良園長
長く「のいち動物公園」の獣医をしていた多々良園長。脳性麻痺となった雌チンパンジーのリハビリを行うなど動物に愛情を注いでいる

お問い合わせ

高知県立のいち動物公園
住所 高知県香南市野市町大谷738
電話番号 0887-56-3500
開園時間 9:30〜17:00(入園は16:00まで)
休園日 月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日〜1月1日)
入園料 大人470円、18歳未満・高校生以下無料
駐車場 あり(無料)
URL http://www.noichizoo.or.jp