上/大島港のすぐ横にある広場で販売するのは週2回。人口170人あまりの島内にはスーパーなどもないため、「来んかい屋」での買い物が毎週の楽しみになっているという人も
右/「来んかい屋」を支える「NPO法人 eワーク愛媛」と関連企業の代表を務める難波江さん
町を駆けるヒーロー
移動スーパー「来んかい屋」
瀬戸内海に面した工業の都、愛媛県新居浜市を中心に黄色いトラックで移動販売を行っている「来んかい屋」。
「NPO法人 eワーク愛媛」が、社会に適応しにくい若者の自立支援・就労支援活動としてリヤカーでの移動販売を行う中で、買い物に困っている人たちの存在を知ったのが活動のきっかけとなった。
“買い物弱者”をサポートしたいという気持ちから始まった活動は、地域コミュニティの架け橋にもなっている。
「買う喜び」を運び続ける
トラックに“来んかいや〜”
移動スーパー「来んかい屋」は、買い物に困っている人のサポートを目的として、平成28年1月に始まった移動販売事業。冷蔵ケースや冷凍庫などを備えた黄色い軽トラックで新居浜市を中心としたルートに沿って巡回。週1~2回のペースで、地域の公園や自治会館の駐車場などで対面販売を行う。小さなトラックに積み込まれているのは、肉・魚や総菜、調味料などの食料品に、洗剤などの日用品。農家直送のとれたて野菜や果物などが並ぶことも。年配層がほとんどという利用客の好みを踏まえた品揃えになっている。
「周辺にスーパーマーケットやショッピングモールなどが充実しているように見える地域であっても、買い物に困っている人たちがいる。8年ほど前から行ってきたリヤカーでの移動販売を通じてそのことに気付いた」と話すのは「NPO法人 eワーク愛媛」代表の難波江任(なばえつとむ)さん。「町中に住んでいても車の運転ができない人や、体調が良くない人にとっては、やっぱり買い物に出るのは困難なことなんです」と言う。
お客さまが自分の目で見て、欲しいものを選んで買う、そんな“買い物の喜び”も届けるのが「来んかい屋」の役目だ。家まで届けてくれる個別宅配は便利だが、実物を見て買いたいという声も多く、インターネットの操作に不安を覚える人も多い。それに、外出する機会も減ってしまう。難波江さんは「スーパーまでは遠くて行けなくても、家から少し離れた公園までなら、おっくうでも出ようかなと思う。そうやって家から出て近所の人と顔を合わせて話をすることが大切なんです。定期的に訪れる私たちのトラックが、コミュニケーションのきっかけになっているのはうれしいですよ」と力強く笑った。


地域の助け合いや見守りを
サポートする重要な存在
取材に訪れたのは、7月下旬。この日は新居浜市の北東約1.5㎞ほど沖にある大島と新居浜市中心部を数カ所巡るという。販売を担当する東沢総一郎(とうざわそういちろう)さんは、立ち上げ当初から難波江さんとともに活動を続けているメンバーの一人。「暑い日も寒い日もお客さまが待っていてくれるから、続けられるんでしょうね」と言ってトラックに乗り込んだ。
正午前、トラックを乗せたフェリーが大島港に近づくと、すでに10人ほどがすぐ脇の広場に集っていた。トラックが到着するのを待ちかねたように、カゴを手に買い物をする利用客。他の人の買い物を手伝っていた女性は「店員さんだけでは大変やからね。手が届かないところの商品を取ってあげたり、品物を整理したりするのが楽しみ」とにっこり。「買い物に行くんも車に乗らんようになるとなかなか…。近くに来てくれるから助かる」と食料品の入った大きな袋を抱えた女性も言う。


次に向かった平形(ひらかた)自治会は、4年ほど前から毎週訪れる地域。少し離れた場所にはスーパーもあるが、歩いて行くには遠いため、自治会側から販売を依頼されたという。この地域は高齢の夫婦や一人世帯が多いが、しばらく顔を見せないと「何かあったのかも」と近隣の人が気づくようになったという。「インフルエンザで寝込んでいたとき、来んかい屋さんが心配してメールをくれたのがうれしかった」と笑顔を見せる人も。




日々の買い物を楽しんでもらう一方で、地域の見守り役としてもしっかりと地域に根付いている「来んかい屋」。「誰もが見過ごしがちな人たちの困りごとをなくしていきたい」。その思いで地域を駆け抜ける黄色いトラックは、まさにスーパーヒーローだ。

※熱中症対策のためマスクを外していることがあります
お問い合わせ
住所 |
愛媛県新居浜市萩生1309-1 |
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電話 | 0897-47-4307 |
URL | http://eworkehime.kojyuro.com/ |
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