「四国水族館」は、全国の水族館で唯一、都市名や愛称ではなく「四国」という広域な地名を冠している。多くの水族館は、自治体主導や大企業単体で設立しているのに対して、この施設は複数の地元企業などが共同で設立に奔走した。「発端は地元の人たちの地域活性化への思い。それを受け止めて、瀬戸大橋が架かる四国の玄関口にランドマークとなるような水族館をつくろうというプロジェクトが始まったのです」と松沢慶将(よしまさ)館長。
プロジェクトが本格的にスタートしたのは2015年(平成27)。そこから資金調達と並行して、専門家たちが運営コンセプトを練った。やがて導き出されたのは、「四国水景」という展示テーマ。太平洋や瀬戸内海、美しい河川、湖沼など、四国には多様な水の景色がある。そこに棲息する生き物だけではなく、植物や鉱物、そこに息づく歴史や生活文化を含めて再現して紹介するという案だ。また、神秘的な美しさ、躍動する水の生き物たちが生み出す感動に加えて、その恩恵を受ける人間の営みにもスポットを当てるため、四国各地の「水景」の視察や情報収集も行った。
もう一つ、この水族館では大切にしたい思いがあった。それは四国にある既存の水族館と共存・共栄しようという強い意思だ。松沢館長は国際ウミガメ学会の会長も務めたウミガメ研究の第一人者。その知見を生かした「ウミガメが泳ぐ大水槽をつくってはどうか」という意見が専門家から出たが、「四国内にはウミガメを紹介した素晴らしい施設が既にある」とそれを押しとどめたのは松沢館長自身。ウミガメを見るなら、そこに足を運んでもらえるように四国水族館が情報発信をすれば良いと考えたのだ。その思いを具現化するべく、2019年(平成31)3月には四国内の6つの水族館が議論するシンポジウムを開催。互いの連携強化を確認した。
2020年6月1日、コロナ禍により当初の予定より2カ月余り遅れたが、四国水族館はグランドオープンにこぎつけた。