メニュー

クラフトビール&クラフトジンの世界 クラフトビール&クラフトジンの世界

 近年、「クラフト」と冠された品物がブームとなっている。本来は手づくりの工芸品を意味する言葉だが、こだわりを持って生み出された食品や飲料もそう呼ぶようになった。特に小規模な醸造所が造る「クラフトビール」は、新規参入も増えており、これを扱う飲食店も増えている。四国にもクラフトビールの醸造所が複数あり、それぞれで地域の素材を生かしたビール造りが行われている。中でも徳島県徳島市の「株式会社阿波麦酒(アワビール)(以下:阿波麦酒)」は、特産のすだちを使ったビールが好評だ。

 同じく徳島産の素材を生かしているのは、上板町「日新酒類株式会社(以下:日新酒類)」のクラフトジン「AWA GIN(アワ ジン)」。阿波晩茶など地元農産物を使い、オリジナリティ溢れる味に仕上げている。

 仕込みに吉野川の伏流水を使うという共通点がある2社の開発秘話や製造方法のこだわり、味わいの特徴を探り、造り手たちの思いにふれる。

駅ビルで醸造される徳島味のクラフトビール 株式会社阿波麦酒
今、注目を集めるクラフトビールとは

日本のクラフトビール誕生のきっかけとなったのは、1994年(平成6)の酒税法の改正。最低製造数量基準が年間2,000㎘から60㎘に緩和されたことにより、小規模な醸造所が続々と誕生し、「クラフトビール(地ビール)」ブームが巻き起こる。だが、少量生産のため価格が割高になることなどから、10年ほどでブームは沈静化してしまった。

再びクラフトビールが注目を集めたのは2005年(平成17)頃。海外のコンペティションで日本のクラフトビールが高評価を得たことなどにより、需要が盛り返してきたのだ。

現在、クラフトビールの醸造所は全国に約500カ所、四国には20カ所以上あり、徳島県には5つの醸造所がある。そのひとつ阿波麦酒の「焼鳥酒蔵 よい鳥」は店内でビールを醸造して提供するブルーパブ。JR徳島駅ビル内という全国でも珍しい立地の醸造所であり、旅行客や会社帰りのビジネスパーソンが、列車の乗降前後に気軽にクラフトビールを味わえると人気だ。

焼鳥酒蔵 よい鳥
徳島駅クレメントプラザ地下1階にあるブルーパブ「焼鳥酒蔵 よい鳥」。開放的な店構えで気軽に立ち寄れる雰囲気
海外で知った味わいが新たな道しるべに

阿波麦酒の多田翔悟社長の前職は和食の料理人。2009年(平成21)、オーストラリアの日本食レストランで働いていた頃に出会ったのが、ブルーパブ。「できたてのフレッシュなおいしさに魅了され、休日にはしばしば足を運びました」と振り返る。1年後、帰国した多田さんは腰を傷めて、立ち仕事ができなくなった。数年間は料理の仕事から離れたが、思い切って受けた手術で痛みから解放された。「体調も万全になった今、やはり飲食の仕事に戻りたい」と方向性を模索していたとき、ふと思い出したのがブルーパブのこと。「自分でもビールを醸造してみたい」と考えるようになった。そこで2012年(平成24)、岡山県の醸造所に弟子入り。徳島と岡山を行き来しながら、1年かけて技術を学んだ。

2014年(平成26)、独立した多田さんがこだわったのは、地元の特産品であるすだちを使ったビールを醸造すること。「徳島の名物となるようなビールにしたい」と考えた。こうして開発した「すだちハニー」は、徳島県産のすだち果汁と蜂蜜を加えており、酸味と甘みのバランスが絶妙。フルーティな味わいなので、ビールが苦手な人でも飲みやすい。何より、すだちを搾って食べる徳島の食文化との相性が良いと評判になる。腕試しに出品した翌年の「インターナショナルビアカップ2015」では、銀賞を受賞。「すだちの香味が新しい味わいだ」という評価に、多田さんは驚きとともに、確かな手応えを感じた。

タンク
店舗の奥にある醸造所。3つのタンクを使って仕込みを行っている
クラフトビール
ボトル詰めしたクラフトビールは、土産物や贈答品としても人気。330㎖ボトルで550円
多田社長
試験醸造中の阿波和三盆糖を使用したクラフトビール。色や香り、味わいを日々チェックし、理想の味わいを追求している多田社長
ビール愛を貫きながら新しい挑戦を

阿波麦酒のクラフトビールは、仕込みに吉野川の伏流水を使い、エールビールなどに代表される上面発酵の手法で醸造する。また、酵母を生きたまま残した無ろ過・非加熱による、フレッシュな味わいにもこだわっている。品質管理に手間がかかり、賞味期限は短くなるが、濃厚なコクとフルーティな味わいが生まれる。

「すだちハニー」に続いて、徳島産のもち麦を使った「もち麦レッドエール」など新商品の開発にも意欲的な多田さん。コロナ禍で製造量が落ち込んだが、これをチャンスと捉えて研究に時間を注いだ。現在、試験的に醸造しているのは、阿波和三盆糖を使用したビールと、アルコール度数10%のハイアルコールビール。様々なチャレンジができるのも、小さな醸造所の強み。「手をかければかけた分だけ、味で応えてくれる。それがクラフトビールです」と多田さんは語る。飽くなきチャレンジ精神とビール愛が、阿波麦酒の隠し味なのだ。

タップ(注ぎ口)
タップ(注ぎ口)からグラスに注がれるできたてのクラフトビール
徳島県産の阿波尾鶏
徳島県産の阿波尾鶏の炭火焼など「焼鳥5種盛(1,760円)」と「すだちハニー(手前)」、「もち麦レッドエール」。クラフトビールは1パイント(480㎖)990円

お問い合わせ

株式会社 阿波麦酒 焼鳥酒蔵 よい鳥
住所 徳島県徳島市寺島本町西1-61 徳島駅クレメントプラザ地下1階
電話番号 088-624-8525
営業時間 11:00〜23:00(LO 22:30)
定休日 無休
URL https://www.awa-mugishu.com
備考 ※オンラインショップあり 営業状況、営業時間はHP等でご確認ください
老舗蔵元が生み出す地元農産物を使ったジン 日新酒類株式会社
焼酎で培った蒸留技術と徳島の農産物の活用を

江戸時代から続く酒蔵を母体に、四国内の酒類関係者の協力を受けて1948年(昭和23)に設立された日新酒類。その最大の強みは、日本酒だけではなく焼酎やリキュール、果実酒、本みりんなど複数の酒類免許と製造設備を有していること。1社でこれほど多種類の製造が行える蔵は四国で唯一。また酒造りに欠かせない仕込み水は、吉野川の伏流水をふんだんに使えるという地の利にも恵まれている。

そんな日新酒類で、蒸留酒である「ジン」の製造を発案したのは前田康人社長。「2010年(平成22)頃から、ヨーロッパでクラフトジンブームが起こっていることを知り、うちでもやれないかと考えていたのです」と話す。ジンに目をつけたのは、焼酎で培った蒸留技術を生かせるから。また、穀物を発酵・蒸留し、ボタニカル(植物性)由来の香味成分を加えて完成させるジンであれば、徳島の農産物を取り入れやすいと考えたのだ。

ジンの香味にはジュニパーベリー(西洋ネズの実)を用いるのが王道だが、少量生産のクラフトジンにはそれぞれの蔵が個性的なボタニカルを使用する。「徳島らしいクラフトジンを造りたい」。その構想を現実のものにしようと、2015年(平成27)からプロジェクトが始動した。

吉野川中流域に位置する日新酒類
吉野川中流域に位置する日新酒類。クラフトジンなどの自社製品の直売も行っている
50種類のボタニカルを吟味し完成した「AWA GIN」

一般的にジンのベースとなる酒(グレーン・スピリッツ)には、大麦やライ麦、トウモロコシなどが使われるが、日新酒類が選んだのは日本酒に使用する徳島県産の酒米・山田錦。その味わいをベースに、開発担当の丸山恵さんは、まずボタニカルの選定に取り組んだ。生姜、シソ、葉わさびなど地元の農産物約50種をピックアップし、「とにかく試す」ことから開発を始めた。

「毎日、開発室に籠って、組み合わせや分量を変えながら、試飲を繰り返しました」と話す丸山さん。こだわったのは、最初に口に含んだ瞬間の味わい、そして最後に残る余韻。試行錯誤の末に選んだのは、すだち、木頭ゆず、阿波晩茶、山椒の4種のボタニカル。まず爽やかなシトラスの香りと味わい、その後、阿波晩茶の甘酸っぱさ、最後に山椒の清涼感が残る。開発から1年以上を経て、味の骨格がつくられた。

「丸山さんの優れた味覚無くしては、この味を生み出すことはできませんでした」と前田さん。実は丸山さんは、同業者で開催される利き酒の大会で、四国トップの官能検査力を誇る逸材。日本酒で培った繊細な「利き酒」の力により、細やかな味の違いを表現することができたのだ。そして、最終段階では、プロのバーテンダーのアドバイスも受けて味を調整し、2017年(平成29)に「AWA GIN」が売り出された。

日新種類のジン
日新酒類のジンに使われている素材の一部。左上から時計回りに山椒、山田錦、ジュニパーベリー、阿波晩茶
香りや味わいの微妙な違い
「香りや味わいの微妙な違いを感じ取っています」と話す開発担当の丸山さん
発酵タンク
発酵タンクが並ぶ製造所。まずグレーン・スピリッツをつくって蒸留し、ボタニカルを加えて再蒸留させるのが一般的なジンのつくり方。日新酒類ではボタニカルを加えるタイミングなどに、独自の手法を取っている
世界的なコンテストで2種のジンが銀賞を受賞

徳島らしさが香る「AWA GIN」は、市場での評判も上々。そこで次に開発したのが、本場のジンに欠かせないスパイス・ジュニパーベリーを加えた「AWA GINクリアボトル」だ。これを完成させたとき、「海外のジンと競争できる王道のジンをつくろう」と新たな夢を抱いた前田さん。生み出したのが、山田錦のグレーン・スピリッツとジュニパーベリーだけで仕込んだ「AWA GINクラシック」。これと「AWA GINクリアボトル」をイギリスで開催された世界的な酒類コンテスト「IWSC2020」に出品したところ、見事に2つとも銀賞を受賞した。

約20年前より、国産のウィスキーやワインが、このコンテストで受賞する機会が増えており、日本人の酒造りに対する情熱や技術は、世界的にも注目を集めていた。中でもジンはウォッカ、テキーラ、ラムと並び世界の4大スピリッツ(蒸留酒)と称されている。そんな世界で愛される酒に、徳島県産の酒米で仕込んだジンが肩を並べることができたのだ。これまでに培われた技術、利き酒で鍛えた官能検査力に太鼓判を押されたような喜びの受賞となった。

「風土と人があってこそ、芳醇な味わいとなる…」という酒の真髄を雄弁に語りかけてくれる。それが「AWA GIN」だ。

前田社長
「設備や人材、地元の素材を生かしたい」とクラフトジンの開発を思い立った前田社長
「IWSC2020」で銀賞を受賞した記念の盾
「IWSC2020」で銀賞を受賞した記念の盾
AWA GIN
中央が「AWA GIN(720㎖5,500円)」。左が「クリアボトル(700㎖5,500円)」、右が「クラシック(700㎖3,850円)」

お問い合わせ

日新酒類株式会社
住所 徳島県板野郡上板町上六條283
電話番号 088-694-8166
営業時間 9:00~17:00
定休日 土・日曜、祝日
URL http://www.nissin-shurui.co.jp
備考 ※オンラインショップあり