阿波晩茶は、独特の香りと酸味を持つ乳酸菌発酵のお茶で、徳島県の山深い地域の一部で古くから飲まれている。成熟した茶葉を茹(ゆ)でた後で発酵させる「後発酵茶」は、世界的にも珍しい製法。今年3月には、上勝町・美波町・那賀町にそれぞれ伝わる阿波晩茶の独特の製造技術が国の重要無形民俗文化財に指定された。阿波晩茶のうち、上勝町でつくられたものを「上勝阿波晩茶」と呼ぶ。平安時代末期に妙薬の製法として中国から伝わり、400年以上前から日常的に飲まれるようになったといわれている。自家用として親から子へと受け継がれてきたため、茶葉を茹でる時間や発酵を促す乳酸菌の種類、発酵期間などはそれぞれ違う。そのため、出来上がったお茶の風味もその家によって全く異なるという。
現在、「上勝阿波晩茶」の生産農家は80戸ほど。70代以上の生産者が多く、作業が堪(こた)えるという生産者も増えてきた。この伝統的なお茶を受け継いでいきたいと町内の農家が生産したお茶を取りまとめて県内外で販売しているのが「Kamikatsu-TeaMate(以下:TeaMate)」の百野大地(ひゃくのだいち)さんだ。
2011年(平成23)、上勝町で“つまもの”の生産と販売を行う「株式会社いろどり」のインターンシップに参加した百野さん。作業後に出されたお茶の酸っぱさに驚いたのが、「上勝阿波晩茶」との出会いだった。「大阪に戻ってから、豊かな自然に囲まれた上勝での生活をよく思い出すように。同時に高齢化で担い手不足、後継者不足という状況を知ったことで、5年後、10年後はどうなるんだろう、と常に気になっていた」と言う百野さんは、2013年(平成25)に上勝町地域おこし協力隊として移住。2年半、「上勝阿波晩茶」のPRに取り組んだ後「継承するためには、生産者のサポートが大切」と実感し、2016年(平成28)に自らも生産農家として独立するとともに「TeaMate」を立ち上げた。