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新しい働き方がここに!ワーケーション先進地を訪ねる(徳島県) 新しい働き方がここに!ワーケーション先進地を訪ねる(徳島県)
歴史ある「うだつの町並み」にある「森邸」。しっとりとした雰囲気に包まれて、心穏やかなワークタイムを過ごせると評判

生き方や働き方を考える機会となったコロナ禍。リモートワークの推進により、自宅などオフィス以外の場所で仕事をすることが増えてきた。

そんな中、新たな働き方として注目されているのが「ワーケーション」だ。これは「ワーク(働く)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、リゾート地などにある宿泊施設やコワーキングスペース(※1)、レンタルオフィスなどで仕事をし、空き時間を有効活用するというもの。各施設には、インターネット環境やOA機器、打ち合わせスペースや会議室などがあり、仕事に集中できるだけではなく、余暇も楽しむことができる。

現在、全国で自治体などが中心となってワーケーション促進に力を入れている。中でも関西圏からアクセスがしやすい徳島県は、「アワーケーション(阿波のワーケーション)」と名付けて、県をあげて積極的な取り組みを行っている。

そこでアワーケーションのスポットを訪ねて、そこから得られるさまざまな効果について探った。

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(※1)コワーキングスペース

利用者が執務、会議、打ち合わせなど場所を共有しながら、それぞれ独立した仕事を行うスペース。立ち寄り利用が中心となる

情報インフラの整備からサテライトオフィス集積地へ

コロナ禍により注目され始めたワーケーションだが、徳島県では2012年(平成24)には既にその取り組みが始まっていた。「きっかけとなったのは、2011年(平成23)の地上デジタル放送への移行です」と話すのは、徳島県政策創造部地方創生局とくしまぐらし応援課の藤川忠大(ただひろ)さん。それまで、県民はNHK2波に加え、地元の民間放送局1波と、近畿地区の放送局の番組を視聴していたが、地上デジタル放送移行後は県外の放送局の番組を視聴することが困難となってしまう。そこで移行前の10年間で取り組んだのが、「全県CATV(ケーブルテレビ)網構想」。大容量通信が可能なインターネット接続サービスの整備やインターネットによる電話(IP電話)の拡充などにより県民が情報を得やすい環境を整えたのだ。

昨年3月の調査で、CATVの世帯普及率は全国平均52.3%であったが、徳島県は90.5%(9年連続全国1位)という高い数字を示すまでになった。徳島県ではこうした情報インフラの活用方法として、サテライトオフィスの誘致やコワーキングスペースの設置を積極的に行い始めた。特に祖谷を中心とする、にし阿波地域、神山町、美波町の3地域は、サテライトオフィスの集積地として、全国でも注目を集めるエリアとなっている。

今年3月、企業・団体のサテライトオフィスは77社にまで増え、150人以上の地元雇用を創出。地方創生の全国モデルとなった。「交流人口や移住者の増加、空き家の活用で、地域に元気を呼び込むことができました」と藤川さん。こうした取り組みをさらに進化させ、「アワーケーション」のPRがスタートした。

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(※2)サテライトオフィス

企業や官公庁、団体が、本社や本庁・本部から離れた場所に設置するオフィス

アワーケーションを推進するとくしまぐらし応援課
アワーケーションを推進するとくしまぐらし応援課。定期的に県内の施設を視察し、SNSを駆使して情報発信を行っている
仕事とレジャーを両立し各地の魅力を満喫

現在、徳島県内には滞在型、コワーキングなど「アワーケーション」施設は20カ所以上。歴史ある町並み、太平洋を望む海辺、のどかな里山など立地にも特徴がある。利用者は、徳島県の豊かな自然や歴史、文化、風土にふれながら仕事ができるのが魅力で、仕事に集中した後は、登山やサーフィン、町歩きなどを楽しむことでリフレッシュできる。また1カ所に留まらず、旅を楽しみながらあちらこちらで一時利用する人も増えている。「仕事とレジャーを両立し、徳島県の魅力が満喫できるのです」と藤川さん。

今年6月からは、徳島県とANAグループがタッグを組み、「アワーケーションプランコーディネーター業務」を進めている。「アワーケーション」施設を活用し、県内と県外企業のマッチングやセミナーを企画。積極的に情報発信を行い、地域と県外の事業者の共創活性化につなげようとしている。

徳島県庁10階にある「TOKUSHIMA AWorking AI」は、会員制のコワーキングスペース
徳島県庁10階にある「TOKUSHIMA AWorking AI」は、会員制のコワーキングスペース。コロナ禍の特別措置として、現在、県内企業または団体は無料で使用可能。
要予約 ℡.088-664-3177(リコージャパン株式会社)
とくしまぐらし応援課が制作した「アワーケーションマップ」
とくしまぐらし応援課が制作した「アワーケーションマップ」。県内24カ所の施設、サイクリングやサーフィンなどのアクティビティスポットなどを紹介

アワーケーション推進のために、動画やウェブサイトによるプロモーションも積極的に行っている

徳島県政策創造部地方創生局 とくしまぐらし応援課
住所 徳島県徳島市万代町1-1
電話番号 088-621-2360
URL https://www.pref.tokushima.lg.jp/kenseijoho/soshiki/seisakusouzoubu/tokushimagurashioenka/
築150年以上の古民家でゆったりワークタイム[森邸]

吉野川北岸の美馬(みま)市脇町(わきまち)は、江戸時代に藍の集散地として栄えた歴史をもつ。中心地の「うだつの町並み」には、江戸時代中期から昭和初期に建てられた85棟の伝統的建造物が建ち並んでおり、建物の多くが漆喰(しっくい)塗りの「うだつ(防火壁)」を備えている。そんな風情豊かな町並みにある「森邸」は、1872年(明治5)にみそ、醤油の醸造所として建てられた。近年は空き家となっていたが、その活用に名乗りを上げたのが、地元と都市部の経営者、自治体がタッグを組んだMIMA(みま)チャレンジプロジェクトだ。

「この施設には3つの機能があり、それぞれのニーズに合わせた利用が可能です」と話すのは、管理人の翠大知(みすだいち)さん。サテライトオフィスは都市部の企業の出先機関として、シェアオフィス(※3)は自営業者のワークスペースとして、コワーキングスペースは一時的な執務場所として重宝されている。観光でこの地を訪れた人が、その合間にちょっと仕事を…と立ち寄ることもある。

「広い土間や座敷のあるコワーキングスペースは、古民家の風情を満喫できると好評。歴史ある建物で過ごす面白さも味わってもらえます」と翠さん。打ち合わせなどに活用することもできる。

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(※3)シェアオフィス

スペースや設備を他者とシェア(分け合う)して利用する貸しオフィス

「うだつ」がある森邸
「うだつ」がある森邸。観光途中にちょっと仕事を…という人が多い
コワーキングスペースで町並みを眺めながらゆったりと過ごす
コワーキングスペースで町並みを眺めながらゆったりと過ごす
移住トライアルや新たな出会いの場に

こうした3つのワークスペース機能に加えて、「森邸」は飲食店の開業を目指す人のトライアルの場にもなっている。土・日曜、祝日には地元の人も気軽に立ち寄ることができるカフェがオープン。店主は、ここで腕を磨き、地元の人と顔見知りになることで、独立に向けての準備をすることができるのだ。これまでに県外からの移住者が数カ月間営業し、独立したケースもある。

このほか、地元企業の訪問ツアー、新たな特産品を生み出すための企業マッチングイベントも行っている。「ワークスペースとして多くの方に利用してもらうことに加えて、人やモノの出会いの場、他地域と徳島県を結ぶ場としてどんどん活用してほしい」と翠さんは話す。

現在、土・日曜、祝日には移住者によるチャレンジカフェを営業中
現在、土・日曜、祝日には移住者によるチャレンジカフェを営業中。ここで独立に向けた準備をして、地域に根を下ろそうと奮闘中
85棟の伝統的建造物が並ぶ「うだつの町並み」
85棟の伝統的建造物が並ぶ「うだつの町並み」。土づくりの防火壁であるうだつは、裕福な家しか設置できなかった。富と繁栄の象徴であり、「うだつが上がる」の語源にもなっている
大きなテーブルは掘りごたつ式になっているので、長時間の作業も疲れないと好評
大きなテーブルは掘りごたつ式になっているので、長時間の作業も疲れないと好評
カフェではドリンクや自家製スイーツ、食事メニューなどを提供
カフェではドリンクや自家製スイーツ、食事メニューなどを提供。「徳島県産すだちのソーダドリンク」などご当地色のあるメニューが人気
管理人の翠さん
管理人の翠さん。「森邸は非日常的な雰囲気が魅力。シェアオフィスにも入居者がおり、利用者同士の情報交換も活発です」と話す
森邸
住所 徳島県美馬市脇町大字脇町108
電話番号 0883-52-1577
利用時間 8:30〜17:30
定休日 土・日曜、祝日
利用料金 1日1,000円、2時間500円
駐車場 市営駐車場利用(無料)
URL http://mima-challenge.com
高校生のアイデアから生まれた交流の場[交流スペース“kocolo(こころ)”]

小松島市にある徳島小松島港は、かつて四国東部の海の玄関口として、大阪や神戸などを結ぶフェリーの発着港として栄えていた。しかし本州四国連絡橋架橋の影響を受けて、定期航路は次々と廃止されてしまう。「人の出入りがなくなったフェリーターミナルに、再び賑わいを生み出したい」と考えた行政と市民は、2002年(平成14)にNPO法人を設立。産直市やフリーマーケット、飲食店などを運営し、コンサートやワークショップの開催場所として活用してきた。だが建物の2階部分は空きスペースとなっており、数年前からその活用法が検討されていた。

そうした中、徳島県立小松島高等学校と小松島西高等学校の生徒にも意見を求めたところ、「気軽に利用できる自習スペースがほしい」という声が上がった。それまで学生たちはファストフード店やフードコートなどを自習スペースとして利用していたが、長時間の利用は難しい。その意見をくみ取り、2019年(令和元)11月にオープンしたのが、コワーキングスペース「交流スペース“kocolo(こころ)”」。高校生がつくった看板が迎えるこの施設は、学生だけではなく社会人も利用可能。学生と社会人の交流も目的の一つとしている。

小松島湾を眺めながら思い思いの過ごし方を

開業の翌年、コロナ禍により休館した時期もあるが、利用料金が無料ということも好評で、9カ月で約1,000人が利用した。カウンターやデスクを置いたスペースに加え、テレビ会議もできるモニター付きの会議室も用意している。「ビジネスパーソンのリモートワークの利用、資格取得を目指す社会人の利用もあり、幅広い方にご利用いただいています」と話すのは、小松島市産業振興部商工観光課の玉川大地さん。

大きな窓の外には、小松島湾の景色が広がっている。学生たちは、ここで学習した後に、進学や就職のために故郷を離れることもあるだろう。だが、記憶の中にこの景色をしっかりと刻むことで、故郷への愛情を持ち続けるに違いない。

ワークスペースは窓沿いにつくられており、小松島湾の情景を眺められるようになっている
ワークスペースは窓沿いにつくられており、小松島湾の情景を眺められるようになっている
小松島市の特産品である木質素材(杉材)を活用したボードなど地元品を活用している
小松島市の特産品である木質素材(杉材)を活用したボードなど地元品を活用している
小松島港を眺めながら自習する地元の高校生。ここは放課後のひとときの居場所となっている
小松島港を眺めながら自習する地元の高校生。ここは放課後のひとときの居場所となっている(2019年12月撮影)
開業前、看板作りに勤しむ高校生。こうしたことにより「自分たちが施設の発案者」との思いを強くした
開業前、看板作りに勤しむ高校生。こうしたことにより「自分たちが施設の発案者」との思いを強くした
「地元の高校生たちの意見を取り入れながらつくられた異色のアワーケーション施設です」と話す小松島市商工観光課の玉川さん(右)
「地元の高校生たちの意見を取り入れながらつくられた異色のアワーケーション施設です」と話す小松島市商工観光課の玉川さん(右)
交流スペース“kocolo”
住所 徳島県小松島市小松島町新港19
電話番号 0885-33-0302
利用時間 9:00〜17:00
定休日 木曜
利用料金 無料(事前に申し込みが必要)
駐車場 あり(無料)
URL https://komatsushima-kocolo.info

各施設の利用状況、利用時間はHP等でご確認ください。
撮影のためマスクを外しています。

小松島市ではここでも! アワーケーションアグリコワーキングスペース「オフィスあいさい」

今年3月にオープンした「オフィスあいさい」は、日本初の産直併設のコワーキングスペース。食農ビジネスに取り組みたい人をはじめ、誰もが気軽に利用できる施設として人気上昇中だ。広いスペースを確保しており、ドリンクバーもあるので、読書やくつろぎの場としても利用できる。

高台にあり、窓際のカウンターからは緑を一望できる爽快なワークスペース
高台にあり、窓際のカウンターからは緑を一望できる爽快なワークスペース
「幻の柑橘ゆこうドリンクなど、フリーで味わえます」と話すJA東とくしまの小川貴士さん
「幻の柑橘ゆこうドリンクなど、フリーで味わえます」と話すJA東とくしまの小川貴士さん
アグリコワーキングスペース「オフィスあいさい」(JA東とくしま「みはらしの丘あいさい広場」内)
住所 徳島県小松島市立江町炭屋ヶ谷47-3
電話番号 080-2428-9150
利用時間 8:30〜17:00(受付は15:00まで)
定休日 土・日曜、祝日、第3火曜
利用料金 4時間[一般]500円・[会員]400円、1日最大8時間30分[一般]1,000円・[会員]800円
駐車場 あり(無料)