イワシは、大きさにより大羽(おおば)、中羽(ちゅうば)、小羽(こば)、カエリと呼び名が変わる。8㎝以上の大羽は、産卵後の親魚で、6月中旬から下旬までが漁期。その後、網の目を変えて小羽漁、中羽漁が行われている。いずれもそのまま出汁用に使われることが多いが、大羽や中羽は出汁パックなどの加工用、小羽やカエリは佃煮用としても重宝している。また香川県西讃地域では、伊吹いりこの炊き込みご飯「いりこ飯」などの郷土料理も根付いている。
そんな中、ここ数年、関係者を悩ませていたのは、脂質の含有量が多い「脂イワシ」が増えてきたこと。漁場の環境の変化から海中にエサとなる動物プランクトンが増加し、よく食べて太るなどして、脂イワシの割合が増えていたのだ。脂イワシは、脂質が酸化しやすく、味や香りが落ちる。一部はラーメンの出汁用となるが、通常のいりこに比べると価格は安くなってしまうのだ。
2016年(平成28)、「脂イワシを何とか活用できないか」という網元たちの悩みを耳にしたのは、三豊市で冷凍食品会社を営む加地正人(かじまさと)さんだ。
「漁師さんが、釜で茹でた脂イワシを自家用としてそのまま食べていることを知りました。これを商品化することはできないかと考えたのです」と加地さん。網元15軒とともに「伊吹島プロジェクト」を結成した加地さんは、茹でたいりこを急速冷凍するという手法を思い付く。乾燥させると脂質がネックになる脂イワシだが、炙ったり、天ぷらにしたりすると、その欠点がおいしさに転じることに気付いたのだ。そこで各網元は急速冷凍機を導入し、伊吹いりこと同様に、スピーディな加工でさらなる味わいの良さにつなげた。
2018年(平成30)、脂イワシの加工品に「釜揚げいりこ」と名付けて商標登録。翌年から販売を開始したところ、外食チェーンや量販店からの引き合いが殺到。農林水産省の「フード・アクション・ニッポンアワード2019」の100産品に選定され、プロジェクトには観音寺市の飲食店オーナーらも加わり、順調に滑り出した。
地元飲食店を巻き込んでさらなる飛躍を…と意気込んだ矢先、コロナ禍によりプロジェクトは苦境に立たされる。釜揚げいりこのイベントやキャンペーンは、すべて中止を余儀なくされた。だが加地さんは次なる方策を考える。その一つが、学校給食への売り込み。観音寺市の学校給食に釜揚げいりこを導入してもらうことができた。合わせて、子どもたちに商品の背景などを説明するオンラインイベントにも取り組んだ。
プロジェクトのメンバーの一人で、観音寺市内で鮮魚店と料理店を営む三好良平さんは、複数の釜揚げいりこ料理を開発した。「アフターコロナには多くの人に味わってもらい、釜揚げいりこ料理を観音寺の漁師飯として新たな名物にしたい」と意気込む。
三好さんは伊吹いりこで取った出汁を卵液に混ぜて作るいりこのプリンも開発。斬新な発想で生み出したこの商品は、お取り寄せにも対応。伊吹いりこの普及拡大にも努めている。