全体の8割を森林が占める徳島県神山町。
その森林の多くが住宅用建材として植林され、放置されてしまった人工林だという。
人工林に覆われ保水力を失った山々を蘇らせたいとの思いから、
2013年(平成25)にはじまったのが「神山しずくプロジェクト(以下:しずくプロジェクト)」。
器やアロマ製品など、感度の高い人たちが思わず手にとりたくなるようなものづくりによって、
行き場を失った杉という地域資源に光を当てていく。
神山しずくプロジェクト
自然を守る唯一無二の器
行き場を失った杉に
ここにしかない価値を

2012年(平成24)に神山町の豊かな自然に惹かれ、家族で移住したデザイナーの廣瀬圭治(きよはる)さんは「30年後には神山町を流れる川の水が枯渇するかもしれない」という話を聞き、神山町の自然を守るためにデザイナーとして何かできないかと考えるようになった。神山町の川の水量が30年前の3分の1になったのも、手入れされなくなった山が水を貯める力を失ってしまったから。定期的な伐採により山肌に光が届くようになれば保水力は取り戻せる。杉材の活用によって経済循環ができれば森林整備もできるようになると考えた廣瀬さんは、それまでグラフィックやWEBで培ってきたデザイン力を活かした杉の木製品をつくろうと「しずくプロジェクト」をスタートさせた。
まず取り組んだのは、器づくり。器自体に魅力がなければ多くの人たちに手にとってもらうことは難しいと、デザインと使い勝手の良さを追求した。器との出会いをきっかけにして、杉や山、水のことを知ってもらうことが「しずくプロジェクト」の目的だ。
一般的に柔らかい杉は器には適さない。また、年輪による色の差が好まれないのではと指摘する人も大勢いたという。器を完成させるためにはさまざまなハードルがあったが、杉の価値を高める「しずくプロジェクト」への共感が地元の職人たちのチャレンジ精神に火をつけた。熟練の職人の技術を集結して試行錯誤の末、完成までに丸1年かかって「SHIZQ」ブランドの器が誕生した。


器を使い、贈ることで
応援できる環境保全

神山町内で伐採し製材した杉を使ったコップやタンブラー、プレートなどの食器を中心とする「SHIZQ」の商品。ロクロ挽きで木地を形成した器は、驚くほど軽くなめらかな手ざわり。杉の年輪を活かした自然な横縞(よこじま)模様と木目のコントラストが特長で、五層の透明漆を塗って仕上げたシリーズなどもある。デザインの美しさのみならず、地域貢献・循環型のプロジェクトデザインそのものが評価され、2017年(平成29)には「グッドデザイン賞」を受賞した。「しずくプロジェクト」で商品プロモーションを中心に行っている主任の渡邉朋美さんは「いきなり森林や環境保全の大切さを訴えかけても、なかなか伝わらない。まずは美しいデザインの器を自分へのご褒美や大切な人のギフトにしたいと思ってもらうところから」と話す。
今年4月には、事務所の横に設けていたギャラリーを移転。神山町の風景を眺められる高台に直営ショップ「SHIZQ STORE」をオープンさせた。ショップ内には「SHIZQ」を手にしてくれた人が、いつでも神山町を訪れられるようにとオーナーズラウンジを併設。「SHIZQ」を購入した人、贈られた人であれば誰でも利用でき、棚に並んだ中から好きなカップを選んでコーヒーやワインを楽しむことができる。
最近では全国誌のSDGs特集などの取材依頼も増えたという。「立ち上げた時も今も、自分たちがいいと思うことに本気で取り組んできただけ」と廣瀬さんは少年のような瞳で笑う。デザインを用いて地域のためにできることを考えるところからはじまったものづくり。一滴のしずくからスタートし、神山町から全国へと波紋を広げはじめた「しずくプロジェクト」は、50年後、100年後の未来を見据えながら、メイドイン神山にこだわったものづくりを続けていく。







お問い合わせ
住所 |
徳島県名西郡神山町神領西上角194 |
---|---|
電話番号 | 090-4940-3848 |
営業時間 | 10:00〜16:00(12:00〜13:00は昼休憩) |
定休日 | 月・火曜日(祝日を除く) |
メール | info@shizq.jp |
オンラインストア | https://shizq.store/ |
撮影のためマスクを外している場合があります