太平洋に面した高知県幡多郡黒潮町は、カツオの一本釣り漁業の町。また、年間の平均気温は約17度と温暖で、降水量も多いことから、水稲や花卉(かき)などの農業も盛んに行われている。かつて入野海岸に面した入野地区は「入野砂糖」の産地でもあった。その伝統を復活させようと、1987年(昭和62)に結成されたのが「入野砂糖研究会(以下:研究会)」。結成当時、製糖の経験者は数名残っており、その指導のもと製糖所を建て、サトウキビ栽培と黒糖作りに取り組み始めた。
以降、賛同する人が増え今や会員は25人。定年退職した人や兼業者がそのほとんどを占めている。そんな中、専業で取り組んでいるのが、農園「イノタネアグリ」の秋吉隆雄さんと和香さん夫妻だ。「黒糖作りを生業(なりわい)にするとは思ってもいませんでした」と話す秋吉さんは、2005年(平成17)、黒潮町の豊かな自然に惹かれて大阪から移住。林業に従事しながら、自家用の米や野菜作りに取り組んでいた。
移住から10年目のある日、農作業をしていた秋吉さん夫妻に、「サトウキビを作らんかよ(作ってみないか)」と声が掛かった。声の主は研究会の酒井貢(みつぐ)さん。「面白そうだからやってみようか」と、秋吉さん夫妻は軽い気持ちで、2015年(平成27)からサトウキビの栽培を始めた。