「弘法大師空海御誕生地」として知られる香川県善通寺市。
どこか懐かしいレトロさが魅力の同市で、2019年(平成31)に
地元の企業がつくる黒板を用いて始まったのが「まちなか黒板アート」の取り組み。
コロナ禍に直面し、事業が思うように進まない中でも「黒板アートのまち、善通寺市」を
広く浸透させようと奮闘する、商工観光課の面々を訪ねた。
風景に溶け込む歴史や文化。
魅力を伝える「まちなか黒板アート」
善通寺市商工観光課
地元の産業を用いた観光振興の取り組み
善通寺をはじめ四国遍路八十八カ所のうち5カ寺を有する善通寺市。大小約400基もの古墳がある古墳群のほか、旧陸軍関連施設などの明治・大正時代の建物も多く、さまざまな時代の史跡を観光資源としてどう活用するかが長年の課題。また、市内には香川県唯一の黒板メーカーがあり、その黒板を用いて観光につなげることができないかという声もあった。
2019年(平成31)4月、卒業式などでよく目にする黒板アートを取り入れられないかと模索していたところに、地域おこし協力隊として中川裕太さんが商工観光課に着任。黒板アートを担当することになった中川さんは、善通寺第一高等学校のデザイン科教諭に相談したところ「単なる黒板アートの展覧会ではなく、善通寺らしさを取り入れては」というアドバイスをもらった。中川さん自身が善通寺市のどこか懐かしい雰囲気に惹かれて移住したこともあり「大人にとって黒板は懐かしさを感じるもの。この町の風景との相性もいいはず」と善通寺市の歴史や特色を描いた黒板を現実の風景の中に展示し、町並み自体をアートにすることを思いついた。そこで、善通寺第一高等学校デザイン科や穴吹デザインカレッジなどの県内にある教育機関や旧善通寺西高等学校OBなどに作品作りをお願いするとともに、黒板メーカーにも協力を依頼。チョークで描いた作品は透明の保護フィルムで加工し、一部の作品は長く楽しめるように退色しにくい絵の具や顔料を用いて制作され、瀬戸内国際芸術祭の会期に合わせて善通寺市内20カ所に作品を展示する「Zentsuji Black Board Art 2019」を開催した。







黒板アートで伝える善通寺市という場の魅力
地元の風景を描くことをきっかけに「自分たちの住む町の魅力に気づいてほしい」と、展覧会初日には県内の高校生に向けた「Zentsuji Black Board Art Contest 2019(以下:黒板アートコンテスト)」も開催。高校生の自由な発想を引き出すとともに、他校との交流を生み、チーム内で達成感や悔しさを共有する機会となった。また、善通寺第一高等学校デザイン科の生徒による黒板アートを用いた動画作品が世界的な広告賞を受賞するなど、一躍注目されるように。しかし、翌2020年(令和2)はコロナ禍に直面。規模を縮小した「黒板アートコンテスト」の開催に留まった。昨年は、瀬戸内国際芸術祭2022を見越して、県内外のアーティストに善通寺市内各所に展示する黒板アートの制作を依頼。昨年秋から市内各所に常設展示し、新しい観光スポットにする予定だったが、まん延防止等重点措置の影響を受けて展示時期を変更。予定していた「黒板アートコンテスト」は中止することになった。そこで展示スタートの時期を見極めながら、足を運ばなくても作品を見られるWebサイトや画集を準備。「”善通寺市=黒板アートのまち”が、やっと浸透してきたところ。この取り組みを続けるためにも、今できる形で開催しようというのが共通の思い」と実務を担当した商工観光課の環努さんは言う。
紆余曲折を経て、今年2月には40点の黒板アート作品の設置が完了した。「コロナ収束後にアートを巡り善通寺市の風景を楽しんでもらえれば、このバタバタも笑い話になる」と話す環さんの言葉に同課の秋山哲郎さんと井浦彰友さんが頷く。その横で「なんでも前向きに捉えてくれ、町を盛り上げるために熱心に動いてくれる人たちなんですよ」と中川さん。まだ始まったばかりの「まちなか黒板アート」の取り組み。コロナに負けずに日の目を見た色とりどりの黒板アートが、個性豊かに善通寺市の長い歴史や文化を伝えている。


善通寺市まちなか黒板アート事業
URL | https://www.kukainavi.com/machinaka-art/ |
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お問い合わせ
住所 |
香川県善通寺市文京町2-1-1 |
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電話番号 | 0877-63-6315 |
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