味噌は、穀物に麹と塩を加え、菌を繁殖させて発酵し、熟成させることでできあがる。穀物や麹の種類によって、風味に特徴のある郷土の味噌も根付いている。
1875年(明治8)創業の井上味噌醤油は、御膳(ごぜん)味噌など4種類の味噌を醸造している蔵。7代目の井上雅史さんら3人の蔵人が昔ながらの味噌作りに取り組んでいる。鳴門は古くから製塩が盛んで、近郊では藍の裏作として大豆が栽培されていた。また、徳島平野では稲作が行われており、味噌の原料が手に入りやすいという地の利があった。「加えて温暖少雨の気候も味噌醸造に適しているのです」と井上さん。味噌は気温15℃以下では発酵が進みにくく、夏場に雨が多いと、雑菌が繁殖しやすくなってしまう。原料と環境が揃った鳴門は、まさに味噌作りの好適地なのだ。
大学で工業デザインを学んでいた井上さんが蔵を引き継いだのは25年前、病に倒れた父を支えるために進路を諦めたという経緯がある。だからと言って嫌々継いだわけではない。そのきっかけとなったのが、留学先のモンゴルで味わった味噌汁。実家から送られてきた味噌を久しぶりに口にし、その美味しさに慰められたことが印象に残っていた。その記憶に背中を押された井上さんは、蔵元としての道を歩み始めた。