2020年(令和2)7月に運行を開始。金・土・日曜と祝日に土讃線の高知駅・窪川駅間を往復する観光列車。下り列車には「立志の抄」、上り列車には「開花の抄」の愛称がつけられている。2両編成で、外観も内装もそれぞれ異なるデザイン。1号車「KUROFUNE」は対面座席のほか、相客と交流できる「高知家の団らんシート(新型コロナ対策のため、外向きレイアウトに変更中)」、2号車の「SORAFUNE」は全席窓向きの座席レイアウト。
車両デザインや車内のおもてなしに工夫を凝らし、「移動そのものが旅」をコンセプトとした観光列車は、今や全国で60以上が運行している。四国でもJR四国のアンパンマン列車を皮切りとして、2014年(平成26)に「伊予灘ものがたり」、2017年(平成29)に「四国まんなか千年ものがたり」が登場。
そして2020年(令和2)には「志国(しこく)土佐 時代(とき)の夜明けのものがたり」と「藍よしのがわトロッコ」が仲間入りし、四国の魅力に触れられる新たな旅を提案している。
そこで2つの新しい観光列車の魅力、旅客や沿線にもたらした恩恵について紹介する。
2020年(令和2)7月に運行を開始。金・土・日曜と祝日に土讃線の高知駅・窪川駅間を往復する観光列車。下り列車には「立志の抄」、上り列車には「開花の抄」の愛称がつけられている。2両編成で、外観も内装もそれぞれ異なるデザイン。1号車「KUROFUNE」は対面座席のほか、相客と交流できる「高知家の団らんシート(新型コロナ対策のため、外向きレイアウトに変更中)」、2号車の「SORAFUNE」は全席窓向きの座席レイアウト。
2020年(令和2)10月に運行を開始。3〜6月・9〜11月の土・日曜と祝日に徳島線の徳島駅・阿波池田駅間を往復する。愛称は下り列車が「さとめぐみの風」、上り列車は「かちどきの風」。特急列車にトロッコ列車を連結しており、トロッコ乗車区間は石井駅・阿波池田駅間。車体は阿波藍をイメージしたブルーのグラデーションが美しい。
現在、JR四国では12の観光列車が運行している。中でも「伊予灘ものがたり(以下:伊予灘)」と「四国まんなか千年ものがたり(以下:千年)」に次ぐ「ものがたり列車」の第3弾として話題となっているのが「志国土佐 時代の夜明けのものがたり(以下:夜明け)」だ。列車は高知駅・窪川駅間を往復しており、雄大な太平洋や幕末の志士たちが残した足跡、のどかな里山など変化に富んだ車窓風景が満喫できる。
「ものがたり列車は、特徴ある車両デザインと、地元食材を使った料理を堪能できるのが魅力」と話すのは、JR四国ものがたり列車推進室の前川成美(なるみ)さん。
特にこだわったのは、「土佐流のおもてなし」。車内で提供する食事の献立は、地元の料理人と打ち合わせを重ねた。意識したのは食材だけではなく、提供方法にも高知の食文化を表現すること。下り列車では郷土料理の皿鉢(さわち)風に盛り付けた創作料理を考案。上り列車では四万十ヒノキの弁当箱に料理を盛り付けている。「ヒノキの香りが強すぎると料理を邪魔してしまうので、特殊な加工により、ほのかにヒノキが香る加工ができる業者探しに苦労しました」と前川さん。
運行開始後も料理人との打ち合わせを重ねて、折々に季節の食材を使うなどの工夫もされている。
車両のデザインは、「伊予灘」や「千年」を手がけたデザインプロジェクト担当室長の松岡哲也さんが担当した。先発の「ものがたり列車」は、沿線住民をはじめとする地元の人から愛されることで、その人気が定着したという経緯がある。「高知県民に親しみを持っていただくにはどうすればいいのか。まず、坂本龍馬や志士たちについて、社内の高知県出身者にイメージを聞くことから始めました」と松岡さんは振り返る。最終的には、龍馬らの進取の気風を近未来的なデザインに投影し、個性ある車両へと仕上げた。
JR四国の観光列車の大きな魅力となっているのが、「伊予灘」や「千年」で定着した沿線住民のお手振り。「これは地域で自然発生するものなので、実際にどのくらいお手振りしていただけるのかは未知数でした」と前川さん。ところが「夜明け」が走り始めると、先発の観光列車を凌駕(りょうが)するほどのお手振りが行われており、地元の団体や学生らが停車駅や通過駅で工夫を凝らした出迎えをしてくれている。
下り列車が11分停車する安和駅では、「集落活動センターあわ」のメンバーが、お菓子や雑貨などの手作り品の販売をしながら乗客を出迎えている。「安和駅は海に近接したロケーションの良い駅。この地が乗客の印象に残ることが私たちの願い」と同センターの津野方美(まさみ)さん。わずかな停車時間を活用し、乗客との会話を弾ませている。列車が出発する際には、ホームでよさこい踊りを披露。地元の人たちの明るい笑顔が、乗客の思い出になっている。それだけではなく、「畑仕事をしている方が手を振ってくれている姿に感動したという乗客の声も耳にして、ありがたいと思っています」と松岡さん。
「夜明け」はコロナ禍に翻弄されながらも、昨年末までに、運行日数300日で1万6,500人の乗車を達成した。そこには、沿線住民の力も大きく影響しているのだ。
トロッコ列車は、風を感じながら乗車できる爽快な列車。徳島線を走る「藍よしのがわトロッコ(以下:よしのがわ)」は、かつて別路線を走っていた車両を転用した。「ものがたり列車」は、JR四国の専属アテンダントがおもてなしをするのに対して、「よしのがわ」では「一般社団法人ツーリズム徳島」のスタッフが車内ガイドを担当。徳島弁を交えた素朴な語り口が味わいだ。
車内の食事は駅弁。徳島県では長らく駅弁が途絶えていたが、前川さんらが交渉し、「よしのがわ」の運行に合わせて復活させた。下り列車は阿波尾鶏、上り列車は阿波牛をメイン食材としている。「阿波牛の駅弁は、料理店と徳島県立つるぎ高等学校の生徒さんがコラボして生まれた期間限定の新作です」と前川さん。高校生の力は車内販売のお菓子でも発揮されており、徳島県立城西高等学校食品科学科は、無添加のクッキーを製造。コロナ禍が終息すれば、学生による車内販売も検討しているという。
「よしのがわ」は、吉野川が織りなすのどかな車窓風景が乗客を魅了している。阿波九城の一つである川島城、吉野川に合流する清流・穴吹川、名勝として名高い美濃田(みのだ)の淵など、川面を吹き抜ける風をダイレクトに受けながら眺める景観は思い出深いものとなる。また「実際に乗車してみると、何気ない風景が印象に残ったという声も聞こえてきます」と松岡さん。ゆっくりとしたスピード、車道を見下ろすような位置から眺める景色は、映画を鑑賞しているような趣だ。
「よしのがわ」でも各所でお手振りが行われている。中でも運行から程なくして話題になったのは、小島(おしま)駅と貞光駅の間で、たくさんの女性が、手ぬぐいや団扇を懸命に振る姿。つるぎ町太田地区のボランティアグループ「太田女性会」だ。「最初は私が一人で手を振っていたのよ」と話す会長の横田英子さんは今年94歳を迎えた。コロナ禍でグループが思うように活動できなかった時期、気付けば一人、また一人と横田さんとともにお手振りをする人が増えた。今では毎回20人程度が参加している。
「女性会の皆さんのことは社内でも話題となり、そこを徐行区間にすることになりました」と前川さん。スピードを落とすとはいえ、列車を迎えてから見送るまでは10秒足らず。それでも乗客の笑顔を確認することはできる。列車が通り過ぎても、見えなくなるまで手を振り続けるメンバーたち。「今はお手振りが生きがい。こうやって、乗客の方と顔を合わせる機会がもらえて、感謝しているのよ」と笑う横田さん。車窓越しのコミュニケーションは、乗客と住民、その両方になくてはならないものとなっている。前川さんや松岡さんら職員は、こうした沿線住民のもとを訪ねて、一緒にお手振りをすることもある。
「よしのがわ」は、昨年末までに、運行日数100日で8,000人が乗車した。四国の観光列車のはしごを楽しむ県外からの列車ファンも目立つという。観光列車は、お接待の心が根付く四国らしい旅のコンテンツとして、多くの人を捉えている。
今春、「伊予灘」は、2両編成から3両編成へとリニューアルされた。初代のイメージを引き継いだ1・2号車に対して、3号車にはグリーン個室を新設。またサービスギャレー(調理スペース)を設けたことにより、温かい料理が提供できるようになった。車内Wi-Fiや各座席にUSBコンセントを設置。運行は土・日曜と祝日を中心に、松山駅・伊予大洲駅間、松山駅・八幡浜駅間を各1往復。
電話番号 | 0570-00-4592(8:00〜19:00) |
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休み | 無休 |
URL | https://www.jr-shikoku.co.jp |