四国山地の中央部に位置する高知県大豊町は、面積の約9割を森林が占めている。この山深い地で、400年以上前から作られていると伝わるのが碁石茶だ。生産者の小笠原功治(こうじ)さんが作業を始めるのは、6月中旬頃。標高約450mの傾斜地に植えた無農薬栽培の茶葉の刈り取りから茶作りが始まる。「緑茶は一芯二葉(いっしんによう)という柔らかな若い芽を丁寧に摘み取ります。でも、碁石茶は『茶摘み』ではなく『茶刈り』と呼ぶように、枝ごと豪快に鎌で刈り取ります」と小笠原さん。
刈った茶葉は、約2時間かけて蒸し上げ、枝を取り除いて筵(むしろ)を敷いた榁(むろ)で1週間ほど寝かす。この時、筵に付着しているカビ菌により1回目の発酵(好気発酵※1)が行われる。その後、茶葉を木桶に移し、2回目の発酵(嫌気発酵※2)を行う。このとき、蒸し桶で蒸した際に出た蒸し汁を木桶に加えて、茶葉が空気に触れないようにするのがポイント。7〜10日ほどで発酵が進み、重石を持ち上げるほどに膨張するが、発酵が終われば元に戻る。
2度の発酵を経た茶葉は、茶切り包丁で3〜4cm角に切り出し、筵にのせて天日乾燥させる。乾燥の時期は7月下旬から8月中旬にかけて。真夏の陽光が茶葉をカラカラに乾かしてくれる。「この乾燥の様子が、碁石を並べているように見えることから碁石茶と呼ばれるようになったそうです」。小笠原家は代々碁石茶作りを行っている兼業農家。小笠原さんも仕事を持ちながら、この時期は休日を利用して碁石茶作りを行っている。
※1…酸素のある状態で活動する微生物の力による発酵
※2…酸素がない状態で行われる発酵。乳酸発酵など