鳴門市でれんこん栽培が本格的に始まったのは、1946年(昭和21)の昭和南海地震発生以降。市の沿岸地域の水田が塩害に見舞われたため、稲作が困難になった。そこで先人たちが着目したのがれんこん。れんこんは塩害に強いことから、転作する農家が相次いだ。れんこん専業の「仲須農園」の仲須真理さんは、父親が始めたれんこん栽培を夫の清さんとともに受け継いだ。「鳴門れんこんの栽培は体力勝負です」と真理さん。
れんこんの収穫といえば、水圧掘り(水掘り)を行う地域が多い。だが鳴門市内の圃場(ほじょう)の多くは、昔ながらの熊手掘り(手掘り)が行われている。というのも、鳴門れんこんが育つ土壌は肥沃な粘土質。高圧の水をかけても、土を取り払うのが難しいのだ。
収穫前には圃場の水を抜き、ショベルカーで表面の土を取り除く。長男の之法(ゆきのり)さんらは、1本1本、熊手を使って傷をつけないように丁寧に掘り出していく。粘土質の土壌からほんの少し顔を覗かせたれんこんの「芽」を頼りに、熊手を入れる場所を見極めている。熊手を入れる場所を間違えれば、れんこんに傷が付いてしまう。粘土に足を取られながらの過酷な作業を慎重に進めていく。「大変ですが、粘土質の土壌で育つれんこんは、圧力に負けまいと身が引き締まるのです。鳴門れんこんの価値はこの粘土が生み出しているんです」。収穫したれんこんはきれいに土を洗い流して、箱に詰める。これらもすべて手作業だ。