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めでたさもひとしお 鳴門れんこん物語 めでたさもひとしお 鳴門れんこん物語
れんこんはタンニンやビタミンC、カリウムなどの栄養成分を含んでおり、食物繊維も豊富。健康な食生活に役立つ食材だ

複数の穴が空いているれんこんは、「先行きが見通せる」と縁起を担いでおせち料理や祝いの席のごちそうに欠かせない食材。徳島県は、れんこんの作付面積全国2位、生産量全国3位を誇っている。とりわけ粘土質の土壌で育てられた「鳴門れんこん」は色が白く、良質なれんこんとして関西方面で人気だ。寒さが厳しくなったこの時期、れんこんは旬を迎えている。そこでこだわりの栽培方法を守り続ける人、付加価値の高い加工品を生み出している人を訪ねて、鳴門れんこんに込めた想いを探った。

こだわりの栽培方法を守り続ける人
粘土質の土壌が育む極上の鳴門れんこん 仲須農園
葉が枯れ、収穫期を迎えたれんこん畑をバックに微笑む仲須夫妻。之法さんへとバトンを渡したが、70歳を超えた今も元気に作業を続けている

鳴門市でれんこん栽培が本格的に始まったのは、1946年(昭和21)の昭和南海地震発生以降。市の沿岸地域の水田が塩害に見舞われたため、稲作が困難になった。そこで先人たちが着目したのがれんこん。れんこんは塩害に強いことから、転作する農家が相次いだ。れんこん専業の「仲須農園」の仲須真理さんは、父親が始めたれんこん栽培を夫の清さんとともに受け継いだ。「鳴門れんこんの栽培は体力勝負です」と真理さん。

れんこんの収穫といえば、水圧掘り(水掘り)を行う地域が多い。だが鳴門市内の圃場(ほじょう)の多くは、昔ながらの熊手掘り(手掘り)が行われている。というのも、鳴門れんこんが育つ土壌は肥沃な粘土質。高圧の水をかけても、土を取り払うのが難しいのだ。

収穫前には圃場の水を抜き、ショベルカーで表面の土を取り除く。長男の之法(ゆきのり)さんらは、1本1本、熊手を使って傷をつけないように丁寧に掘り出していく。粘土質の土壌からほんの少し顔を覗かせたれんこんの「芽」を頼りに、熊手を入れる場所を見極めている。熊手を入れる場所を間違えれば、れんこんに傷が付いてしまう。粘土に足を取られながらの過酷な作業を慎重に進めていく。「大変ですが、粘土質の土壌で育つれんこんは、圧力に負けまいと身が引き締まるのです。鳴門れんこんの価値はこの粘土が生み出しているんです」。収穫したれんこんはきれいに土を洗い流して、箱に詰める。これらもすべて手作業だ。

増えていく圃場に対して力となった家族の存在

れんこんの旬は晩秋から冬にかけて。だが収穫は初夏の約1カ月を除いて、ほぼ一年中行われる。3月頃に種れんこんを植え付け、それが収穫できるのが8月半ば。この時期にとれたものは「新れんこん」と呼ばれ、瑞々しくあっさりとした食感が持ち味だ。その後、圃場で成長させながら順次掘っていき、前年に植え付けたれんこんの収穫が終わるのは7月初め。すべて掘り切った後の約1カ月だけ、作業が休みとなる。

仲須農園の作付面積は約16ヘクタール(東京ドーム約3.5個分)もある。そのうち3ヘクタールが自園所有で、それ以外は耕作放棄地となった圃場を順次借り受けたことで増えていった。一方で20年ほど前から、長年作業を手伝ってくれていた人たちが、高齢化により作業が困難になってしまうという事態が発生。人手の確保が急務となった。そこで大きな力となってくれたのが、幼稚園児の頃から「れんこんを作る」と宣言していた之法さん。宣言通りに農業大学校卒業後はれんこん農家となり、家業を盛り立てている。

先代の思いを受け継いで次代へとバトンを渡す

れんこんの成長には、台風が大きな脅威となる。強風で茎が倒れてしまうと光合成ができなくなり、成長が止まってしまうためだ。近年、れんこんの成長期である7月頃に台風が来ることが増えている。「一番大事な時期に茎が折れたり、倒れたりして気落ちしたことが何度もあります」と真理さん。幸いなことに、昨年はこの時期に強風の被害を受けなかった。しっかりと育ったれんこんを消費者に届けることができ、一安心している。

苦労の尽きないれんこん栽培だが、これまでやめようと思ったことは一度もないと言う仲須夫妻。「先代がゼロから始めたれんこん栽培。私たちの代で終わらせるわけにはいかないという一心でした」と言い切る。

その視線の先には、仲須農園の大黒柱となった之法さんの姿がある。親から子、そのまた子へ。れんこん農家のバトンはしっかりと引き継がれている。

熊手を使い、粘土質の土壌から傷つけないようにれんこんを掘り出す之法さん。足をしっかりと踏ん張りながらの作業は体への負担も少なくない
「日本の農業を学びたい」という外国人技能実習生たちも、仲須さんの指導を受けて収穫作業に取り組む
仲須農園では、れんこんを掘らない部分を残した「筋掘り」を行う。中央の土を盛り上げた部分には土中にれんこんが残されており、収穫期をずらすことで出荷時期をずらすことができ、端境期もなくすことができる
早朝から中央の大きな水槽につけて大まかに泥を落とし、その後は流れ作業で箱詰めまでがスピーディーに行われる。10時くらいに出荷を終えたら畑へと繰り出す
掘り上げたばかりのれんこんを水洗いし、丁寧に土を落とす。畑仕事だけではなく、こうした出荷までの作業も家族で力を合わせてこなしていく
洗ったれんこんは重さを量って箱に詰めていく。仲須農園のれんこんは、ほとんどが関西圏に運ばれていき、高級れんこんとして人気
夏場、太陽の光を目一杯浴びている蓮の葉。光合成により食用となる地下茎部分に栄養が蓄えられる
規定の長さに満たなかったものは、オリジナルパッケージに入れて地元の産直市場で販売している
デザインとマーケティング生かしたのはそれぞれの得意技 花れんこん
「花れんこん」の看板商品。左が定番、右の「薬膳風味」には鉄分や葉酸などを含んだ木の実・棗(なつめ)を加えている。また味付けには薬膳によく使われている八角もプラス。より健康志向の方に好評だ

フラワーデザイナーとして活躍していた齋藤住子(すみこ)さんは、代々続くれんこん農家に嫁いだ。幸いなことに義父母や夫の理解があり、大好きな花の仕事を続けてきた。ウェディングブーケなど美しい花の世界に没頭していたが、夫を見送ってから、どこか頭の片隅で「このままだと齋藤家とれんこんの関わりがなくなってしまう」と考えるようになった。転機となったのは2013年(平成25)、地元のれんこん農家の女性会から、「6次産業化商品コンクールに手を貸してほしい」と相談を受ける。

住子さんが思いついたのは、れんこんのピクルス。「輪切りにしたれんこんが、花のように愛らしいことに気付いたんです。これを食卓で感じてもらいたいというのが原点」と住子さん。その結果、れんこんピクルスは会長賞を受賞した。この評価に勇気を得た住子さんは、ピクルス作りを事業化しようと考えるようになった。しかし作ることはできても、どう販売していいのか皆目見当がつかない。そこでサポート役を買って出たのが、息子の彰さん。企業の海外進出支援の仕事に就いていた彰さんは、いわばマーケティングのプロ。他のピクルスとの差別化を図るために、贈答にも適した高級品にするという方針を決め、専門機関で加工品の製造技術を学んだ。自宅倉庫を改装してキッチンを整備し、れんこんピクルス「花れんこん」の製造がスタートした。

老若男女に好まれるやさしい味わい

「花れんこん」で使用するのは、収穫から24時間以内の新鮮なれんこんのみ。細すぎるので通常は廃棄されてしまうこともある先端の一節目、柔らかな芽、蓮の実なども余さず使う。れんこんを無駄にしないだけではなく、それぞれの食感や味わいの違いにより、魅力を深く知ってほしいと願ってのことだ。調理方法や味付けにもこだわり抜いた。すべて手作業で皮を剥き、カット。調味液は、和三盆糖を加えた醸造酢に、本枯節でとった出汁をブレンド。やさしい酸味のピクルスに仕上げた。

滑り出しは順風満帆。ANA国際線のビジネスクラス機内食、JR東日本新幹線グランクラスの軽食に採用され、各所で取り扱われるようになった。ほっそりとしたガラス瓶に詰められたピクルスは、クコの実やパプリカの彩りを添えており、目論見通り土産や贈答用として重宝された。売れ行きが伸びるにつれて、切り落とした端や折れたものなど余材も多く出るようになった。それらを「無駄にしたくない」と「れんこんポタージュ」も開発し、販売を開始した。

住子さん(右)と彰さん(左)。加工品の開発により鳴門れんこんの付加価値を高めて、栽培農家を応援したいというのも2人の願い
住子さんお手製のれんこん料理。新しい加工品の開発や「れんこんツーリズム」のおもてなしとして生かしたいと、日々レシピを研究中
土中から顔を覗かせている先端の芽を「頂芽」と呼ぶ。これも無駄なく料理に使う
住子さんは葉も無駄にせず、天日に干してアートの素材として活用している
コロナ禍にも負けず 親子で新たな挑戦へ

コロナ禍で、空港など交通の要所で販売していたピクルスの売り上げは激減。「このままでは事業が継続できない」というところまで追い込まれた齋藤さん親子だが、救世主となったのは「れんこんポタージュ」。価格を抑えていたことから地元の方が購入してくれ、2人を勇気付けてくれた。また「おうち時間」が増えたことでお取り寄せ需要が増加。インターネット注文が売り上げを支えてくれた。さらに追い風となったのは昨年4月に開業した道の駅「くるくる なると」。同施設から鳴門れんこんを使ったコラボ商品の開発を依頼され、れんこんを使った肉餃子を商品化。オープン後にはれんこんの惣菜なども製造している。

今、齋藤さん親子は新たな夢を追いかけている。それは「れんこんツーリズム」の創出。鳴門市のれんこん畑は、コウノトリの飛来地としても知られる。「それだけではありません。開花や葉の成長など、時々の美しさを見せるれんこん畑を散策し、れんこん料理を味わい、れんこんの葉を使ったアートを体験する。そんな楽しみを旅行者に提案したい」と瞳を輝かせる住子さん。現在はより安心できる製品を作るために、クリーンルームの整備も進めており、アフターコロナに向けて先の見通しは明るい。

家族の力を結集して、鳴門れんこんの可能性を追い求める人たち。その前向きな取り組みが、鳴門れんこんの未来を拓いていく。

おこわのおむすびや弁当など、手軽に食べられるれんこんグルメも道の駅で販売予定だ
道の駅のオープンに合わせて開発した加工品。「肉餃子」はシャキシャキとしたれんこんの食感がジューシーなあんのアクセントに。左は温めるだけの「れんこんポタージュ」
鳴門ピクルス 花れんこん
住所 徳島県鳴門市大津町段関字東の越106
電話番号 088-624-8358
URL http://www.hana-renkon.com
食の宝庫・鳴門を知るなら「くるくる なると」へ

「食のテーマパーク」を謳い文句にした道の駅「くるくる なると」は、鳴門鯛や鳴門金時、鳴門わかめなど多種多様な鳴門名物に出会える施設。「それら一つひとつにスポットを当てて、ここにしかない加工品作りにも力を入れています」と話すのは、駅長の廣中将太さん。他の名物に比べて、やや地味なイメージのあるれんこんだが、スナックから飯の友までさまざまな加工品を用意。またレストランでは、れんこんをたっぷり使ったメニューを提供している。「この道の駅がれんこんの魅力に気づく場所になればうれしい」と願う廣中さんだ。

道の駅 くるくる なると
住所 徳島県鳴門市大津町備前島字蟹田の越338-1
電話番号 088-685-9696
営業時間 9:00〜17:00
定休日 無休
駐車場 有り
URL https://www.kurukurunaruto.com

撮影のためにマスクを外しています