きっかけは2014年（平成26）の夏、地元の女性たちによる山城町婦人会に飛び込んできた一つの依頼だった。それは、各地の婦人会が集まり阿波踊りや民謡などさまざまな芸事を披露するイベントでの出し物の依頼。「山城町のためにも他の人がやっていないようなことをしたい」と当時の婦人会の会長から相談された森岡照代さんは、同じ集落に住む女性に声をかけ、きらびやかなステージダンスをしようと提案。実はこの時、ほとんどのメンバーが「地域のためなら、しょうことない」と思っていたという。

「幅広い年齢に愛される曲を」と用意したのは、昭和の名曲「東京ブギウギ」。レトロな衣装に身を包み、華麗に踊る姿が、県内各地から集まった観客1，400人の好評を得た。メンバーもまた、会場中に響く拍手と「元気が出た！」というたくさんの声、輝くスポットライトの虜になった。そこでダンスを踊る7名（現在は8名）のメンバーに加え、監督と振付師を兼任してダンス指導を行う森岡さんは、自分たちの踊りで山城町と三好市を元気にすることができるならと一致団結。2015年（平成27）、「やましろAKB」が本格始動した。

地域を盛り上げるために結成したため、活動の中心はイベント出演。「本気でやらないと、地域の応援にならない」と毎週、山城公民館に集まりダンスレッスンを行い、曲目に合わせて衣装を準備する。次第に「カッコいい！」と評判になり、出演依頼も増えてきた。「わたしたちの一番のPRポイントは、どんな依頼でも断らないことなんです」と全員が顔を見合わせて笑う。最初は、「そんなことをせんでも…」と言っていた家族も応援してくれるようになり、いつしか年間20以上ものイベントに呼ばれるようになっていった。

「みんなに喜んでもらうためにやっているからこそ、本格的なダンスを見せなければ」というのが監督を始めとする全員の考えだという「やましろAKB」。「イベントの前はまるで高校の部活かと思うほど、必死で練習するんですよ」と笑う。少しでも美しくと10㎏ほどのダイエットに成功したメンバーもいるという。

2020年（令和2）以降は、コロナ禍の影響により、必死で練習をしてもイベントが突如中止となることも多かったというが、それでも集まって練習することをやめようという声は一度も出なかったそうだ。発表の場は減ったが「こんな時こそ地域のみんなを元気づけたい」とYouTubeやインスタグラムをスタート。コロナの収束を願う「アマビエダンス」を皮切りに、YouTubeでダンス動画を継続的に公開した。

昨年の初めには、全国放送のテレビ番組にも出演した。昨夏からは、少しずつ日常が戻ってきたこともあり、「HESSOKKOフェス2022」や「やましろ夏まつり」を皮切りに、11月には「やましろ狸まつり」や「池田冬のオブジェ2022」のオープニングイベントなどひっぱりだこ。再開されたイベントでは「会いたかった！」と声がかかることもあるそうで「地域を応援するはずが、私たちのほうが応援され励まされることも多い」とリーダーの小谷さんは笑う。

そんな姿は、まさにコロナ禍で暗くなりがちな地域を明るくするアイドル。「徳島でも高松でも、これからも呼ばれれば、どこにだって行きますよ！しょうことなしに！！（笑）」。山間の町に、身も心も明るくキレイなアイドルたちの笑い声が響き渡る。