善通寺は弘法大師の生家跡に建立された誕生院(西院)と、伽藍(東院)の二院から構成されている。真言宗善通寺派の総本山であり、約4万5,000㎡の寺域にはたくさんの見所がある。「善通寺は、国の重要文化財や登録有形文化財を多く有した歴史的な施設でもあります。香川県を訪れた人が、観光の途中に足を運ばれることも珍しくありません」と話すのは、善通寺の広報を担当する中嶋孝謙さん。
誕生院では、仁王門と御影堂(大師堂)、護摩(ごま)堂、ほやけ地蔵堂など多数が国の登録有形文化財となっている。弘法大師が生まれた佐伯家の邸宅跡に位置する現在の御影堂は、1831年(天保2)に建立された。奥殿の厨子(ずし)内には秘仏・瞬目大師(めひきだいし)像が祀られている。また厨子前には木造の弘法大師像と四天王像、幼少期の弘法大師の姿を現した稚児大師像、弘法大師の父・佐伯善通(よしみち)、母・玉寄御前(たまよりごぜん)の像も安置されている。
「御影堂の地下には、約100mの通路があり、これを巡る『戒壇めぐり』は、誰もができる精神修養の道場。真っ暗な通路の壁には仏様が描かれています」と中嶋さん。それぞれの仏様と縁を結んだ後に行き着くのは、『戒壇めぐり』の中心にある玉寄御前の部屋があったとされる場所の真下。暗闇で煩悩を打ち払い、あるいは自分自身を見つめ直しながら弘法大師の原点ともいえる場所へ向かうことで、すっきりと晴れやかな気持ちになる人も多いそうだ。
秘仏・瞬目大師像の正式なご開帳は50年に一度で、「弘法大師御誕生1250年祭」では特別にご開帳される。この像は弘法大師が唐に渡る際、別れを嘆く玉寄御前のために、月明かりで池の水面に映った自らの姿を描き残したものと伝えられている。鎌倉時代に土御門(つちみかど)天皇が叡覧(えいらん)された際、像が瞬きをしたことから、この名で呼ばれるようになったという逸話も残されている。