大洲市の旧城下町にあたる肱南(こうなん)地区は、戦災を逃れたことから藩政時代の町割り※が残っており、風情ある建造物も多い。特に観光客に人気なのは、1966年(昭和41)に放映されたドラマ『おはなはん』のロケ地になった「おはなはん通り」。通りのある志保(しほ)町や比地(ひじ)町界隈には、江戸から昭和初期に建てられた武家屋敷や町家が集中しており、タイムスリップしたような気分を味わうことができる。かつてはどの建物にも人が住んでおり、暮らしの息遣いが感じられることも魅力だった。
ところが建物の老朽化や所有者の高齢化などを理由に空き家が増え、取り壊しを余儀なくされる建物も出てきた。もちろん大洲市もただ手をこまねいていたわけではなく、1999年(平成11)の「おはなはん通り」の町並み景観保全を皮切りに、景観条例の制定などに取り組んだ。しかし、状況を一気に好転させることは難しく、2017年(平成29)には、複数の大型の建物が一気に取り壊されてしまう。これに危機感を募らせたのが、大洲市の若者を中心に結成されたNPO法人「YATSUGI(やつぎ)」。
「所有者の方に話を伺うと、決して建物を壊したいわけではないんです。維持管理の負担の大きさや自身が大洲市を離れているなどの事情から、やむなく手放すという選択をしている方が多かった」と話すのは、「YATSUGI」のメンバーで一般社団法人キタ・マネジメントの井上陽祐さん。最初は無住の建物の清掃や空気の入れ替え、障子の張り替えなどにより建物の命をつなごうとしたが、これはあくまでも延命措置。次世代に受け継ぐためには建物を活用しなければならない。飲食店や雑貨店、宿など活用法は色々と想定されるが、まずはこの地で商売が成り立つことを証明しなければと考えた。そこで計画したのが「城下(しろした)のMACHIBITO(まちびと)」と題したイベントの開催。2017年から3年間実施し、最終年には18棟の町家を活用。100以上の出店者で賑わった。着物などレトロファッションをまとった出店者や来場者も多く、双方が古い建物の魅力を存分に味わった。
※町割り:城郭を中心に構成された都市計画のこと。近世は武家地、町人地、寺社地に分かれ、街路が整備されていた。