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25周年を迎えたひろめ市場を訪ねて(高知県高知市) 25周年を迎えたひろめ市場を訪ねて(高知県高知市)
市場内で一番広い飲食スペース「お城下広場」。「ひろめ市場らしさを味わうならここ!」と地元民が太鼓判

高知市の中心部、東西に伸びる「帯屋町2丁目商店街」と南北に伸びる「大橋通り商店街」が交差する角にある「ひろめ市場」は、50店舗以上が入居する集合屋台村。江戸時代、この場所に土佐藩家老の深尾弘人蕃顕(ふかおひろめしげあき)の屋敷があったことから、その名が付けられた。

屋台村とはいえ、飲食店だけではなく土産物屋や衣料店、魚屋なども並んでおり、朝から夜まで大勢の人で賑わいをみせている。その人気を支えているのは、地元の人だけではない。高知の食文化やお国言葉に触れられる場所として多くの観光客も足を運んでおり、県内を代表する観光スポットにもなっている。

酒類を提供する店が多いことから、コロナ禍には客足が止まり、臨時休館も余儀なくされた。しかし今春からは、かつての活気を取り戻している。そこで、開設から25周年を迎えた「ひろめ市場」を訪ねて、多くの人に愛される理由を探った。

鮮魚店や精肉店、総菜店などが並ぶ「龍馬通り」。生鮮品の県外発送も受け付けており、高知の味を自宅で味わいたい人に好評
客足が遠のいた街なかに人を惹き付ける場所を

明石海峡大橋が開通し、人々が四国への誘客拡大に期待を寄せた1998年(平成10)、「ひろめ市場」は10月に開設された。発案者は、帯屋町2丁目商店街振興組合の当時の理事長。「景気悪化に伴って商店街の客足が減ってきており、何とか改善しようと考えたのが、食のテーマパーク(集合屋台村)構想だったのです」と説明するのは、「ひろめ市場」を運営する有限会社ひろめカンパニーの代表取締役を務める西岡剛(つよし)さん。

「ひろめ市場」が開設される前、約1,200坪の敷地は、ホテル建設などの計画が頓挫し、150台収容の有料駐車場として活用されていた。300年以上の歴史を持つ「土佐の日曜市」が開かれる追手筋や高知城はすぐそばにあり、官公庁も徒歩圏内と立地は申し分ない。そこで理事長らは試行的に、よさこい祭りの開催期間中に駐車場を休業してフードフェスを開催。手応えを得たことから、「ひろめ市場」の開設計画を具体的に進め始めた。

建物は3階建てで、飲食店テナントが入るのは1階のみ。2、3階は有料駐車場とすることが決まった。

並行して入居者を募集したところ、飲食店、物販店からの想定を上回る応募があった。その中から、提供する献立や商品に高知らしさのある店舗が選ばれた。

広さだけでいえば、店舗はその倍の数でも入居できる。だが、休憩や食事をするスペースを十分に用意するために店舗数を抑えたのだ。「結果的にはこの英断が、ひろめ市場を成功に導いたといえます」と西岡さん。見知らぬ同士が8人掛けの大テーブルで相席となり、会話を交わしながら高知の食を楽しむという斬新な場は、好奇心旺盛な地元民を惹き付け、初日から大盛況となった。

お酒を飲む場というイメージが強いが、コーヒーやスイーツを味わえる店もあるので、思い思いの過ごし方を楽しみたい
パンフレットの配布や案内を行っている総合案内所
観光客の増加に伴い増えていく来場者 観光客の増加に伴い増えていく来場者

客足はしばらく好調をキープしていたが、2000年(平成12)、市内にフードコートを備えた大型ショッピングセンターができ、人々の興味がそちらに移ってしまう。回復の兆しが見えたのは、2004年(平成16)。炎を上げて「藁焼き鰹たたき」を調理する「明神(みょうじん)食品(後に明神丸に社名変更)」が出店し、徐々に観光客が増え始めた。

「私が入社した2006年(平成18)で、日曜日の来場者が600人ぐらいだったと記憶しています」とひろめカンパニー施設管理部長の百田(ももた)昭夫さんは話す。明神丸に続いて、屋台餃子が評判の「ひろめで安兵衛」も出店し、この頃から国内各地だけではなく、訪日外国人の姿も目立つようになった。

さらに観光客を呼び込んだのは、2010年(平成22)1月から放送されたNHKの大河ドラマ『龍馬伝』。このドラマは、日本全国に高知ブームを巻き起こす。同年の高知県全体の観光客数や観光総消費額は、前年比で30%以上増え、「ひろめ市場」もその恩恵にあずかった。人が来れば話題も生まれる。テレビや雑誌などの取材も激増し、その後も来場者数は増え続けた。賑わいに惹かれるように地元の方の客足も戻り、コロナ禍前には年間約300万人が来場する施設となっていた。

高知銘菓の芋けんぴなどを扱う店。高く積み上げた芋けんぴタワーが目を惹き、記念撮影をする人も多いそう
迫力満点の藁焼きの様子が見られる「明神丸」
市場内では、古くからある横丁を巡っているような気分が味わえる
利用者にもお店にもうれしいシステム

「ひろめ市場」の一部の飲食店は、店内に客席を備えているが、多くの店は料理や飲み物を販売するのみ。客はあちらこちらにあるテーブル席で食事をする。メリットは好きなものを好きな店で買い、持ち寄って食べられること。例えば、高知名物である鰹のたたきを扱っている店は20店以上もあるが、どこを選ぶかもこの市場の楽しみの一つだ。

しかし、食べ終わった後の食器を購入店に返しに行くとなると、これは思いの外手間となる。そこで活躍しているのが「食器センター」だ。約40人のスタッフが交代制で場内を巡回し、空いた食器を素早く下げる。集めた食器は専用の洗い場で洗浄し、各店舗へと返却される。店は、返ってきた食器の数に応じて支払いをする仕組みだ。

この仕組みは開設時にすでに確立しており、客だけではなく、店側からも「ありがたい」という声が上がっている。「うちの店は約4坪で、厨房に入れるのは2、3人。洗い物に人員を割くのは難しい」と「ひろめの鰻処まん(野村水産)」店主の野村侑加(ゆか)さんは話す。洗い物を「食器センター」に任せることで、調理や接客に専念できるのだ。

もう一つ特徴的なのは、店内に客席がある店舗によっては、飲み物を注文すれば料理の持ち込みができる店舗があること。出前さながらに市場内の他店から料理を取り寄せる強者もいるそうだが、「市場全体で盛り上がろう」という大らかさが、いかにも高知らしい。

ずらりと並んだお総菜から好きなものを選べる店。鯖寿司や田舎寿司などご飯ものもいろいろ
ニンニクなど薬味を盛り付けた鰹のたたきはダントツの人気。グループなら食べ比べもおすすめ
テキパキと使用済みの食器を片付ける「食器センター」のスタッフは、縁の下の力持ち的な存在
肉料理なら、幻の和牛と呼ばれる土佐あかうしが味わえる「プティ・ヴェール」
「バラエティ豊かな店が揃っているので、2度3度と足を運んでほしい」と話すひろめカンパニーの浜田泰伸企画営業部長
徹底した感染症対策で安心して楽しめる場に

見知らぬ同士が意気投合し、会話を交わすのが「ひろめ市場」の醍醐味。だが、コロナ禍ではそうした楽しみ方は一切できなくなった。「ひろめ市場からクラスターを出してはならない」と、8人掛けテーブルは定員を半分に減らしてソーシャルディスタンスを確保。3年間で3回の長期休業にも踏み切った。運営とテナントが一丸となり、マスクをしていない客には着用を促した。これに対して、「ひろめ市場は厳しすぎる」という不満の声も聞こえてきたそうだが、これも高知の大切な文化「おきゃく(酒宴)」を守るため。「コロナ禍で生まれた『お酒を飲むこと=悪いこと』というような風潮に対して、きちんと感染症対策をすれば楽しむことは悪いことではないと伝えたかったのです」と西岡さんは振り返る。不特定多数が出入りし、飲食をする施設でありながら、「ひろめ市場」からクラスターが出ることはなかった。

行動制限がなくなった今年のゴールデンウイーク、「ひろめ市場」は朝から満席状態。5月5日の来場者数は2万人に上り、場内のあちらこちらで「日常」を満喫する人の笑顔が見られた。「私たち管理スタッフも、店舗のスタッフさんも、忙しさに右往左往しながらも『これこそが、ひろめじゃき!』とうれしい気持ちになりました」と顔をほころばせる百田さんだ。

「ひろめ」で出会える高知のソウルフード

コロナ禍では、やむを得ず閉店する飲食店もあったが、一方で出店をした店もある。30年以上前から「土佐の日曜市」で人気の「日曜市のいも天(有限会社大平商店)」は、昨年11月にひろめ市場店をオープン。アフターコロナに向けて、「高知を元気づける場所になれば」と出店を決めた。店長の矢原道貴(やはらみちたか)さんは、「日曜市は食べ歩きが基本。ひろめ市場店は、ドリンクと一緒にいも天を食べられるのが売り。いも天をトッピングしたアイスクリームなどさまざまなメニューがあり、テラス席でゆっくりと味わっていただくことができます」と話す。

いも天は、ほっくりとした食感の「土佐紅」というさつま芋に、独自レシピの衣をかけて、揚げたてを提供する。やさしい甘みと食感は、老若男女から人気。高知に帰省したオールドファンが、「日曜日じゃないきに、食べられんがと思うちょった!」とうれしそうに買い込むこともある。また下校途中の学生が寄り道し、熱々を頬張る姿もほほ笑ましい。「多くの人が訪れるひろめに店を出して、本当に良かったと思っています」と矢原店長は頷く。

いも天だけではなく、ドリンクやおつまみ系のメニューも取り揃えた「日曜市のいも天」
いも天は1袋に4〜6個入って400円、いも天アイスは600円。土産用には、18個以上が入った箱入り1,700円も好評
注文を受けてから揚げるため熱々が提供される
「近隣には学校もあり、学生さんが立ち寄ることも多いですよ」と話す矢原店長
焼きたてが香ばしい高知名物を味わって

「ひろめ市場」は、エリアごとに「龍馬通り」「お城下広場」などの呼び名が付けられている。「自由広場」で何とも言えない香ばしい香りを漂わせているのは、「ひろめの鰻処まん」。店主の野村さんは無類の鰻好きで、「奈半利(なはり)川や四万十川など、清流に恵まれた高知県は養鰻(ようまん)(鰻の養殖)が盛ん。それなのに、ひろめに鰻屋がないのは残念」と思っていた。「それなら自分が店を出そう」と決意し、4年前に開業した。

「使っているのは、奈半利川の河口で取れたシラスウナギを育てたもの。それも育て始めて1年以内の新仔(しんこ)にこだわっています」と野村さん。表面はパリッとしているが、身はふわふわとした食感。あっさりと仕上げたタレも絶妙で、ペロリと食べられる。とはいえ鰻料理は価格も高め。気軽に食べてほしいと鰻串(1,100円)や、ミニサイズ鰻丼(1,300円)などのメニューも用意している。

「私はひろめの雰囲気が大好き。店主同士も交流があり、みんなで盛り上げようという一体感が魅力なんです」と野村さん。

「コロナ禍では店主同士が互いの店を利用し、支え合ってきました」と野村さんは振り返る
秘伝のタレで香ばしく焼き上げる蒲焼き
1本丸ごと入った鰻重は3,400円
原点回帰で人の流れを生み出す場へ

もともと帯屋町2丁目商店街の賑わいを取り戻すことが、「ひろめ市場」開設の目的。そのため商店街に面した正面入り口にはフリースペース「よさこい広場」を設けており、県内の市町村や学校を招いたイベントを行っている。「追手筋側から入ったお客さまが、ひろめを楽しんだ後、イベントに参加し商店街へと足を伸ばす。そんな人の流れを生み出す場として、知恵をしぼりたい」と話す西岡さん。「ひろめ市場」は高知の魅力をぎゅっと凝縮した場所なのだ。

帯屋町2丁目商店街側の入り口はイベントなどが行われる「よさこい広場」。商店街への人の流れを生み出す仕掛け

お問い合わせ

ひろめ市場
住所 高知県高知市帯屋町2-3-1
電話番号 088-822-5287
営業時間・休み 店舗により異なる
駐車場 あり(有料)
URL https://hirome.co.jp