柚香の果実の大きさは、小ぶりな温州みかんほど。色合いは柚子に似ているが、表面は滑らかだ。上勝町では果実が色付いてくる10月下旬頃から収穫期を迎え、11月中旬頃まで収穫作業が行われる。「かつてはどの家庭も庭先や柑橘畑の片隅に柚香を植えていました。この辺りでは江戸時代から柚香を使っていたようです」と話すのは柑橘農家で、JA東とくしま 香酸柑橘部会柚香リーダーの山部倍生(やまべますお)さん。かつて山部家にも樹齢100年になる古樹があった。ところが1981年(昭和56)冬、徳島県山間部は大寒波に見舞われ、柑橘は甚大な被害を受ける。柚香の木も枯死を免れず、柚香畑は半減。残った柚香は、ひっそりと受け継がれていった。
柚香は枝にトゲがなく、収穫がしやすい。また酸味と甘みのバランスが絶妙で、地元では「香りの柚子、酸味の酢橘、味の柚香」と言われるほど味わいの良さは格別。さらには果肉がみずみずしく、たっぷりと果汁が搾れる。生産者からすれば魅力の多い果樹に思えるが、隔年結果(花や果実の多い成り年と、少ない不成り年を繰り返すこと[参考グラフ])が激しいという問題があった。不成り年の収穫量はグンと減ってしまうのだ。加えて柚子や酢橘に比べ知名度が低く生産量も少ない柚香は、生果玉として市場に出すことが難しく、搾汁用では価格が抑えられてしまう。こうした背景もあり、栽培に力を入れる生産者は少なく、柚香は「幻の果実」となってしまったというわけだ。