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新たな魅力を秘めたチョコレートの世界(香川県三豊市・高知県日高村) 新たな魅力を秘めたチョコレートの世界(香川県三豊市・高知県日高村)
産地から届いたカカオ豆。ここから、割れたり欠けたりしているカカオ豆を手作業で取り除く。カカオの風味を最大限引き出すためだ

チョコレートは、子どもから大人まで愛されるお菓子の一つ。近年では原料のカカオに含まれる成分にさまざまな健康効果があることが分かっている。またドリンクやケーキなどのアレンジも豊富で、抹茶やフルーツなど他の素材と組み合わせるなど味わい方は多彩だ。

そんなチョコレートの世界に、新たなムーブメントが起こっている。クラフトチョコレートやBean to Bar(ビーントゥバー)の登場により、個性的なチョコレートが増えているのだ。中には地元の素材にこだわり、その土地ならではの味わいを提供しているつくり手もいる。

そこで香川県と高知県で、オリジナルチョコレートを提供する人に会い、製品へのこだわりとそこに込めた想いをうかがった。

※チョコレートの用語解説や製造工程についてはこちらをご参照ください。

単一産地のカカオ豆のみで作る「シングルオリジン」にこだわった「RACATI」(ラカティ)のハイカカオチョコレート
株式会社エスエスが生み出したのは、濃厚なクーベルチュールチョコレートに高知県産生姜や地酒をマッチングさせた個性的な商品
チョコレートに目をつけ多様な人材に活躍の場を [RACATI(ラカティ)(香川県三豊市)]

香川県三豊市にある株式会社モクラスは、建材や家具、内装材など多種多様な木材を加工する会社。1950年(昭和25)設立の老舗企業で、近年は家庭用やアウトドア用のサウナ関連商品も手がけている。2021年(令和3)4月に開業したショコラトリー「RACATI」は、同社にとって未知の分野への挑戦。その背景には、「多様な人材が活躍できる場をつくりたい」という経営陣の想いがあった。「それを叶えたのが私なんです」と話すのは、店長でクラフトマン(チョコレート専門の菓子職人)の齊賀伸子(さいがのぶこ)さん。仁尾町出身の齊賀さんは、東京のカフェでケーキ作りを担当。飲食業や製菓の面白さに目覚めて、フランスへと渡り、製菓学校でチョコレートのデコレーション技術を学んだ。チョコレートのコースを選んだのは、彼女自身、チョコレートが好きだったからというシンプルな理由だ。

その後、10年ほど東京で子育てに専念していたが、2013年(平成25)に家族で仁尾町へUターン。生活が落ち着いた2019年(令和元)に飲食業界へと復帰した。その際に出会ったのがモクラスの矢野太一社長。矢野さんは数年前から日本でもブームになっていたBean to Barに目をつけていた。「でも矢野社長は、単にブームに乗っかろうとしたわけではないんですよ」と齊賀さん。かねてよりモクラスでは「障がいのある方が活躍できる場をつくりたい」と考えていたが、木材加工機器の扱いには危険が伴う。大きな音や振動があり、つらさを感じる障がい者も少なくない。「何か良い策はないか」と考えた時、広島県尾道市で視察したBean to Barで障がい者の方が生き生きと働く姿を目にした。以来、その実現を模索しており、伴走してくれる人材として齊賀さんに白羽の矢を立てたのだ。

本格的に学び直し着々と進めた開業準備

チョコレート好きの齊賀さんにとってはうれしい話だったが、フランスで学んだのは20年も前のこと。「正直言って素人に毛が生えた程度です。一から勉強しなくては」と、世界各地からカカオ豆を取り寄せ、ローストし、粗挽きしてカカオニブを選り分ける。さらに磨砕してペースト状のカカオマスへと仕上げる。ここまでの工程でようやくチョコレート原料となるのだ。その工程を何度も繰り返す毎日は、大変ではあったが楽しかった。同時期に高松市内で「コーヒーとカカオ」をテーマにしたキャリアアップスクールが開校され、師に出会うことができた。

研究開始から1年、ようやく味が決まり、パッケージなどの構想が具現化した。そこで、和三盆など地元の食材の活用、さらに障がい者ら多様な人材が活躍できる場づくりとしてBean to Barを応援してほしいとの想いで、30万円を募るクラウドファンディングを立ち上げた。うれしいことに開始から1カ月で約100万円集まり目標を達成した。「金額はもちろんですが、145人の方が支援してくれた。これは大きな励みとなりました」と齊賀さんは顔をほころばせる。

「新しい商品作りに挑戦するのが楽しい」と話す齊賀さん
カカオの産地や量の異なるチョコレート、10種類前後が店頭に並ぶ。試食をして好みの味を選べるのもうれしい
観光客に、地元客に働く人にも「力」を

2021年4月、「RACATI」をオープンさせた。店名は逆から読むと「TICARA(チカラ)」。チョコレートの力、人の力、想いの力。さまざまな力が込められた店であることを表現した造語だ。Bean to Barの商品は、メーカーが作るチョコレートと違い値段は高い。看板商品の「三豊アソートチョコレート」は45gで2,500円。この価格設定には不安もあったが、のんびり、ゆっくりファンを増やしていければと考えていた齊賀さん。だが、店は開店当初から大賑わい。絶景スポットとして人気の父母ヶ浜(ちちぶがはま)や天空の鳥居・高屋神社を訪れた人が帰りに立ち寄り、インスタグラムで発信したことで人気に火がついたのだ。また全ての商品には和三盆が入っており、産地ごとの味わいを大切にしたシングルオリジンにもこだわった。加えて父母ヶ浜の塩、香川本鷹(唐辛子)、高瀬茶、瀬戸内レモン、三豊産びわ、はちみつなどのご当地素材を使ったチョコレートを次々と開発したことも、「香川県のお土産にぴったり」と人気に拍車をかけた。

一方で地元客にも気軽に利用してほしいと、チョコ菓子やコーヒー、サンドイッチが味わえるカフェスペースには自由に使用できるコンセントを設置し、コワーキングスペースとしての機能をもたせた。モクラスの造作家具や内装材を使用した空間は、木の風合いが心地よい。

当初の目的であった障がい者雇用については、その前段階として、風選後のカカオニブから、取り残した皮や胚芽を除く手作業を障がい者就労施設に委託。少しずつチョコレート製造になじんでもらおうと考えている。

チャレンジ精神を持ち続ける「RACATI」は、近い将来、地域に欠かせない「力」となるに違いない。

RACATIのチョコでヴィーガン生キャラメル[ハラシモベース(香川県三豊市)]

 三豊市の原下集落で農家の4代目として、農業をしながら「CHOU(シュー)」のブランド名でアレルギー対応のキャラメルを作っている細川貴司さん。「市販のチョコレートのほとんどに乳製品が使われており、アレルギーをもつ人は口にできません。私の子もそうなので、何とかして食べさせてあげたいと思ったのがきっかけ」。そこで開発したのが、「RACATI」のカカオマスを使ったチョコレート生キャラメル。「多くの人に届けたい」と話す細川さんだ。

ハラシモベース(HARASHIMO BASE)
住所 香川県三豊市高瀬町上麻1452-1
電話番号 090-1001-8757
URL https://chou.harashimobase.com
こだわりの一つが、江戸時代から香川県の名産品である和三盆を使うこと。まろやかで繊細な味が、カカオと相性が良い
看板商品の「三豊アソートチョコレート」は、一口サイズのチョコレートが5種類。それぞれ香川県の素材を使っている
店頭にはチョコレートをアレンジしたパウンドケーキなどの焼き菓子も並んでおり、カフェスペースで味わうことが可能
ガーナカカオのソフトクリームや和三盆ラムを使ったチョコレートムースなど、メニューはどんどん増えている
天井が高く開放感いっぱいのカフェスペース。「気兼ねなく、ゆっくり過ごしてもらいたい」と齊賀さん
RACATI
住所 香川県三豊市詫間町詫間6781-1
電話番号 0875-83-6652
営業時間 10:00〜18:00
定休日 水曜日
駐車場 あり
URL https://racati.com ※オンラインショップで購入可
チョコっと豆知識 チョコレートの用語解説

◆クラフトチョコレート・Bean to Bar

どちらもカカオ豆から製品を一貫して作るが、後者はより小規模な工房で作る場合を指すことが多い

◆シングルオリジン

カカオ豆の産地を単一にした製品

◆クーベルチュールチョコレート

総カカオ分35%以上などの国際規格をクリアした製菓用チョコレート

◆ショコラトリー(フランス語)

チョコレート専門店

◆ショコラティエ(フランス語)・クラフトマン(英語)

チョコレート専門の菓子職人

◆カカオニブ

粗く砕いたカカオ豆から皮や胚芽を取り除いた胚乳部。これに含まれるテオブロミンは集中力や思考力、記憶力を向上させる効果があるといわれている

◆カカオマス

カカオニブをすり潰してペースト状にしたもの

チョコレートの製造工程

❶選定

生産地で収穫・発酵させたカカオ豆から割れや欠けのあるものを手作業で取り除く

❷焙煎

豆の状態を見極めながら温度を調整し、丁寧に焙煎する

❸粉砕・風選

焙煎したカカオ豆を粗く砕き、風をあてて皮を吹き飛ばし、胚芽を取り除いてカカオニブにする

❹微細化

カカオニブを細かくすり潰して、ペースト状のカカオマスにする

❺混合

砂糖を加えてさらに細かくすり潰す

❻精錬(コンチング)

72時間以上機械にかけて練り上げ、滑らかな状態にする

❼調温(テンパリング)

チョコレートの温度を調整し、カカオバターを結晶化させて安定性を高める

❽成型と包装

型に流して冷やし固め、遮光のアルミ袋に入れて包装する

地のものを活用した付加価値の高いものづくり[生姜の國のチョコレート(高知県日高村)]

高知県日高村に本社を置く株式会社エスエスは、地域の資源を生かした付加価値の高いものづくりに取り組む企業。1995年(平成7)の設立以来、オリジナル商品の開発に取り組んできた。その多くは、元商社パーソンの坂本守正社長のアイデアから生まれている。「高知は森林資源が豊富。そこで独自に生み出したのが、間伐材や小径木を活用した遊具、木製サイン、土木資材など。また土木工事の分野では技術開発を行い、特許を取得しています」と坂本社長。このほか、ヒノキを使った猫トイレ用の砂、宗田節のペット用おやつは、日高村やいの町のふるさと納税返礼品としても好評だ。またライフワークとして、子どもたちの野外教育や環境教育にも長年取り組んでいる。

チョコレート事業に参入したのは2013年(平成25)。友人の実業家から海外土産のチョコレートをもらったことがきっかけとなった。「口溶けの良さや、甘みと苦味のバランスが絶妙で感心していたら『坂本君はものづくりが得意なんだから、おいしいチョコレートを作ってみたら?』と勧められたんです」。友人はすぐに岡山県にあるクーベルチュールチョコレートの製造元を紹介してくれた。その最高級のチョコレートに、高知ならではの食材を組み合わせたいと坂本さんが選んだのは、生産量全国1位の生姜。また蒜山のジャージーミルクを使うことで、リッチな味わいに仕上げたいという希望を抱いた。しかしそれは決して簡単なことではなかった。クーベルチュールチョコレートの濃厚な味わいと主張の強い生姜の風味がぶつかり合ってしまうのだ。多くの関係者らを巻き込み、試行錯誤すること1年、2014年(平成26)に「生姜の國のチョコレート」が完成した。使用する生姜は高知県内でパウダーに加工されたもの。口に含んだ瞬間はまろやかなチョコレートの風味が広がるが、いざ溶け始めると、生姜特有の辛味がガツンときてインパクトは絶大。食べ終わったら、体がポカポカと温まる。個性的なチョコレートは、口コミで人気が広がっていった。

「地域の資源を活用した付加価値の高いものづくり」では、「アイデアを形にするプロセスが楽しい」と坂本社長
「間伐材を有効活用したい」と生み出したペットケア商品を、さらに進化させたトイレ用凝固剤「フォレッタブル」。ヒノキや生姜の残渣で悪臭をカットし、使用後は燃やすことができる。災害時に重宝するアイデア商品だ
繊維が少なく、まろやかな味わいが特徴の高知県産生姜。「生姜の國のチョコレート」は、県内の加工業者に依頼してパウダー状にし、チョコレート原料として使用
酒蔵全県制覇や新商品の開発が今後の目標

チョコレート事業を始めて3年目、坂本さんは日本酒好きが多い高知県らしい、酒蔵とコラボした大人のトリュフを開発。酒を砂糖とチョコレートで包むのではなく、生地に酒を練りこんでいるのが特徴だ。

無手無冠(むてむか)の栗焼酎「ダバダ火振」、高知酒造の特別醸造原酒「仁淀川」、酔鯨(すいげい)酒造の純米大吟醸「万」をしのばせたトリュフは、カゲロウの羽と称される土佐和紙典具帖紙で包んで高級感を演出した。「酒蔵とのコラボシリーズは大変好評。日本各地の酒蔵から『うちの酒で作ってほしい』との依頼が舞い込んでいます」。夢は全県の酒蔵を制覇することだ。

当初は懸念されたチョコレートと生姜の相性だが、思った以上に受け入れられたことから、新たに「超辛口生姜チョコ」を売り出したほど。また沢渡緑茶や太平洋の完全天日塩など、高知県産の素材をアレンジしたチョコレートも増えている。高知市の「とさのさとアグリコレット」や「土佐せれくとしょっぷてんこす」、越知町の「スノーピークおち仁淀川」など取扱店も拡大中だ。

思いついたら即行動という坂本社長だが、目下の目標は、生姜チョコレートに負けないようなヒット商品を生み出すこと。「忙しいのが私の性に合っているんです」と話す姿は頼もしい限りだ。

「生姜の國のチョコレート」は、ビター、ミルク、ホワイトなどの種類がある。高級感あふれるものやかわいいものなどパッケージもいろいろ
こだわりの「酒蔵トリュフ」は、いずれもガナッシュタイプ。口に含むとふんわりと溶けて、銘酒の味わいが広がっていく大人のチョコレート
トリュフを包む土佐和紙典具貼紙は薄さと上品な色合いが持ち味。「少しでも高知県産品のPRになれば」と願う坂本さんのアイデアでこれを取り入れた
生姜含有量5%のクランチチョコレート。生姜の辛さがガツンと衝撃を与えるが、後口はさっぱり
沢渡緑茶や完全天日塩を使ったチョコレート。茶も塩も高知県の特産品。のし袋のようなパッケージは、ちょっとした手土産としても喜ばれている
株式会社エスエス
住所 高知県高岡郡日高村下分2556-1
電話番号 0889-24-6551
観覧時間 10:00〜18:00
URL https://www.shouga-chocolat.com ※オンラインショップで購入可