「一般社団法人 瀬戸内サーカスファクトリー(以下:SCF)」の代表理事である田中未知子さんは、北海道札幌市出身。北海道新聞社で事業局に所属し、美術展や舞台芸術公演の企画主催に携わっていた。2004年(平成16)、札幌芸術の森という野外ステージがリニューアルオープンする際、柿(こけら)落としでフランスの現代サーカスを招くことが決定。「当時は現代サーカスの何たるかもまったく知らなかったのですが、私はフランス語ができたので、メインの担当者に抜てきされました」と田中さん。
事前のやりとりから当日のサポートまで、現代サーカスの世界に浸った田中さんは、身体一つで芸術を創り、感動を生み出すアーティストたちの姿に衝撃を受ける。最初の公演が成功し、翌年も現代サーカスを招くことになった。もちろん田中さんは担当者として手を挙げ、どんどん現代サーカスにのめり込んでいった。とはいえその時代、国内で現代サーカスの知名度はほとんどない。「これを全国に普及させるために、私自身が日本の現代サーカスのパイオニアになろう」と決意し、2007年(平成19)に新聞社を退社。彼女自身が現代サーカスをより深く学び、それを書籍にまとめるために、現代サーカス発祥の地であるフランスへと渡った。
現地では創作場所や劇場を備えた「フランス国立大道芸サーカス情報センター」を拠点に、カンパニーやアーティスト、学校、劇場、フェスティバルなどを取材。ビザの関係もあり3カ月フランスに滞在したら、帰国して国内で3カ月過ごし、再びフランスへ…という生活を2年ほど続けた。フランスでは現代サーカスの持つエネルギーを肌で感じることができたが、それ以上に国を挙げて現代サーカスを支えるシステムが出来上がっていることに感銘を受けた。帰国後、田中さんは執筆に専念し、本を書き上げた。