四国の真ん中に位置する高知県の山間部、嶺北地域にある土佐町。
人口約4,000人の町の中心部から車で15分ほど離れた石原地区が今回の舞台だ。
300人ほどが暮らす石原地区は、自然に囲まれたのどかな場所。
この地で生まれた新しい特産品「山の辣油(らーゆ)」が今、注目を集めている。
「日本全国にこの地域を知ってもらうチャンス」と、「山の辣油」を手に
東京や大阪をはじめ各地を飛び回る「いしはらキッチン」の皆さんを訪ねた。
地域を次の世代に受け継ぐため
「伝え、つなぎ、そして笑う!」
株式会社 いしはらキッチン
地域の食材を盛り込んだ
辛くて旨い特産品を開発
土佐町の新たな特産品として「山の辣油」が誕生したのは、2021年(令和3)。現在では年間3万個以上を売り上げる、特産品界の注目株である。その「山の辣油」の商品開発を行い、製造を担っているのが、石原地区の食文化を守ってきた人や県外から嫁いできた人、移住してきた人などが集まった「いしはらキッチン」。「それぞれ経歴は違うけれど、石原地区をはじめ、土佐町や嶺北地域の素晴らしい魅力を広めたいという思いを持ったメンバーが集まっているんです」と話すのは、代表の中町小以登(こいと)さん。立ち上げから事業に携わり、法人化した現在は代表取締役を務める。
「山の辣油」開発のきっかけは、誕生の2年ほど前に遡る。「いしはらキッチン」のメンバーであり、嶺北地域の野菜を販売する「sanchikara(さんちから)土佐れいほく」を営んでいる釜付(かまつき)幸太郎さんと上堂薗純高(かみどうぞのよしたか)さんが、高知市内のホテルシェフから「お土産用ラー油の製造を頼める人はいないか」という相談を受けた。二人は、石原地区にある集落活動センター「いしはらの里」で活動する、移住仲間の前田和貴さんに相談。前田さんが「あの人ならきっと一緒にやってくれそう」と頭に浮かんだ人たちに声をかけ、集まったのが現在のメンバーだ。
シェフのレシピに沿ってラー油を製造すること1年余り。コロナ禍の影響によりホテルからの製造委託がなくなったのを機に「せっかくなら地元の野菜をふんだんに使った、体に良いオリジナル商品を開発しよう」と食材を見直すところから開始。辛いもの好きな人が納得するように、じんわりと汗がにじむような辛さを追求。同時に高知県産のカツオや地域で採れたニンニクや玉ねぎ、高知県内でよく食べられているイタドリを入れるなどの工夫を施した。1年以上の試行錯誤を経た2021年(令和3)6月、試作を繰り返して出来上がったレシピを元に「山の辣油」の製造をスタートさせた。


地方が元気になることは
日本の元気につながるはず
本格的な辛さを追求しつつ、ただ辛いだけにはならないように食材の旨味を引き出す。同時に室戸海洋深層水の塩、てんさい糖、有機JAS醤油など、調味料一つひとつにこだわった「山の辣油」は、2022年(令和4)1月「高知家のうまいもの大賞2022」の『高知家賞』を受賞。メディアでの露出も増えたことから注文が殺到した。「一度食べたらやみつきになる」「何にでも合う」と注目されるにつれ、地域の魅力が紹介されることも増えた。「石原地区だけじゃなく、日本全国、どの地域にも素晴らしいものがある。私たちの活動が”地方って素晴らしいんだ”と気付いてくれるきっかけになれば」。次第にそう思うようになった中町さんたちは、この頃から積極的に展示会や商談会に参加。高知県内はもとより、首都圏や京阪神の百貨店やマルシェから出店販売の声がかかることも増えた。「地方が元気になればきっと日本も元気になる」と感じるようにもなり、持続した活動としていけるよう昨年4月には「いしはらキッチン」を法人化した。
現在は週1回、製造担当の5人が集まり900〜1,200個ほどの「山の辣油」を製造。忙しさを感じさせない明るい雰囲気で、メンバーの好きな曲をかけて流れ作業で製造していく。お昼はメンバーの恵子さん手作りのご飯を、みんなで一緒に食べるのがお決まりだ。出来たてのラー油をのせたご飯を頬張り「幸せやねぇ」と顔を見合わせて笑う。誰もが楽しそうで、見ているほうまで笑顔になる。「いしはらキッチン」の社是(しゃぜ)は「伝え、つなぎ、そして笑う!」。「商品をただ売るのではなく、この地にあるものを次の世代につないでいくのが私たちの役目。でも苦しいことは続かないから、いつも笑顔で楽しむのが『いしはらキッチン』らしい仕事の仕方なんです」。中町さんはそう言い、そして幸せそうに笑った。







中/県内のスーパーマーケットで定期的に試食販売を行った
右/今年のゴールデンウイークに大阪の阪急百貨店で出店販売を行った



中/県内のスーパーマーケットで定期的に試食販売を行った
下/今年のゴールデンウイークに大阪の阪急百貨店で出店販売を行った

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