メニュー

四国の列車はバラエティ豊か
「レール旅」で行こう!
(高知県・徳島県)
高知
とさでん交通株式会社 路面電車
路面電車は高知市内のほか、南国市の後免(ごめ
ん)町方面、吾川郡いの町の伊野方面へ走行。高
知市内の均一運賃区間は200円、それ以降は料金
が加算される仕組みになっている。
※2024年10月現在の料金、11月改訂予定
徳島
阿佐海岸鉄道株式会社 DMV
車両に搭載したセンサーや、携帯電話網を利用
した運転保安システムなど、何重もの安全対策
がDMVの走行を下支えしている。 四国の列車はバラエティ豊か
「レール旅」で行こう!
(高知県・徳島県)
高知
とさでん交通株式会社 路面電車
路面電車は高知市内のほか、南国市の後免(ごめ
ん)町方面、吾川郡いの町の伊野方面へ走行。高
知市内の均一運賃区間は200円、それ以降は料金
が加算される仕組みになっている。
※2024年10月現在の料金、11月改訂予定
徳島
阿佐海岸鉄道株式会社 DMV
車両に搭載したセンサーや、携帯電話網を利用
した運転保安システムなど、何重もの安全対策
がDMVの走行を下支えしている。

10月14日は「鉄道の日」。四国には、鉄道ファンに人気の電車や列車が数多くある。高知県を走る、とさでん交通株式会社の「路面電車」もその一つ。市街地では高知城やはりまや橋などの観光名所を背景に走る姿を楽しめ、線路と車道の距離が近い郊外では、自動車と近接して並走する様子が見られる。また外国からやってきたおしゃれなデザインの車両や、車内で宴会を楽しめる「おきゃく電車」なども評判だ。さらに鉄道ファンが集まった「高知の電車とまちを愛する会」が、路面電車を盛り上げようとさまざまな活動を行っている。

徳島県では、阿佐海岸鉄道株式会社の「デュアル・モード・ビークル(DMV)」が2021年(令和3)より運行を開始した。モードチェンジによって1台の車両が、線路と道路の両方を走ることができるもので、世界に類を見ない交通機関として話題を集めている。

地元の人々の足であり、観光資源としても重要な役割を果たしている2つの路線を訪ねた。

※電車の撮影は、乗客や通行人、自身の安全確保に細心の注意を払い、列車の定時運行に支障のないよう行いましょう。また、公共施設や私有地、立ち入りが禁じられている場所には無断で入らないよう注意しましょう。

とさでん交通株式会社
3つの日本一を誇る「とさでん」の電車

とさでん交通株式会社(以下:とさでん)は、1904年(明治37)に土佐電気鉄道株式会社(※1)として路面電車の運行を開始。今年、120周年を迎えた。

とさでんの路面電車は、JR高知駅から桟橋通に向けて南北に延びるほか、東西は南国市、吾川郡いの町にまたがって走行。路面電車でありながら市域を越えて走行している珍しい電車だ。「とさでんには、3つの日本一があるんですよ」と話すのは、電車事業部電車企画課の高橋美穂さん。1つ目は現存・継続している路面電車としては日本最古であること。とさでんの運行開始は全国で10番目であったが、時代の流れの中で先発の路線が廃止されたため、現在は日本最古の路面電車となっている。

2つ目は、軌道路線距離が約25.3㎞と日本最長(※2)であること。路面電車は一般的に短距離の旅客輸送手段。なぜ、これほどの距離を走っているのか。その理由として考えられるのが、運行開始時、電車が旅客輸送とは別の大事な役割を担っていたこと。「いの町の特産品である土佐和紙を、高知市の桟橋にある船着場まで運搬するというのが、電車運行の目的だったといわれています」と高橋さん。電車がない時代、紙の輸送手段は馬車や手押し車。港のある桟橋まで運ばれた和紙は、船便で京阪神へと出荷されていた。労力もコストも時間もかかっていたが、電車開通により港までの輸送は一気に負担が軽減された。電車はいの町の製紙業の発展にも一役買っていたのだ。

3つ目は、日本最短(※3)の電停間の距離があること。一条橋駅と清和学園前駅は、約63mしか離れていない。1985年(昭和60)に清和女子中・高等学校が高知市から南国市へ移転した際、生徒の利便性を考慮して清和学園前駅を新設。一方で地域からは「慣れ親しんだ一条橋駅を無くさないでほしい」との声が多く、このような形になった。乗降客が多ければ、2つの駅の間は歩いた方が早いこともある珍名所となっている。

※1:2014年(平成26)に土佐電気鉄道と高知県交通、土佐電ドリームサービスの3社を統合し、とさでん交通株式会社となった。

※2・3:いずれも路面電車として日本一。

1904年の運行開始時に走った第1号電車
(提供:とさでん交通株式会社)
特色のある車両は「とさでん」の名物

とさでんの代名詞にもなっているのが、鉄道ファンを魅了する外国電車である。1990年(平成2)に導入されたのは、ポルトガルのリスボンで走っていた車両。1947年(昭和22)にイギリスで製造された車両だ。当時、「他の路面電車にはない特徴を出したい」と考え、買い付けを行ったという。その後、オーストリアのグラーツ、ノルウェーのオスロを走っていた車両も仲間入り。運行開始時に走行していた7型車両を復元した「維新号」を含めた計4台のレトロな電車は、貸切やイベント運行で人気を博している。

また「おきゃく電車」は、酒宴が文化として根付いている高知らしい企画電車だ。車内が宴会場となり、特製のお弁当に舌鼓を打ちつつ車窓の景色を楽しむという趣向が人気だ。基本的には貸切で運行しているが、毎年3月に開催されるイベント「土佐のおきゃく」の際には、乗り合い電車も登場。このほか、車両をLEDで飾り付けたイルミネーション電車、子どもたちが願い事を書いた短冊を吊るした七夕電車、走るアートを思わせるラッピング電車など、折に触れて工夫を凝らした電車が町を走り、乗る者も見る者も楽しませてくれている。

120周年を迎えた今夏、新たな試みとして、外国電車や維新号に乗り、工場や車庫の内部を見学する「貸切電車で行く とさでん交通工場・車庫見学ツアー」を開催した。「今後、年2回程度の開催を予定しています。とさでんの新たな名物となればうれしい」と期待する高橋さんだ。

(01-03)現在はとさでんで走る、外国から導入された電車

01_イギリスのCCFL社で製造されたリスボン市電の電車

02_とさでんと提携協定を結んだグラーツ市電の電車

03_大胆な流線形のデザインが目を引くオスロ市電の電車

04_明治時代の電車を模して復元した「維新号」。台車は廃車となった321号を使用

05_車内に掛けられた注意事項も、明治時代のものを再現した

06_伊野線県庁前駅付近では、車窓から高知城が見られる。下車すれば電車と城の撮影も可能だ

07_かつて和紙を運んでいたという歴史にちなんで、今年5月に愛する会が走らせた電車。仁淀川で泳がせた和紙の鯉のぼりをつけている(撮影:浜田光男さん)

08_通票式のタブレット交換(※)の様子(撮影:浜田光男さん)

※単線区間への複数車両の侵入を防ぐため、タブレットと呼ばれる楕円状の道具を運転士同士が交換する。全国でも珍しいシステムだったが、昨年4月に廃止

鉄道ファンが集った路面電車の応援団

1992年(平成4)に発足した「高知の電車とまちを愛する会(以下:愛する会)」は、全国的にも知られたとさでんの応援団で、小学生から90代まで約60人が所属している。発足のきっかけとなったのは、とさでんの外国電車保存活動が、鉄道愛好者の任意団体「鉄道友の会」から賞を授与されたこと。5代目会長を務める浜田光男さんは、「鉄道好き、電車好きにとっては名誉のある大きな賞。これを機に、高知県にも路面電車の愛好会を作ってはどうかという話が出たのです」と話す。そこで鉄道友の会の会員を中心に有志が集まり、県内外の方に高知県の路面電車をPRし、利用促進につながるような活動をしようと、愛する会を立ち上げたのだ。

講演会や研究会、写真展の開催、路面電車のある他地域との交流、路面電車に関する情報収集や広報など、愛する会の活動は多岐にわたっている。2012年(平成24)から始めた冬の風物詩「イルミネーション電車」などの企画も、愛する会の取り組みとして定着している。「金太郎電車」の復活にも愛する会が尽力した。昭和20年代後半、全国の鉄道で金太郎の腹掛けのような塗装(金太郎塗り)が施された電車が流行し、高知の路面電車でも採用されていた。いつしか姿を消したが、これを惜しんだのが愛する会である。2015年(平成27)、昭和20年代に製造された207号に金太郎塗りを施した。この電車の床は、往時のままの板張り。日本のレトロを味わうことができる。

会員の活動は手弁当で行われている。その原動力となっているのが、会員それぞれの電車愛だ。例えば浜田さんは、学生時代から専門誌に鉄道関連の写真や文章を投稿するのを趣味としていた。今や、出版社の依頼を受けて執筆を行うこともある。事務局長の田村倫子さんは、資料を収集し、書籍を調べたり聞き取りを行ったりして、電車の歴史を研究。「何より好きなのは電車に乗ること。電車に揺られているだけで幸せな気持ちになれるんです」とほほ笑む田村さん。愛する会の電車愛は、これからも、とさでんを支えていく。

09_電車企画課の高橋美穂さん(左)と電車輸送課の立田勝利さん

10_左より「高知の電車とまちを愛する会」の浜田会長、とさでんOBで電車の“生き字引”山本淳一さん、事務局長の田村倫子さん、路線や電車の型式に詳しい野口政利さん。多様な会員の電車愛が会を支えている

11_車両基地である桟橋車庫。メンテナンスもここで行われる

12_とさでん本社敷地内の厚生棟ではオリジナルグッズを販売(写真はコースター)

13_愛する会が2015年(平成27)、電車が走り始めて111周年を記念して復活させた「金太郎電車」。1月11日11時11分に高知駅に向けて桟橋車庫を出発した

14_201号の70歳を祝って走らせた古希電車。車内で一絃琴ライブも行われた。演奏は愛する会の前会長(現顧問)松尾眞里子さんと田村さん(撮影:浜田光男さん)

15_路面電車は時速約30kmで走行。高知の景色をゆっくり眺められる速度だ

とさでん交通株式会社
住所 高知県高知市桟橋通4丁目12-7
電話番号 088-833-7111
URL https://www.tosaden.co.jp/
高知の電車とまちを愛する会
メール jimukyoku@kochi-tramtown.sakura.ne.jp
URL https://kochi-tramtown.sakura.ne.jp/
阿佐海岸鉄道株式会社
鉄道空白地帯を結ぶ新しい乗り物を開発

徳島県牟岐(むぎ)町と高知県南国市を結ぶ阿佐線は、かつて国鉄(日本国有鉄道)が計画していた路線。しかし、牟岐駅と徳島県海陽町の海部(かいふ)駅の区間が開業した段階で、国鉄再建法の施行により工事は中断してしまう。その後、残りの区間を建設するために第三セクターの阿佐海岸鉄道株式会社(以下:あさてつ)が設立され、1992年(平成4)、阿佐東線として、海部駅と高知県東洋町の甲浦(かんのうら)駅間で列車の運行が開始した。一方、高知県側からは土佐くろしお鉄道により、後免駅・奈半利(なはり)駅間の運行が始まった。

あさてつの代表取締役専務を務める大谷尚義さんは「当初の予定からすると、甲浦と奈半利は鉄道の空白地帯になってしまいました。この区間を結ぶ路線を整備することは、沿線の自治体の悲願となったのです」と話す。その手段として15年ほど前から目を付けたのが、デュアル・モード・ビークル(以下:DMV)。鉄道とバスの2つの機能を持つ乗り物だ。

開発・導入にはいくつものハードルがあった。まずは鉄路と道路、その両方を走れる車両の開発。マイクロバスをベースにした車両は乗降口が進行方向に対して左側にしかなく、高さも列車に比べると低い。そのため、既存のホームでは安全に乗降ができない。また海部駅、甲浦駅ともに高架駅であるため、どうやって道路と接続するかも問題となった。

「設備投資に潤沢な資金があるわけではありません。いかにしてコストを抑えるかに頭を悩ませました」と大谷さん。道路と鉄路の接続について目を付けたのは、海部駅の1つ手前、JR四国の阿波海南駅である。地上駅であるこの駅を買い取り、モードインターチェンジ(バスから列車への変更地点)を設置。海部駅、宍喰(ししくい)駅、甲浦駅のホームには空きスペースに専用ホームを設置した。

こうしたインフラ面だけではなく、既存のバス路線との共存も課題に。料金設定やバス停の位置などの検討が重ねられた。関係者の努力で数々の課題をクリアし、2021年(令和3)12月25日、ついに待望のDMVが運行を開始。初年度の乗客数は約4万人、運賃収入は対前年比232%、グッズ販売や有料視察受け入れなどの営業外収益は同1045%と驚異的な伸びとなった。

01_手前より1号車「未来への波乗り」、2号車「すだちの風」、3号車「阿佐海岸維新」

02_「3台の車両をやりくりしつつ、利用者を喜ばせる仕掛けをしたい」と話す大谷専務

03_鉄道モード時の時速は約60km。高架を走行するので、海まで見通せる場所もある

04_駅にはシェアサイクルが完備されており、周辺観光の足として役立っている

05_「赤字からの脱皮を目指す」というシャレで誕生した宍喰駅の駅長は伊勢エビ

06_鉄道路線にはトンネルが19カ所あるが、うち1つは山がない不思議なトンネル

生みの苦労を乗り越えて得たのは確かな手応え

「今は手応えと課題、その両方を実感しています」と大谷さん。DMVを目当てにした観光客は目に見えて増えており、アンケート調査では利用者の95%が観光客であることが分かった。それに伴い、地域経済効果も派生している。一方で1台の座席数は18席(+立席3)と少ない。そのため観光シーズンには臨時便を出すなどの対応を行っている。

他の鉄道会社と違って、運転士は鉄道車両とバスの両方の免許が必要だ。「それに伴って、人材の確保・育成には、いっそう力を入れているところです」と大谷さん。さらに安全運行のためのシステムは、常にアップデートを行っている。

列車とバスの二刀流であるDMVには、もう一つ大きな役割がある。それは、大規模災害が発生した際の移動手段としての機能である。地域の交通網が途絶した場合、DMVの機能を活用し、残った線路と道路をつなぐことで交通網を維持。被災地への支援を行うことが期待されている。

視察は年間20自治体ほど受け入れている。「実際に、導入を検討している地域もあるようです。先進地域として、国内や海外にノウハウを提供し、DMVの輪を広げたい」と大谷さんは話す。

地域密着型の鉄道会社は、大きな夢に向けて走り続けている。

07_バスから列車へモードチェンジするのは2カ所。運転士がしっかりと目視確認を行っている
08_海岸線を走るバスモード。爽快なドライブ気分を味わえる
09_バスモード時は鉄輪を内部に格納
10_車両を模したペーパークラフト。モードチェンジもできる
阿佐海岸鉄道株式会社
住所 徳島県海部郡海陽町宍喰浦字正梶22-1
電話番号 0884-76-3701
URL https://asatetu.com/