野菜や柑橘などの品種改良が盛んな四国。
花卉(かき)においても、地形や気候を生かして育む独自のブランドが生まれている。
なかでも珍しいのが、淡いミントグリーンの花が咲く「ロータスリリー」だ。
高知県嶺北(れいほく)地域でのみ栽培されている。
愛媛県では県農林水産研究所が長い歳月をかけて開発し、2015年(平成27)に登録したデルフィニウム「さくらひめ」が評判。
桜を思わせる可憐な姿をした花だ。
四国で生まれた2種の花、その栽培・普及に取り組む「花咲か人」にスポットライトを当てた。
野菜や柑橘などの品種改良が盛んな四国。
花卉(かき)においても、地形や気候を生かして育む独自のブランドが生まれている。
なかでも珍しいのが、淡いミントグリーンの花が咲く「ロータスリリー」だ。
高知県嶺北(れいほく)地域でのみ栽培されている。
愛媛県では県農林水産研究所が長い歳月をかけて開発し、2015年(平成27)に登録したデルフィニウム「さくらひめ」が評判。
桜を思わせる可憐な姿をした花だ。
四国で生まれた2種の花、その栽培・普及に取り組む「花咲か人」にスポットライトを当てた。
四国中央部に位置する高知県大豊町、本山町、土佐町、大川村を総称して「嶺北地域」と呼ぶ。一帯は標高200〜1800mの高地で、山間を吉野川が流れている。夏の涼しい気候や豊富な水を生かして栽培されているのが、希少なユリ「ロータスリリー」だ。
1994年(平成6)、本山町の藤原厚志さんはスカシユリ系のサンシーロという品種から突然変異が生じているのを発見。花卉農家の藤原さんは、「ハウスの中の1本が他のつぼみと形が違い、丸みがあることに気づいたんです」と振り返る。突然変異かもしれないと2週間ほどその花を見守った藤原さん。やがて開いた花は、薄いグリーン。花びらは幾十も重なっていて、まるでハス(ロータス)の花のようであったため「ロータスリリー」という愛称がつけられた。
その花姿に魅せられ、新種であると確信した藤原さんは高知県農業技術センターに相談し、「“ロータスリリー”を従来のユリのイメージが変わるような花に育てたい」と組織培養を依頼。安定して同様の花が開花し続けたことで、6年後に国の品種登録を果たした。藤原さんがつけた花の名は『ノーブル』。「最初に見たときの、高貴な美しさは飛び抜けていました。その印象を名前に込めたんです」とほほ笑む。
花卉栽培は、種や苗を仕入れて行うことが多いが、『ノーブル』は球根づくりから一貫して自家で担う。ほぼ手作業となるため育てられる本数は減ってしまうが、藤原さんは品質を良くするために、これを貫いた。幸いなことに、涼しげな色合い、4〜8月、11〜1月という出荷時期の長さが商品価値へとつながった。またユリでありながら、強い匂いや花粉がないことも注目された。
さらに2014年(平成26)以降、藤原さんは新たな突然変異を見つけた。八重咲きの『ノーブルアイカ』、縦長に伸びた花が特徴の『ミミテール』、花弁に斑点が少ない『ノーブルSP』。現在はこれらの栽培に妻の美鈴さんと二人三脚で取り組んでいる。「手間のかかる花ですが、それだけに可愛さもひとしお」と目を細める藤原さん。突然変異を発見できたのも、藤原さんが愛情たっぷりに花と接していたからに違いない。
代々受け継がれてきた農地でユリとトルコギキョウの栽培をしていた土佐町の上田裕介さんは、20年以上前、藤原さんから分けてもらった球根で『ノーブル』の栽培に挑戦した。「嶺北地域だけの花というのに魅力を感じて、徐々に栽培数を増やしていったんです」と上田さん。
栽培開始から数年、上田さんは形の違うつぼみがあることに気づいた。開花したら花弁が細く、数も少ない。「突然変異だ!」と確信した上田さんは、喜びと同時に戸惑いを感じた。『ノーブル』はもともと藤原さんが発見した花。通例では、派生品種は藤原さんのものとなる。とにかく藤原さんに報告を…と足を運んだところ、「自分でやったらいいよ」と上田さんの品種にすることを許可してくれた。同じように球根養成からやっているから、藤原さんの苦労は理解できる。「それだけに藤原さんの言葉はありがたかった」と上田さん。
その恩に報いるために、徐々に栽培数を増やし、2016年(平成28)から本格的に出荷を始めた。品種登録の際には、娘さんの名前から『みもり』とネーミング。15棟のハウスで球根養成と花の栽培に取り組み、JA高知県を通して約3万5,000本を東京都(中央卸売市場 大田市場)などに出荷している。
2022年(令和4)、上田さんのもとにうれしいニュースが舞い込んだ。園芸王国オランダで開かれた園芸博覧会「フロリアード2022」の花き品種コンテストで、『みもり』が独創的であると世界最高の評価を受けたのだ。「世界に通用する花をつくるという、花卉農家として、大きな夢を叶えることができました」と胸を張る。海外からの引き合いもあるそうだが、課題は生産量。国内需要に応えるのが精一杯だ。少しでも増やしたいと考えているが、年間を通じての働き手は自分だけ。今年は、そうした状況を打開しようと研修生の受け入れを予定している。
また花のほとんどが首都圏に出荷されるため、県内や四国内での知名度は今ひとつ。「生産量を増やせば地元での流通も増える」と意気込んでいる。花への愛情を胸に、大きな成果を咲かせようと奮闘する上田さんだ。
上 /土中で育った球根を分球し、用土に入れることで球根を増やしていく。左は分球したばかり、右はそれを育てた球根
下左/冷涼な気候と豊富な水に恵まれた嶺北地域。ハウスの周囲は山並みに囲まれている
下右/「大部分は大消費地に送られますが、出荷時期に嶺北地区の産直にロータスリリーが並ぶことも。また近所の花屋さんに注文していただいたら、手に入れることができるかもしれません」とJA高知県で営農指導をしている河野匡史さん
電話番号 | 0887-82-2803 |
---|---|
URL | https://ja-kochi.or.jp |
グリーンのスポットがエクボのようで愛らしい「さくらひめ」。主に切花用の品種として育成され、適切に管理すれば切花で1カ月程度もつ場合も。近年は鉢物化も進められている。また、「さくらひめ」の花酵母による地酒醸造など新たな取り組みも愛媛県を挙げて始まっている
品種改良や栽培方法などの研究を通じて、花卉農家を支える愛媛県農林水産研究所が、2015年(平成27)に品種登録をした「さくらひめ」。愛媛県のオリジナル品種で、交配・開発に10年以上費やしたデルフィニウムの一種である。生花の少ない冬場も収穫できるのが売り。愛らしいピンクの花弁は桜の花に似ており、花びらの外側にあるグリーンのスポットがアクセントになっている。5年前から「さくらひめ」の栽培を始めたのは、道後花園の森悟(もりさとし)さん。約20年前に異業種から花卉農家に転身し、ユリの栽培をしていた。
しばらく順調だったが、6年前に窮地に陥った。「うちの卸先は北海道のみだったので、輸送費の高騰の影響が出始めていました」。追い討ちをかけるように施設栽培に必要な燃料費も上がっていく。また花卉の世界は流行の移り変わりが早い。「希少性が高く、競争力のある花を育てたい」と考えた森さんが選んだのは「さくらひめ」。県内の生産者と共に「さくらひめ」の生産を盛り上げたいと考えた。
ところが、栽培は思った以上に大変。成長期間中は、花に十分な栄養を与えるための摘葉(てきよう)作業に追われる。とはいえ、これをしっかりすることで茎が伸び、切り花のアレンジもしやすくなる。
森さんの農園は松山市郊外の山間にあり、豊富な湧水に恵まれている。収穫時期の12月から5月は、クリスマスやバレンタインデー、入学・卒業式、母の日など花が必要となるイベントが目白押し。また愛媛県が、収穫期に合わせた催しなどで知名度向上をバックアップしている。森さんは「多くの人に好まれる可憐な花です。贈り物にさくらひめを選んでもらえるように頑張りたい」と作業に取り組んでいる。
左上/摘葉作業に汗を流す森さん。「手作業なので時間がかかり、ようやく終わったと思えば次の葉が伸びているんですよ」と苦笑い
左下/ハウス内では電灯で開花をコントロール。出荷時にベストの状態へと調整
右 /生産者の森さん(右)と、イベントなどを開催し「さくらひめ」の普及に取り組む、愛媛県中予地方局産地戦略推進室の藤堂 妃(きさき)主任(左)
電話番号 | 089-909-8763 |
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URL | https://www.pref.ehime.jp/soshiki/201/ |
東温市商工会女性部の有志約40人が「さくらひめの生産者を応援したい」と、2017年(平成29)に結成したのが「さくらひめの郷®」。主な事業は「とうおんしあわせ便」の発送。いわゆる産直便だが、「生産者によって花に個性があります。それを見極めながら、商品づくりをしています」と話す。多い年には100件以上の注文が入り、リピーターも多いそう。「さくらひめ」の押し花を使ったアクセサリーなどを制作し、イベントでのPRも精力的に行っている。今後はSNSでの情報発信にも力を入れる予定。女性部部長の大政美智子さんは「リピーターの皆さんから、やさしいピンクに癒やされるとのお言葉をいただいています。さくらひめを知らない、特に若い方にこの魅力を知っていただきたいですね」と話す。
電話番号 | 089-964-1254 |
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FAX | 089-964-3938 |
URL | https://sakurahimenosato.com |