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徳島育ちのスーパーフード たかきびの可能性(徳島県) 徳島育ちのスーパーフード たかきびの可能性(徳島県)

01_あんに代替肉として「たかきび」を使った焼餃子。徳島市に本社を置く株式会社ふじやが開発した

02_磯貝さんらつるぎ町の生産者による「つるぎ雑穀生産販売組合」は、統一のラベルで商品を販売。「道の駅 貞光ゆうゆう館」などで販売している

さまざまな分野で多様性が求められている現代社会、食べ物においてもその傾向は顕著で、ベジタリアンやヴィーガン対応の飲食店も増えてきた。これらは宗教上の理由などから動物性食品が食べられない人のための料理を提供する店で、海外からの留学生やビジネスパーソンに重宝されている。またアレルギーや減カロリーのために、できるだけ動物性食品を口にしないようにしている人にも利用されているようだ。

こうした動物性食品不使用の料理においては、大豆など豆類を原料とした代替(だいたい)肉を取り入れることが多い。肉のような食感やボリューム感を楽しめる食材として、世界各国で開発が進んでいる。そんな中、代替肉の素材として、徳島県の山奥で栽培される「たかきび」に目を付けた食品会社がある。たかきびはどのような穀物なのか。そしてどのように加工したのか。可能性に満ちた食材・たかきびを巡る人々の姿を追いかけた。

03_刈り取ったたかきびは、穂を下にして吊り下げ、時間をかけて乾燥させる。傾斜地で農耕に従事している磯貝家では雨が当たらないよう、深く出した軒の下がその場所になっている

04_脱穀したたかきびは、丁寧にゴミなどを選り分けてから出荷している

05_除草に勤しむ磯貝ハマ子さん。傾斜地での作業は足腰への負担が大きいが、「もう慣れましたよ」と話す

この地の農業を未来へ 脱サラをして就農

「にし阿波」と総称される徳島県西部の美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし市。標高100m〜900mの山間地域で、急峻な傾斜地で営む農耕や景観、文化などが「にし阿波の傾斜地農耕システム」として、2018年(平成30)に世界農業遺産に認定された。最も急なところで斜度が40度にもなるという畑では、野菜のほかソバやはだか麦、粟、こきびなどの雑穀が栽培されている。たかきびもその一つで、かつては米に混ぜてよく食べられていた。そのため戦後の食糧難の時代には全国各地で栽培されていたそうだが、やがてそれも廃れてしまった。しかし近年は食物繊維や鉄分、マグネシウムなどを多く含む栄養豊富な健康食品として人気が高まってきている。

つるぎ町の標高400mの集落で、たかきび栽培に取り組んでいるのは磯貝一幸さん。農業は彼で17代目。先祖が400年以上前に田畑を切り開いたと伝えられている。足場が悪く、農耕機がほとんど使えない傾斜地での農耕は、夫婦や親子など複数で役割分担をしないと作業がこなせない。「長らく両親が頑張ってくれていたのですが、数年前、膝を悪くした父の勝幸の様子を見て、これは手助けをしないわけにはいかないと考えました」と話す。当初は勤め人をしながら休日に作業を手伝っていたが、徐々に「傾斜地農耕システム」の未来に危機感を感じ始めた。周囲の農家はほとんどが高齢者で、農業を断念する人もいたからだ。

「せっかく世界農業遺産に認定されたのに、このままではこの地の農業が消滅してしまう」と、一幸さんは5年前に思い切って勤めを辞めて専業農家となった。安定した収入を手放すことに不安がなかったと言えば嘘になる。「夫もその点は心配していたよ。それでも継いでくれたことをうれしく思っていたね」と母のハマ子さんは振り返る。勝幸さんに教えを乞いながら、農業人としての道を歩み始めた一幸さんを、ハマ子さんも支えた。そんな二人の姿に安心したかのように、勝幸さんは今年春に旅立った。

06_たかきびを栽培している磯貝ハマ子さんと息子の一幸さん。一幸さんは5年前、両親を支えたいとの思いから会社勤めを辞めて、就農した

07_順調に成長しているたかきび。一雨降るごとに背が伸びて、収穫前には3m以上にもなる

安定した収穫のために試行錯誤の日々

磯貝家の農地は斜度15度と傾斜は比較的緩やかだが、作業の負担は決して小さくない。まず農地整備をするためには、畝(うね)にカヤをすき込まなくてはならない。専用の畑であるカヤ場で栽培したカヤは表層土の流出を防ぎ、畑の保湿や保温、遮光などの役割を担い、肥料としても作物の役に立つ。一般に保湿などの目的で敷くマルチシートは、使用後は取り除かないといけないが、自然素材であるカヤはそのままにしておいても土に返る点がメリットだ。加えてカヤ場は野草や昆虫、鳥類など多様な動植物を育み、山の生態系を維持するのにも貢献している。

傾斜地農業は多品種を少量ずつ栽培するのが基本。多くの作物では自家採種を行うため、昔からその土地で育てられてきた在来種を代々引き継ぎながら守ることにもつながっている。

「とにかく手間がかかりますが、環境への負荷を最小限に抑えて、自然と共生する農業。作業をするたびに先人の知恵に敬服します」と一幸さんはほほ笑む。

多品種のうちの一つであるたかきびは、スーパーフードとして注目され始めたことから、取引は増加傾向にあった。しかし栽培が難しく、一幸さんの周囲の人たちは、収穫量を増やすことに二の足を踏んでいた。一番のネックとなるのは3m以上にもなる草丈。また実入りがバラバラなので、暑さが厳しい8月末に1株ごとに確認をしながらの収穫は、時間も労力もかかる。

ところが2年前、そんな苦労が吹き飛ぶようなうれしい話が舞い込んできた。徳島市でたかきびの加工食品づくりに取り組もうと考えていた株式会社ふじやから、「ぜひ、にし阿波の傾斜地で育ったたかきびを商品に生かしたい」というオファーを受けたのだ。一方で課題は次々と襲いかかる。昨年は酷暑や小雨の影響を受けて収穫量が激減。今年は灌水のタイミングなどを工夫。「しっかりと収穫量を確保したい」と意気込む一幸さんだ。

08_畝にカヤをすき込むのも手間暇がかかる作業。カヤは肥料としても有効であることから、この地方では「コエ(肥)」とも呼ばれている

09_一口に「傾斜地」と言っても、高度や日照条件により、育てる作物、種まきや収穫の時期は大きく異なる。磯貝家の畑は、「ヒノジ」と呼ばれる南向きの斜面

10_金時豆は、次の栽培に使うために乾燥させて種を取る

11_磯貝さんの自宅や農地は、山の稜線を見下ろす場所にある。のどかな風景でありながら、そこで営む農耕は試練が多い

12_町内には江戸時代末期に整備された「端(はば)四国」の札所がある。これは多忙な農作業の合間にお参りできるようにとつくられたミニ四国八十八カ所。磯貝家の前には第二十三番みきとち堂がある

13_たかきびはご飯と一緒に炊くと、粘り気が出て、独特の噛みごたえを楽しむことができる

独自技術で叶えた超薄皮餃子がヒット

徳島市に本社を置き、外食チェーンを展開する株式会社ふじやは、セントラルキッチンで食品を加工し、自社店舗やスーパーマーケットに卸していた。10年前から新たなチャレンジとして、他にはない餃子の開発に着手。試行錯誤を重ねていた。そこで参考にしたのが、一般の人の味覚だ。「徳島びっくり日曜市に出店し、来場者の声に耳を傾けたんです。一番多かったのが、『餃子は熱々ならおいしいが、冷めると皮が固くなって食べにくい』という声。特に皮がモサモサとして食べにくくなるという意見が多かったんです。そこで冷えてもおいしい薄皮餃子にしようというコンセプトが生まれました」と話すのは、食品事業部次長の粟飯原佳浩(あいはら よしひろ)さん。通常の薄皮餃子の皮の厚さが0.8mm程度なのに対して、同社は独自技術で0.52mmに抑えた。

超薄皮餃子に手応えを感じた同社は無人店舗による冷凍餃子販売を四国で初めて開始。超薄皮餃子は、ヒット商品となった。ライバルも続々とこの業態に参入し、やがて無人餃子販売はダウントレンドとなっていく。そこで2023年(令和5)頃より、他社にはない餃子の「あん」の開発に着手することを決めた。

14_左より、株式会社ふじや 食品事業部次長の粟飯原佳浩さん、主任の櫻井圭子さん、工場長の香西正樹さん

15_餃子に入れるあんづくり。「何もつけなくてもおいしい」という評価もある自慢のあんだ

16_一般の餃子と比較し、皮は3割程度薄い

17_独自の包あん技術で、手包みのように仕上げているのが特徴

健康に寄与できるスーパーフード餃子

新商品開発の鍵となったのは、徳島県が糖尿病の都道府県ランキングでワースト2位(※)であるという不名誉な記録。「私たち開発チームは、体に良くておいしいという方向性で食材探しに取り組みました」と香西(こうざい)正樹工場長。当時話題となっていた昆虫食、椎茸、コンニャクなど、さまざまな食材で試作を繰り返し、行き着いたのはヴィーガン餃子。当初は大豆ミートを使用したが、どんなに味付けを工夫しても独特の大豆臭やもっさりとした食感が気になる。

そんなとき、原点に返ろうと目を向けたのが徳島県産の食材。そこで出合ったのは、にし阿波地方で栽培されている「たかきび」だ。当時、ポリフェノールによる抗酸化作用や豊富なビタミンB群を含んだスーパーフードとして注目を集めていた「たかきび」を取り寄せ、あんを試作した。開発チームが驚いたのは、加熱した時の食感。もちもちとした歯応えはひき肉そのもので、赤い色もひき肉のよう。それをよりおいしく仕上げるために独自の味付けを施して、熟成させる方法を編み出した。開発に費やしたのは約2000時間。新商品「NIKUGOE(にくごえ) たかきび雑穀餃子」は、2024年1月1日より販売をスタートした。

※厚生労働省 平成30年人口動態統計

18・19_「NIKUGOE たかきび雑穀餃子」は、特定非営利活動法人ヴィーガン認証協会が定めるヴィーガンの認定基準を満たしている商品。直営飲食店「焼肉天山閣」では、たかきびを使ったハンバーグ(左)や揚げ餃子(右)を提供している

20_「NIKUGOE たかきび雑穀餃子」は、一般社団法人日本雑穀協会が主催する「日本雑穀アワード2025《一般食品部門》」で金賞、第82回ジャパン・フード・セレクション食品・飲料部門でグランプリを受賞するなど高評価を得ている

日本雑穀アワードで金賞を獲得!

現在、「NIKUGOE」は四国内にある直営の無人販売店、約70店舗のスーパーマーケットで販売されている。リピート購入者も多く、売り上げは右肩上がりだ。たかきびの揚げ餃子は直営飲食店の一部でも提供しているが、肉を使っていると勘違いするお客さまもいるという。

さらに追い風となったのが、今年春、一般社団法人日本雑穀協会が主催する日本雑穀アワード一般食品部門において、たかきび餃子が金賞に輝いたこと。世界農業遺産に認定された地元食材を生かそうとする姿勢も、高評価へとつながったそうだ。

順風満帆な滑り出しだが、課題がないわけではない。それは材料であるたかきびの確保だ。昨年の不作の際には一部を国内産のたかきびに切り替えたが、やはり徳島産でつくりたいというのが正直なところだ。粟飯原さんや香西さんは定期的に磯貝さんら生産者の元を訪ねて、コミュニケーションを取りながらエールを送っている。

「たかきび餃子は、高付加価値の商品づくりで農家さんを支え、お客さまの健康な暮らしにも寄与できる、まさに一石二鳥の商品。にし阿波の傾斜地農業を未来につないでいくために、私たちの果たすべき役割は大きい」と粟飯原さんたち。小粒なたかきびに秘められた大きな可能性を、誰よりも信じている開発チームなのだ。

21_「NIKUGOE たかきび雑穀餃子」は四国内の一部スーパーマーケットや直営の餃子販売店「餃子 香月」より購入可能

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食の可能性を広げる技術革新「フードテック」

『四国4県フードテック事例集』(発行元:四国経済産業局)

食に関するさまざまな課題を解決し、食分野に技術革新をもたらす「フードテック」。「Food(フード)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、今回ふじやが新たに確立した、たかきびを原料として、肉のような食感やボリューム感を楽しめる食材をつくる技術はフードテックに該当する。四国経済産業局発行の『四国4県フードテック事例集』では、ふじやをはじめ、フードテック分野で先進的な取り組みを進める四国の企業が紹介されている。

『四国4県フードテック事例集』
URL https://www.shikoku.meti.go.jp/01_releases/2025/03/20250318a/20250318a.html
株式会社ふじや
住所 徳島市国府町日開字東456-2
電話番号 088-642-0050
URL https://www.fujiyanet.co.jp/

※「NIKUGOE」メニュー提供店

焼肉天山閣 国府店
住所 徳島市国府町井戸字堂ノ裏38-5
電話番号 088-679-8929
URL https://tenzankaku.jp/
焼肉天山閣 中吉野店
住所 徳島市中吉野町1丁目13
電話番号 088-678-4029
URL https://tenzankaku.jp/